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思い出の夏祭り 〜君が私の気持ちに気づくまで〜  作者: 長岡更紗


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22/80

22.ホテル

 三島さんが連れて行ってくれたのは、市内で有名な鳥白グランドホテルの最上階、お洒落なバーラウンジだった。

 バーって言うから市内の繁華街の地下の、小さなバーを想像しちゃってたんだけど……思えば、皇商事の社員だもんね。こういうところの方が慣れてるのかな。

 窓際の席は、夜景が良く見える。


「ここの夜景が綺麗で好きなんだよね」


 三島さんが微笑みを浮かべながらそう話しかけてくる。うーん、夜景かぁ。


「うちの病院からも、夜景が綺麗に見えるんですよ。小児病棟は十階だし、ここより高いかな? こんな夜景を見てると、夜勤を思い出しちゃうなぁ」

「そ……そっか」


 あれ? あ、もしかしてこういう時はちょっとバカっぽくても『すごーいきれーい』なんて言葉を言っておくべきだった? 折角連れてきてもらったのに、悪いこと言っちゃったかな。

 ちょっとショックを受けてそうな三島さんだったけど、すぐに気を取り直したみたいで、私たちはお酒を飲みながら軽い食事を楽しんだ。


「大樹は今、なにしてんの?」

「お兄ちゃんは今、他県の病院で、レントゲン技師をしてますよ」

「そうなのか。元気?」

「元気ですよー。相変わらず一人でフラフラしてますけど」

「っぷ、フラフラって」


 三島さんは、眼鏡の奥の瞼を優しく細めて笑っている。


「ミジュちゃんは? 誰かいい人いないの?」

「い、いませんよ」

「まぁ折角の日曜に、バレーの試合観戦で一日潰してるんだもんな。恋人はいないか」


 三島さんは、世の中のバレー観戦好きにものすごい失礼なことを言って、ハハハと笑っている。

 まぁ確かに私には、恋人はいないんだけど。


「けど、おかげでいつも練習に来てくれて有難いよ。ボール出しとか球拾いまでさせて、申し訳ないけどさ」

「ううん。みんなが頑張ってるの見るの、楽しいし」

「晴臣や鉄平なんか、ミジュちゃんがいる時といない時とじゃ、全然気合いが違うから、笑いそうになるよ」

「そうなんですか?」


 それって……拓真くんは変わらないってことだよね。まぁ、当然なんだけど……。

 そんな話をしながら、しばらくゆっくりとお酒を飲んでいると、スマホにメッセージが入った音がした。

 しまった、こういう時はマナーモードにしとかなきゃいけなかったんだっけ。


「ご、ごめんなさいっ」

「いいよ、どうぞ」


 三島さんに促されてスマホを確認すると、拓真くんだった。


『まだ飲んでるのか? そろそろ切り上げた方がいいと思うけど』


 絵文字もなにもなくて、なんだかちょっと怒っているような文章に見える。それとも、心配してくれているのかな?


『ありがとう、大丈夫。適当に帰るよ』


 時刻はもう夜の十時に近かった。確かにそろそろ切り上げた方がいいかもしれない。


『今どこ?』


 拓真くんのその問いに、私は素直に場所を伝える。


『鳥白グランドホテル』

『今すぐ帰ってこい!』


 間髪入れずに返事が戻ってきた。しかもなぜか命令口調。なにかあったのかな。


「三島さん、ごめんなさい。私、そろそろ帰らなきゃ」


 そうして席を立とうとすると、向かい側から手が伸びてきて、私の手を強く握られてしまった。


「三島さん?」

「このまますんなり帰れると思った?」


 ……え?

 眼鏡の奥の三島さんの目が……意地悪そうに笑ってる。


「ホテルですることって言ったら……もうわかるよね」


 ホテルで……すること!?


「えっと、私……」

「まだ帰さないよ。俺のお願いを聞いてくれるまでは」


 ど、どうしよう。

 掴まれた手は、私なんかじゃ振り解けそうになくて。

 鋭い瞳で睨まれると、蛙みたいに動けなくなっちゃう。

 そんな中で鳴る、メッセージの受信音。きっと、拓真くんから。

 逆の手でスマホを見ようとすると、三島さんに取り上げられてしまった。


「うるさいから、ちょっと電源切らせてもらうね」


 そしてそのまま私のスマホは、三島さんのポケットの中へ。これは……まずい状況かも。


「か、返してください! 私、そんなつもりじゃ……っ」

「生憎だけど、俺は最初からそのつもりだったんだよ。悪いけど、諦めて。口止め料は、ちゃんとしっかりもらわないとね」


 相変わらずの素敵な笑顔でそんな風に言われても、私は恐怖しか感じなかった。

 どうしよう……どうしたら……

 私、そんなに軽率な行動を取ってたの?

 そんなつもりは、本当になかったのに……!


 誰か……

 助けて、拓真くん!!

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