21.三島さんと
ブクマ18件、ありがとうございます!
拓真くんに追い付くと、車道側に立っていた私を「こっち」と逆側に促してくれた。
「ありがとう拓真くん。あの、ごめんね?」
「え? なにが??」
な、なにがって。
その顔……本当になんとも思ってないの?
「その……私が監視してたって話……」
「ああ、別に……どうせあれだろ? 母さんに言われて責任感じてたとか、そんなんだろ。なんか、俺の方こそごめんな。あんな親で」
「そ、そんな!」
な、なんか私のせいで、池畑さんが悪く言われちゃってる! うわああ、ごめんなさいっ!
後で池畑さんに、拓真くんは友達と楽しくバレー頑張ってましたって連絡しておこう……。
「あのさ、みんなはまた来いみたいに言ってたけど、仕事もあるだろうし、別に無理して来る必要ないんだからな?」
拓真くんが私の顔をしっかり見ながら伝えてくれる。
その気遣いは嬉しい。けど、どちらかと言うと……拓真くんにも、来てほしいって言ってもらいたいな。
「うん、仕事の時はどうしたって行けないから無理だけど……でも、行ける時は行かせてほしいな。私、バレーはわからないから、球拾いくらいしかできないけど……みんあなが頑張ってるのを見てると、楽しいから」
「ミキが来たいってんなら、それでいいんだけど」
「もし拓真くんが嫌なら行かないから、教えてね」
こんなことを言って、どんな反応が返ってくるかと、ドキドキしながら拓真くんを見上げる。
拓真くんも私を見下ろしていて、暗い夜道でもバッチリと目が合うのがわかった。
「俺は来てくれたら嬉しいけど? ミキって結構、面白ぇし」
「うっ! ナイスキーとか?」
「そ、ナイスキーとか!」
拓真くんがまたブーーッと吹き出した。
もう、笑われるのも慣れちゃった。私の勘違いでこれだけ笑わせられて、しかも『来てくれたら嬉しい』とまで言ってもらえて……怪我の功名ってやつかもしれない。
「じゃあ、また遠慮なく行かせてもらうね!」
「おー。行く日わかったら教えて。一緒に行こうぜ。七時前と言えど、女の子一人で歩かせらんないからな」
拓真くんは気を遣ってる風ではなく、ごく自然にそう言ってくれた。
私、女の子扱いされてる……多分、十才くらいの。
勤務の時間がロングの時なんか、帰ってくるの夜の九時半だし、一人でも慣れてるんだけどね。
けど嬉しいから、お言葉に甘えちゃう。
「ありがとう。じゃあ、普通の勤務時間の時は一緒に行ってもらおうかな。その時にはまたメッセージ入れておくね」
「おおー」
ふふ、嬉しいな。
ついこの間まで、お隣なのにまったく会えてなかったのが嘘みたい。
これからはメッセージでもやりとりできるし、体育館への往路も復路も一緒に行けちゃうだなんて!
ちょっとずつ、ちょっとずつ仲良くなって、いつか、私のことを気にしてくれるようになったらいいなぁ。
その日から私は、月火水金土のバレーの練習のある日で日勤の時は、なるべく体育館に行くことにした。
行きも帰りも拓真くんと二人きりだし、ちょっとは仲良くなれた……かな?
そんな日が続いて、七月に入ろうとしていたある日、三島さんからメッセージが入った。
『今度の木曜日、なにもなければ約束の酒でも飲みに行こう』
そういえば、そんな約束してたっけ。私の名前を言わないっていう口止めのためだったよね、確か。
大丈夫ですって返信すると、眼鏡をかけた可愛いクマさんが万歳をしているスタンプが送られてきた。結構お茶目さんだな、三島さん。
約束当日、三島さんは家まで迎えにきてくれた。
少し遠くまで飲みに行くからと、タクシーを呼んでアパート前で車が到着するのを待つ。
「ああー、やっとミジュちゃんと飲みに行けるなぁ。約束してたのに、遅くなってごめんね」
「お仕事忙しかったみたいだし、仕方ないですよ。もう大丈夫なんですか?」
「うん、プロジェクトがようやくひと段落したからね」
「お疲れ様です」
そんな風に仕事の話をしながら立っていると、道の向こうから、見慣れた顔が横断歩道を渡ってこっちにやってくる。
「お、タクマだ」
木曜はいつもより長めにバイトをしていて、タクシーを待つ私たちとちょうど鉢合わせしてしまった。
「ん? ミキと……雄大さん?」
「お帰り、拓真くん」
「あれ? 今日練習日だっけ? 木曜だよな?」
「違うよタクマ。俺がミ──、園田さんを飲みに誘っただけ」
飲みにっていう言葉に、拓真くんは眉間に皺を寄せている。
「雄大さんとミキ、二人だけで?」
「帰りもちゃんと送るから、大丈夫だよ」
「俺も奢ってくれよ、雄大さん」
「タクマが二十歳になったらな。今日はバーに行くからダメ」
拓真くんは納得がいかないのか、口をへの字にしてたけど、一息吐くと私に目を向けてくれた。
「ミキ、飲み過ぎんなよ」
「う、うん、大丈夫」
「ん……ならいいけど」
ちょうどそこでタクシーが来た。三島さんに促されて、私は後ろ髪を引かれながら車に乗り込む。
ふと窓から外を見てみると、拓真くんはもうこっちを見ていなくって。
一人、アパートの階段を昇り始めてた。




