20.怒られる?
練習はいつも、夜の九時で終わりみたい。
片付けを終えて外に出ると、私は三島さんと携帯番号を交換する。それを見ていた拓真くんと晴臣くん以外のメンバーが、俺も私もと言い出して、結局全員と交換することになった。
「っつかさ〜。結局ミキちゃんの好きな人は、雄大さんってことだよなぁ〜」
唐突な緑川さんの発言に、本当に頭が痛くなる。
もうそういう話……拓真くんの前ではやめてよぉ……泣けてきちゃう。
「鉄平さん、それは違うだろ? ミキが大好きって言ってたのは、ナイスキーと間違えてただけなんだし」
「っぷ、なにそれ」
ナイスキー大好き事件の真相を知らない三島さんが、少し吹き出してる。もういいよ、いくらでも笑ってください!
「でもさー、普通、昔の知り合いだからって応援に来ねぇだろ? 好きだから追っかけてきたってしか、考えられないね!!」
緑川さんは、『どうだこの推理!』とばかりに胸を張ってくる。
もう……本当に、この人どうにかして……。
「ブッブー、外れ! ミキは俺が誘ったから来てくれてんだよ」
そう言ったのは、もちろん拓真くん。
みんなの視線が拓真くんに向けられる。
「タクマが? ミキさんと?」
「どういう知り合いなの?」
「うん? 妹が入院してた病院の看護師さんでさ、今住んでる家のお隣さんなんだ。試合の前日に会って、なんとなく誘ったら来てくれただけだよ」
な、なんとなく誘った……そ、そうだよね。深い意味なんてないよね。
わかってはいたけど、そう言われるとちょっと落ち込んじゃうなぁ。
「ふーん。でもそれだけで普通来るか?? だってミキちゃん、バレーの経験なんてないみたいだしさー。興味のねー人は、朝から終わりまで試合なんか観たりしねーよ! つまり!」
つまり? なにを言うつもり、緑川さん! もうやめてー!!
「ミキちゃんは、お前のことが好きなんだ! タクマ!!」
いやーーーーッ!!
なんでこの人は、そういうこと言っちゃうの!? 信じられない!!
拓真くんは驚いてるのか呆れてるのかよくわからない顔してるし……あああ、どうしようっ!!
「……そうなんすか? ミキさん」
聞いて来たのは晴臣くん。晴臣くんだったら聞き流して、話を逸らしてくれるかもと思ったのに。
「ち、違うよ!? 私、拓真くんのお母さんに、悪いことしないかどうか見てほしいって言われてて……か、監視みたいな感じで行ったの!」
「監視?」
拓真くんの顔が、急にムッとした。
わ、わかってるよ、拓真くんは悪いことなんてするはずがないって。でも……この状況で、他にどう言えばよかったの?
百パーセント振られるってわかってるのに、『そうなの好きなの』なんて言えるわけないよ!
そんな苛立ちを感じながらふと見ると、緑川さんはどこか嬉しそうに拓真くんの肩を叩いてる。
「おいおいタクマ、子ども扱いされたからって、拗ねんじゃねーよ!」
元はと言えば、あなたが余計なこと言うからでしょー!!
「別に拗ねてねーし。ミキに面白くもない試合見せちまって、悪かったかなって思っただけ」
「面白くないだなんて思ってないよ! 私、ちゃんとバレー見るの初めてだけど、すごいって思った! また見たいって思ったから、こうして練習にも来ちゃったし……」
みんながじっと私を見てる。
あ、ダメだ。変な雰囲気になっちゃった。
もう、監視なんて言うんじゃなかった……綸言汗の如し。 一度出した言葉は、どうしたって戻らない。
私は肩を落として、少し頭を下げた。
「ごめん……監視なんて言って、言葉が悪かったよね。そういう意味じゃなくて、拓真くんが楽しくしてるところも見ておきたかったっていうか」
うわ、言い訳っぽくなっちゃった。
「本当にごめんね? じゃあ私、先に帰るから……みんな、今日はありがとう」
ダメだ、このまま逃げちゃおう。
もうバレーは見に来られないよね。折角みんなと仲良くなれたから、残念だけど……。毎回監視に来られてると思ったら、拓真くんも気分良くないだろうし、きっと楽しめない。
ああ〜、本当に馬鹿なこと言っちゃったな、私……。
「んじゃ一緒に帰ろう、ミキ。じゃあなみんな」
ふえ!?
お、送ってくれるの!?
え、だって……怒って……ないの? 怒るよね、普通??
「ミキさん! 明日は第二中の体育館っす! なにもなかったら、来てください!」
晴臣くん……。うわぁ、その心遣いにジンときちゃうよ。
「ありがとう、晴臣くん」
「おやすみっす、ミキさん!」
「お疲れさん!」
「おやすみ、園田さん」
「また来てください、待ってます」
「おやすみミキちゃーん!」
「まったねー、ミキお姉さま!」
「おやすみなさーい」
あれ……? みんな、あったかい。気にして……ないの?
私がみんなの方を見てぼうっとしていたら。
「ミキ、行くぞー」
すでに先に行ってしまっていた拓真くん。彼を追いかけて、私は急いで走った。




