おじさん、少女を救う事にします
はてさて、思い付きとは急に降って湧いてくるもので……
いや、思い付きと言うには有触れていて、おこがましい事なのかも知れませんが…… 僕は少女を救う事にしました。
はい、少女を救うのです。
きっと彼女は恩を感じる事でしょう。
国の要人が、僕を慕うのです。
だから、これからも末永く良い関係を築けると思いませんか?
ね? いい案でしょ?
はい、今回の件を利用するのです。
悪漢共に捕まった少女。
彼女は拘束され、目を塞がれ、闇の中で絶望の淵に居ます。
これから我が身に振る事を思うと、きっと心細く、お辛い事でしょう。
そこに現れる救いの手。
助かった彼女は、きっと思う筈です。
恩を返したい。 と。
完璧です。 はい。
強いて言えば、僕ではなく、レグノーゼに救助役を頼みたかったのですが……
だって相手は女の子。女の子同士の方が打ち解けやすそうじゃないですか。
なのに、アイツ…… どこに行ってしまったのか、姿を見せません。
しかし、こんな時は真面目に仕事をしている筈なので、文句も言えません……
口惜しいですが、ここは僕の出番の様です。
勿論、分ってると思いますが、メディという選択肢はありません。
メディが言うには、彼女に正体はバレていないとの事ですが、御庭番だっけ? 近衛に助けられても恩など感じないでしょ? 寧ろ、助けが遅かった事を理由に、不和を生むかもしれません。
ここは矢張り、僕が適任だと言えるでしょう。
いいですか? あえて言いますよ?
僕は、決して女の子に恋慕されたいなんて思っていません。
証明しましょう。
僕には既に思い人がいるのです。
深く、深く繋がった。 愛すべき人が……
だから、決して女の子に恋慕されたいなんて思っていません。
はい、証明完了!
確かに、彼女は目隠しされてなお、その器量の良さが垣間見えます。 しかし、人間だ。
そもそも人間の女などに、僕は興味がありません。
まして脱糞小娘など論が…… 失礼。 女性に対して、これではいけませんね。
僕は2等級魔人。 エリートです!
紳士的な対応を心がけましょう。
ええ、人間界に左遷されたのかもしれませんが…… 誇りまで失うべきではありません!
だからこそ、僕は少女を救うと決めたのです。(`・ω・´)キリッ
◆
決まってしまえば、行動に移るのは容易い。
悪臭を放つ少女を風呂に入れるか暫し迷ったけど、汚れたままの方が助かった時に感じる恩が大きいだろうと思い、ケーニスは震える少女にスリープの魔法を掛け、昏睡させた。
勿論、他意があってではない!
近くにメディもいるし、少女の貞操は安全といえるだろう。
だから、決してケーニスに他意はなかった。
それに、スリープの魔法は魔王様直伝のもの。
そんな大切な思い出を如何わしい行為に使える訳がないのだ。
ケーニスは少し躊躇ったが、昏睡少女を抱き上げるとメディを一瞥する。
「メディ、人目が付かない森の奥か、洞窟に送ってもらえるかい?
僕はこの辺の土地勘が無いから、君にお願いしたいのだが」
「あのー、申し上げにくいんですが…… 送るとは転移の事ですよね?
勿論、存じております。 ですが、私共下級種にそんな高度な技術はありません。
ですが、昔賜ったスクロールが何処かにあった筈…… 少しお時間頂けますか?」
思いもよらぬ返事に、ケーニスは驚きを隠せない。
まさか、転移が出来ないとは……
転移は、魔人なら誰しもが持っている力である。
得手不得手はあるが、緊急回避など使用用途は多い。
とても便利な力であるが、距離に応じて魔力を消耗する為、平時には使わないものである。
他者に触れて使用すれば巻き込む性質を持つ為、これを生業にしている魔人も存在していた。
魔人のデフォルト能力である。と、ケーニスは思っていたのだが…… どうも、そうではないらしい。
ゼザに向かう際に転移を使わなかったので、距離的な問題があったのだっと、勝手に解釈していたのだが…… そもそも使用出来なかったようだ。
申し訳なさそうに佇むメディ。
叱っても仕方がない事なので、大人しく命を出す。
「可及的速やかに頼む」 「は!」
一目散に駆け出すメディを見送り、ケーニスは昏睡少女と二人きりになった。
なったけど…… 悪臭で眩暈がした。
こんな事なら風呂に…… もう手遅れだけど…… (´;ω;`)ブワッ
◆◇◆ とある少女のプロローグ
それは悪夢でした。
何故、私がこんな目に……
何度その悪態をついたのか、もう思い出せない。
手足を拘束され、目隠しをされ、猿轡を噛まされ、一体どれだけの時間がたったのか。
犯人の顔すら見ていない。
しかし、時折聞こえるのだ。 せせら笑う声が。 野太い男の声が。
値踏みをする様な視線を感じてしまうのだ。
彼らは口にした。 私は「献上品」であると。
そうこうしている内に、時間だけが過ぎていく。
なにもされずに、時間だけが…… 過ぎていた。
気が付くと外が騒がしい。
野太い声が語っていた。 「死神が来る」と。
値踏み彼が、震えていた。 「殺される」と。
良くわからない事だが、私は彼らが恐れる事象に唐突に思ってしまった。 「ざまぁ、みろ!」と。
ただ、それは間違いでした。
私は気付けなかったのです。
長い時を孤独で過ごした為か、声が漏れてしまっていた事に。
野太い声が近づいて来る。
値踏みの彼が、苛立っていた。
酷い目に合う。そう確信した直後、耳元で囁かれた。
「死神は、人間が嫌いだ! 俺達は逃げるが、お前は散々嬲られた後、殺される。
言っとくが、殺してくれっとお前が頼むまで、それは続くぞ!」
それは、下らない言葉でした。
既に長時間の拘束に耐え、惨めな姿に成り果てた私に、これ以上の攻めが待っている?
やってみろよ。 私は、そう言いたかった。
でも、彼の言葉は続いた。
「忘れていたが、俺達は魔族だ。 そして、これからここに来るのは上位魔人。
お前は終わりだよ。 助け何て、来ると思うな」
それは歴史上で語られる話。
皆、知っている事だけど、下級魔人は今なお世界に存在している。
しかし、上位魔人達は2000年程前に勇者によって魔界へと追い返されて以降、姿を見せておらず。 最早、お伽話に語られる程度の存在になっていた。
ただ、存在はしている。 そう、父から聞かされているだけの存在。 そんなお伽話の存在。
「フッ」笑いが漏れてしまった。 いや、意識して聞かせてやった。
どうせ殺されるなら、今も後も変わらない。
せめて苦しまずに死ねるなら、それが良かったのだ。
最後に聞かされたのが、お伽話だとは…… 正直、ガッカリである。
だが、彼らは挑発に乗らない。
私を放置して何処かに行ってしまった。
続く沈黙。
周りから気配すら感じられなく時、私は酷く後悔した。 懇願してでも、殺されておけばよかった。と。
後から知った事だが、私が拘束されていた時間は3日程、放置されてから彼と出会うまでの時間は半日にも満たない。
しかし、それが長かった。
視覚を封じられ、緊張状態にある時間が、これほど長いとは思っていなかった。
気配が無くなり、孤独感が強くなり、神経が研ぎ澄まされ、眠れない。
頭をぶつけて気絶するという手段に気が付ければ、やっていたかもしれない。
しかし、私は耐え抜いた。
捉えたのは人の気配。
人の気配。
人の気配が感じられる!!
気配が……
それは、気付いてはいけなかった。
言いようのない悪寒。
剥き出しの神経を掴まれた様な激痛を伴う、圧倒的なプレッシャー。
その存在がそこに居るというだけで、分ってしまった。
私はもう死んでいるのだと。
これが、魔人達が恐れた死神。 上位魔人。
そう気付いた時には、震えていた。
もう、何が何だかわからなかった。
自身が死んでいるのか生きているのか理解できなかった。
だから理解できた時には意識が飛んでいた。
実際には、スリープの魔法で意識が飛ばされたのだけど…… この時の私は、それどころではなかったの。
……
…………
………………
「うん……」
意識が覚醒していく。
微睡みの中で、私は何かに抱えられている事に気がついた。
意識がハッキリとしていく。
目を見開き、突然の光に目を覆う。
「あ、 起きました?」
それは、驚く程幼い声でした。
声に癒され、安堵した私を迎えたのは、美少年。
一目見るだけで、ため息が漏れてしまう程美しい、美少年だったの。




