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前任者達から、おじさんに重要な申し送り事項があるようです

「ここで間違いないの?」


ケーニスの疑問に、案内役を勤め上げた魔人の少女は戸惑いながらも頷く。

嘘を付いている様には思えないが、これは如何なものか……


「レグノーゼ」

「レグっち! もしくはレグたんでもいいっすよ♡ いつも言ってるっすよね?」


この際雑音は聞かなかった事にして、話を進める。


「レグノーゼ、 君はどう思う?」

「つれないっすね…… ま、どう思うって言われても…… 大きなお屋敷っすか?」


「いや、それもあるけど、この場所についてだよ! 如何とも思わないのか? ここは重要拠点だぞ!」

「うわー、ないわー。 そんな大声で重要拠点を喧伝するとか、ないわー」

「はいはい。 それで? どう思うの?」

「ケッちゃん…… 今日は冷たいっす。 


 ……

 …………

 ………………


 んーと、何というか…… お隣さんが、この国の王様をやってるみたいっすね」


レグノーゼは構ってくれない事にふくれつつも、望んだ答えを返してくれた。

どうやら、ケーニスが懸念していた事は間違いではないらしい。



魔人の少女の案内でやってきたのは、小国のゼザ。

その首都にある貴族街の、それも城の近くに人間の宿敵である魔族の拠点が存在した。


まだ、城が拠点であると言われた方が納得出来たのかもしれない。

しかし、拠点は城の隣にある屋敷であった。


一応、事前の話は魔人の少女から聞いていた筈なのだけど、実際にそれを目にすると突っ込みを入れたくなってしまったのだ。


何で選りにも選ってこんな場所を選んだのか? とか。

もういっその事、転送装置がある廃墟を活動拠点にしたら良かったのではないか? とか。

こんな場所では目立った行動に出られない! 活動自体が委縮してしまうではないか! とか。

人間界に住む魔族は馬鹿なのだろうか??? とか。


思いますよね? 当然ですよね? ね?




何方にしろ、文句を付けた所でケーニス達に行く当てなどない。

ケーニスは項垂れて屋敷の門を潜る事にしたのだった。



既に大きな問題が発生しているのに…… 問題というものは何故こうも重なるのか。


新たな頭痛の種の発生に、ケーニスは深いため息を漏らした。







「なに? それは本当か!」


ケーニスの声が屋敷に響き渡ったのは、次の日の事。

前日。「疲れを取る」と魔人の少女に言い、案内された部屋にこもると、ケーニスは直ぐに寝てしまった。

翌日はその反省も兼ねて、真面目に仕事の引継ぎを受ける心算でいたのだが、思いも寄らぬ話にケーニスは手のひらを返していた。


「は、はい! 本当です。 私共は今までこの国の御庭番として勤めてきました。

 ですので、この国からの信は厚く。重要な仕事も任されています。

 この国は小国とは言え国ですので、隣国の情報や人間界の重要な案件が舞い込んできます。

 それらを私共は精査した上で、魔軍へと情報を上げておりました」


御庭番とは聞き慣れない単語だったが、近衛だと判断した。

城から屋敷が近いのもその為だろう。

有事の際に、即時対応する為だったのだ。 この際、場所の事は諦めよう。


それよりも、情報が向こうからやって来るらしいですよ。


と言う事は、アレです。 仕事は適度にサボれそうです。

空いた時間は鍛錬に学習。 愛しの人を救う為、力を付けなくちゃ!


良いじゃないですか! すごく良いですよ!



それは暗雲立ち込めるケーニスの魔族人生に、救いの兆しがさした様な出来事でした。





しかし、そんな気がしただけの様です。

糠喜びに水を差したのは、城からの招集。 それも直ぐの事でした。


始め、ケーニスも他人事だったのですが、部下が全員逃げてしまった事を思い出すと、招集がケーニスを呼ぶ為のモノだと悟りました。

そりゃそうです。 仕事で情報を得る以上、その対価を支払わないと…… 当前ですよね?


はい、知っていましたよ。(;´д`)トホホ




意気消沈のケーニスに声が掛ったのは、そんな時の事でした。


「2等級魔人様!」

「面倒だから、ケーニスでいいよ。 これから一緒に働くんだし、君の名も聞いておこうか」

「っそ、そんな! 恐れ多い!」

「命令な!」

「は、は! 私の名はメディ! 7等級魔人であります! ケーニス様! 今後ともよろしくお願い申し上げます」∠(`・ω・´)


この時、ケーニスは初めてレグノーゼ以外の部下を得たのだけど、それを実感するのはまだ先の事。

それは……


それ以上の出来事が発生した為だった。


「で? メディ。 要件って何?」

「ケーニス様、 城からの招集と言う事で、事前に話しておかなければいけない事がありまして……」

「どうした? まだ何かあるのか?」

「それが……」







地下の冷たい空気に、饐えた匂いが混じる。

悪辣な環境に、目隠しをされ手足を縛られた少女がくぐもった声を上げていた。

口には猿轡が噛まされ、自害を…… いや、この場合は大声を上げるのを封じている。


しばらく放置されていた為か、汗と埃で服が大変な事になっていた。

あえて深い発言を避けるが、少女が不浄を模様した形跡もあり、それは酷い惨状と言えた。




・・・(^ω^ )何ですのん? コレ。


その光景を前に、ケーニスは凍り付いていた。

思いもしなかった状況に思考が追い付かない。


どうして人間の女の子が? こんな目に? 酷くない?

僕も人間は嫌いだけど…… ないわー。 レグノーゼの言葉遣いを借りるのは癪だけど、 ないわー。



沈黙の中、メディの言葉を思い出す。



「ケーニス様。 重要な申し送り事項があります!

 実は、2等級魔人様を迎えるに当たり決定した事なのですが、この国を乗っ取る事にしたのです」


「は? 何言っての? お前……」


それは青天の霹靂でした。

これから諜報活動を行おうと思った矢先、いきなりの乗っ取り発言。

それに、魔界では人間界に刺激を与えて勇者が出現させない様に広く告知されている事もあり、メディの言っている事は魔王の意向に逆らう行いに他ならなかったのです。


はい。 もう、滅茶苦茶ですよ。 



ケーニスの怒りに気付き、メディが青ざめていく。



「わ、私は反対したのですが……」


ホント? と尋ねるとメディが卒倒しそうだったので、深く追求しない事にした。

この際、罪は逃げた奴等に全て被せよう。 ケーニスはそう判断したのだ。


「それで、ですが…… この国の要人を捕縛しています。 洗脳して、傀儡にする手筈でした……」


そんなこんなで、メディは申し訳なさそうに小さな声で白状したのだった。




拘束された少女に近づくと、彼女が震えだした。

何かされていたのか?と思い、少女を暫し観察したのだが、特に目立った外傷はない。

縛られた跡が痛々しいのと、粗相の跡が痛ましいのと…… あと…… ホントに臭いだけだった。



風呂、入れて上げなくちゃだよね…… ホント、どうすんのよ、これ?

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