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おじさん、相談する

あまり知られたくない事だが、ケーニスには友達が少ない。

悩みを話せる程の…… いや、愚痴となれば、もはや一人しかいない。


3000年以上も生きてきて友達一人ってどうなのよと思うかもしれないが、ケーニスはとても難しい立場の魔人であった。近づく者がそもそも少ないのだ。

なんせ前魔王の唾付き。現魔王も姉を慕っていた事もあり、ケーニスに対しては甘い一面を持っている。

今回の人事について分からない事はあったが、特に現魔王と軋轢がある訳ではない筈だった。


そんな魔人に誰が近づくだろうか?

勿論、不遜にもケーニスの立場を利用しようと近づく輩はいたのだが…… 友達になる前に何故かケーニスの前から姿を消した。それは不慮の事故であったり、行方不明であったり、怪現象が起こるのだ。

そしてそれが噂となり、ケーニスを孤独にしていた。


だが、これから会う奴はそんな苦難をものともしない奴だ。

ケーニスは、これからその者と会って今後についての相談するつもりでいた。


相談と言っても酒の席での愚痴程度だ。

アイツにそれ以上を期待するのは…… やめておきたい。

変に勘繰られると、アイツは予想の斜め上を進みだす。

それを制御するのは…… 正直、俺には無理だった。


なんせ相手はケーニスの同僚。

つまりは2等級魔人以上…… と言うか1等級魔人様である。

魔界における大幹部の一人であり。現魔王と別に魔界を掌握する派閥のトップでもあった。


ドラゴン種をルーツに持ち、古くから存在する王族の一人。

ケーニスを古くから知るその竜は…… 幼馴染と言えなくもないのだろうか?


と、思う。

何というか、良い奴なんだ。

良い奴なんだけど、話を聞いているのか聞いていないのか…… 時におかしな行動を起こす。

少しぐらい自分の立場というものを考えて欲しいものなのだが、彼女がそれに気付く頃には大体の事が終わっている。

僕の為に動いてくれた事で申し訳ないのだが…… 幼馴染が涙目で最愛の人の妹に怒られているという絵図らは、ケーニスをなんとも切ない気持ちにさせていた。


彼女の名はリュミス。

魔界にその竜在りと謳われる程の存在ある。

竜族の中でももはや神格化された存在になっており、強さだけで言うなら僕が愛した人の上をいくのではと思う程なのだが…… アイツはどうしようもなくお馬鹿なのであった。





「な… ん、だと……」


リュミスの声が震えている。

ケーニスが愚痴を始める前に、今回のいきさつを話した結果だ。


口にしたのは人事異動の話しと今後についての不安を掻い摘んだもの。

後は愚痴を添えるだけ♡だったのだが…… リュミスの様子がどうにもおかしい。

声どころか、顔が引きつり体がプルプルと震えている。

つい力んでしまったのか、手にしていたグラスが砕けていた。

勿論、その程度でリュミスが怪我をする事は無いのだが、ケーニスは慌ててリュミスの手を確認する。


怪我は無い。

確認を終えるとホッとしてリュミスの顔に目を向ける。

そこにはほんのり頬を染めたリュミスの姿があった。


ほんと、こういった照れた姿をみせられるのは目の毒だ。

ケーニスに最愛の人がいなければ、彼女を襲ってしまうかもしれない。

そんな考えが過る程には、彼女は美しかったのだ。

と言うか、美幼女であった。


周囲からのホッコリとした視線に気が付く。

美ショタと美幼女の微笑ましい一幕に野次が向く事は無く、ただ祝福されている様だった。

僕は少し照れながらも、咳ばらいをすると席に戻り、本題に戻る事にした。



・・・

・・・・・・


「ケニー 本当に人間界に行ってしまうのか?」


心配そうにしているリュミスの目には涙が溜まり始めている。

今生の別れと言う訳でもないのに少し大げさなとも感じたのだが、彼女の仕草が微笑ましく思え、ケーニスはクスリと笑った。


リュミスはそれが癇に障ったのか、顔を赤くして抗議する。


「何を笑っている! 私はお前の事が心配で心配で」

「ごめん、何か可愛いなって」


リュミスの頭から湯気が立ち上ったのは、その直後の事だ。

リュミスは「今、かわいいって……」と小さな声で何度もつぶやいている。


そんな姿が本当に可愛らしく、ケーニスは心は和んだ。

愚痴を切り上げるには、良いタイミングである。

そう思い、ケーニスはこの場を閉める事にした。


「仕事だしね、気が重いけど頑張ってみるよ」

「もしあれだったら私から……」

「いや、そういうのは無しで頼む。

 陛下もきっとお考えがあっての事だ。

 それに、たまには里帰りもするし、リュミスにも会いに行くよ」


パッと花が咲いた様な笑顔がケーニスに向けられる。

これは裏切れないなっと、彼女の頭を撫でてケーニスはリュミスに約束をしたのだった。







その会談が行われてから暫く後の事。


そこは魔界の僻地。

魔軍にすら歯向かうような有象無象が湧いて出る、そんな場所。


そこで一人の幼女が立っていた。




足元には無数の死骸。

死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。死骸。


もはや数えるのすらも億劫になるほどの膨大な数の魔物の死骸。

土は赤く染まり、地形は原形を留めていなかった。


途方もない暴力が行われた痕跡。


彼女の手足は深紅に染まるが無傷。傷など負う筈が無い。

そこには隔絶された力の差が存在し、その中心に彼女がいた。





「絶対に許さい」


その声は憎悪で満ちている。

向けられた先は遥か彼方、魔界の都。



許せるはずが無い。

私からケニーを引き剥がすなど、あってはならない事だ。



ブチ殺す。

いや、それだけでは生ぬるい。後悔させてやる。生きてる事を後悔し尽くした後、殺してやる。

あの女の妹だと、許してやっていたが…… もはやこれまでだ。

ククク、アハハハハハハハハハハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。


これから行うであろう非道を思うと、心が躍っていた。


相手は魔王。しかし、リュミスには勝算がある。 絶対的な勝算が。


「そもそも、アイツ。 魔王じゃないし」


従う必要など、どこにも無いのだ。


脚に絡む憂さ晴らしの残骸を蹴飛ばし、リュミスは動き出す事にした。



もう魔界にケーニスはいない。

猫を被る必要がない。



彼が帰って来る頃には、もっといい魔界にしないと。

だって、彼が知らないうちに不慮の事故が起こるのは、仕方のない事でしょ?


そこにケーニスに笑顔を向けた少女の姿はなかった。




後に語られる、リュミス革命。

凄惨で残虐の限りが尽くされた血塗られた革命。その悲劇が幕を開けたのである。

ケーニスがそれを知るのは、まだ先の事。

●設定的なもの。


魔王について。

魔族の中で魔王は常に一人だけ存在します。

現在、魔界では前代の魔王が封じられ死んでいない為に、魔王が不在の状態です。

魔王が死んだ場合、1等級魔人の中からランダムで魔王が発生するか、生前指名していた1等級魔人がその席につきます。

1等級魔人が王族だけの為、魔界は基本的に世襲制です。

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