世界が滅んだ瞬間Ⅳ
天使、それは人を護る守護者で神の使いである。
天使にも様々な役割があり人を守護する天使、悪を断つ天使、神のお告げを人に伝える天使と内容は様々である。
そして時に聖なる天使とは真逆の堕天使というものも存在する。
堕天使は創造神に反逆した者が神に罰せられ、堕天使となる。
そしてマルドゥークが見上げる先にいるのがまさしく堕天使。
またの名を大天使サマエル。
魔王サタンと同等レベルの実力を誇る堕天使である。
(あれは・・・)
サマエルが見据える先にはラ・ホールから這い上がって来た巨大な竜だった。
「くそっ!フレイム・クラウソラス!」
マルドゥークの剣が輝いたと同時に剣が火に包まれ、マルドゥークは竜に突進していった。
竜の足に巨大な剣を振り下ろし、足を一本千切った。
と、竜は体勢を崩し地面に落ちた。
瞬間、竜が反撃してきて、マルドゥークは巨大な剣で何とか攻撃を防ぐ。
「ぐっ・・・!」
と、防いだ瞬間、無防備になった背中に巨大な爪がマルドゥークの背中を斬った。
「ぐはっ・・・」
空に舞う鮮血、マルドゥークは空に舞った血のように地面に倒れた。
(意識が・・・)
なんとか息はあったが、立ち上がるのは当分不可能なレベルまでマルドゥークの体はボロボロだった。
「・・・・」
サマエルは下のマルドゥークを見下ろし、自分の右手に魔力を込めた。
(混沌壁)
と、マルドゥークの全方位に不可視の壁が張られた。
(さて・・・)
マルドゥークへ行っていた視線を竜に移し、サマエルは右手に魔力を込めた。
(天剣の技 赫炎)
右手から発せられたのは平均の火球よりも比較的小さなサイズの火球が竜に当たった瞬間。
ボッ!という大きな爆音が轟き、さっきの小さめの火球は何十倍にも膨れ上がった巨大な火の球になった。
その炎をくらった竜達とその周りの生物は塵も残らず消えていった。
と、サマエルの赫炎により焦土と化した大地にポツリと一つ原型を保ったままの所があったのだ。
(なんだ?)
サマエルはその場所に向かい、周りを確認するがそれらしい物は特に無い。
が、その原型を保ったままの所にはバリアが張られていたのだ。
サマエルはそのバリアを壊した瞬間、そこにいたのは、陽の光で煌めく銀色の髪がとても美しい神秘的な少女だった。
肌は処女雪のように真っ白で、シミ一つ無い。
そしてその少女の体にもたれ掛かるようにして一本の杖がかけられていた。
気を失っている、そう解釈したサマエルはその少女を抱き上げ、ラ・ホールから脱出した。
敵の進攻を防いだサマエルは南に向かいアレスの家の周辺に降り立った。
「アレス!」
向こうから走ってきた少女リヴィエがサマエルの方へ向かった。
「お前、俺の偽名に馴染みすぎだろ」
サマエルだった天使は光と共にアレスの体に戻り、ため息をついた。
「大丈夫だった?」
リヴィエが不安そうに見ているが傷は1つもない。
「あぁ、特に問題は無いんだが・・・」
さすがにお姫様だっこはどうかと思った為、おんぶで連れ帰った少女をリヴィエに見せるとみるみる機嫌が悪くなっていった。
「誰なの、その子」
冷たい声でリヴィエが質問する。
「あぁ、ラ・ホールの近くにいたんだよ、まだ生きてるし、とりあえず連れてきた」
アレスが背中にいる少女を確認するが、特に異変は無いようだ。
「どうするのよ、その子」
「うーん、ラ・ホールの辺りには家とか無いし、迷子って事もないだろう、それにあのバリアかなり強かったから、少なくともこの子の力はこの国にいるかどうかってレベルだし、目が覚めるまで俺の家で様子を見ようかな」
「この子、そんなに魔力強いの?」
リヴィエが左手に魔力を込め、少女にかざしてみると、とんでもないほどの魔力をリヴィエは感じた。
「っ!・・これは・・・」
今リヴィエが使った魔法は魔力を検知する物で強いほどリヴィエに送られる魔力信号が強くなる仕組みだ。
「この子、放っておくのは危険だ」
アレスは剣呑な眼差しでリヴィエを見た。
「仕方ないわね」