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成り行きまかせの人形使い  作者: リオングレオ
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7 ドライアド

 なぜ、どうやって出来たのかわからないけど、レッドボアを倒せた。レッドボアの体は、僕と白い木を通り過ぎたところで倒れている。そして僕の目の前には、切り落とされた頭が落ちている。赤い目から光りがなくなり、舌がダラリと垂れ、ヨダレ混じりの血が流れ出ている。首筋からも血が流れ地面を汚していく。

 流れでる血を確認したところで、僕はその場にへたり込んでしまった。身体が恐ろしく重たい。


 危険が去ったとわかったのか花モンスター達が触手を揺らしながら集まってきた。埴輪が警戒を促すが、僕はまだ身体をうまく動かせない。


 『攻撃、ダメ』


 あの時力をくれたヤツの声がした。

 そうだ。この声は誰なんだ?重怠い身体を動かして背後に振り返った。

 そこには、一人の女がいた。

 風に揺れる白銀に輝く長い髪、白い肌、朝焼けを思わせるような薄い紫色の瞳。服は着ていない。美しいが、人間じゃない。なぜなら、その下半身は木と融合していたからだ。


 ドライアド。


 滅多に人に姿を見せない、木の精霊とも言われる魔物だ。

 ドライアドが手を緩く振ると、花モンスター達は触手を降ろし土にもぐっていく。所々レッドボアに(えぐ)られているが、元の静かな花畑に戻った。花モンスターが養分にするために土の下に持って行ったのか、ゴブリンの死骸は無くなっていた。


 僕は立ち上がり、改めてドライアドを見つめた。彼女は優しく笑って僕に手招きした。

 本当に綺麗だ。神秘的なその目に見つめられ、フラフラと近付いた。彼女の笑みが深くなる。

 すると埴輪が僕のジーパンの裾を強く引いた。ハッとして立ち止まる。なんだ?誘い込まれたのか?その途端、ドライアドの顔から笑みが消えた。怒りを目に浮かべ埴輪を睨みつけた。


 『邪魔』


 白い木から数十枚の葉が凄い速度で撃ち出され、埴輪を弾き飛ばした。同時に、花モンスターよりも長い触手が飛んできて僕の腕に巻き付いた。


 「埴輪っ!何するんだっ!」


 僕はドライアドに剣を向けた。


 『そいつ、邪魔。お前、ここ来い』

 

 「ふざけるなっ!僕を食う気か!?」 


 ドライアドは悪びれることなく、楽しげに笑った。


 『食う、しない。お前、我を護った。我の木の中、入る。長く永く』


 そういえば何かで読んことがある。ドライアドは気に入った人間を自分の木に連れこむことがあると。木の中は外とは流れる時間が違い、数日すごすだけで数十年、時には数百年経ってしまうこともあるとか。

 冗談ではない。異世界に転移して、更に木の中に数百年なんて考えたくもない!

 吹き飛ばされて全く動かない埴輪も心配だ。


 『そいつ、殺す。お前、我と来る』


 ドライアドはもう一本触手を伸ばし埴輪の足に巻き付け、空中に持ち上げた。埴輪はグッタリして動かない。良く見れば胸の辺りにヒビがある。やはりレッドボアの攻撃でかなりのダメージ受けていたのだろう。そこへドライアドの攻撃を受けたのだ。

 ドライアドは更に触手を出して先端をヤリのように尖らせ、埴輪にむけた。


 「止めろっ!」

 

 僕は、腕に巻き付いてる触手を剣で切り落とし、残っていた打ち上げ花火の一つに火を着けて、ドライアドに投げた。

 

 『キャアァァッ!』


 ドライアドは悲鳴をあげて木の中に逃げ込んだ。僕は落ちてきた埴輪に急いで駆け寄った。


 『お前、なぜ、我に酷いこと、するっ!』

 

 顔だけ出して講義してきた。


 「ふざけるなっ!僕の大切なものが奪われそうになったんだぞっ!」


 ドライアドは不思議そうな顔で木から浮き出てきた。


 『そいつ、殺す、ダメ?』


 「当たり前だっ!」


 僕が怒鳴りつけたら、驚いて、何やら考え込みはじめた。しばし悩んだ後、顔をあげた。何か結論が出たらしい。


 『我、そいつ、殺さない。我に、火、向けない?』


 どこか縋るように話しかけてきた。

 

 「ああ。向けない。僕達に攻撃して来なければ火は使わない」


 ドライアドの目を見てハッキリと答えた。

 人の姿をしていてもコイツは魔物なのだ。思考が人とは違う。人の理は通じない。それをちゃんと理解しないととんでもないことになる。

 僕の言葉に、ドライアドは嬉しそうに笑った。


 それよりも埴輪だ。グッタリして動かない。そんなに大きなヒビではないけど、致命傷だったのか?埴輪の波動がどんどん小さくなって行くのがわかる。どうすればいいのかわらない。


 「埴輪!しっかりしろ!死ぬなよっ!」


 そうだ。僕の魔力で治せないかな。傷に手を当て意識を集中してみる。だが、昨日はあんなに感知できた魔力が、今は全く感じない。レッドボアとの戦闘で使い過ぎたのか?


 「ドライアド!もう一度力を貸してくれ!」


 さっきのように凄い力があればきっと治せるはずだ。いつの間にか、本体の木から離れて僕の側にやってきていたドライアドを振り仰いだ。

 興味深そうに僕と埴輪を見ていたドライアドは、僕の言葉に首を傾けた。


 『出来ない。さっき、お前の魔力、暴走させただけ。お前、今、魔力、切れた』


 嘘だろ!?何も出来ないのか!?僕が後先考えずにレッドボアに立ち向かったから?どうしたらいい?


 『そいつ、動く、お前、嬉しい?』


 どうすることも出来ずにうろたえる僕の顔を、ドライアドが覗き込んできた。


 「埴輪はこの世界で始めての友達なんだ!なんとか助けたい!」


僕が叫ぶと、ドライアドはレッドボアの死骸を指さした。


 『コイツ、キングレッドボア、強い魔物。コイツの魔石、つかう』 


 キングレッドボア?普通のと違うのか。だからこんなにデカイのか。魔石?あるのか?どうやって使うんだ?考えてる場合じゃない。とにかくレッドボアから魔石を取り出せばいいんだな。

 

 『魔物の心臓、魔石、ある』

 

 レッドボアの前立った僕に、何故か嬉しそうにドライアドが指示してくれた。その場所に力いっぱい剣を突き刺し、一気に割いた。

 ドロリと血と内蔵がこぼれ出てきた。構うことなく僕はその中に手を突っ込んだ。そして、まだ温かい心臓を引きずりだし、人の頭ほどある心臓を割り、中から魔石を取り出した。拳大ほどの赤い水晶のようだった。

 取り出した魔石を急いで埴輪のところまで持っていく。


 「ドライアド。これをどうすればいいんだっ!」


 『食わせる』


 「は?」


埴輪は今、意識不明(?)なんだぞ!どうやって食わせるんだっ!戸惑いながら口元に魔石を持って行った。

 いきなりだった。直径1cmくらいの埴輪の口がグワっと拡がったのだ。そして拳大の魔石をスルっと飲み込んだ。ア然とした僕を余所に、魔石を吸収した埴輪のヒビはみるみる消えて行った。

 

 


   


 



 

 

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