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魔法使いの庭

作者: 新橋

 黄昏が訪れる。


 逢魔時おうまがときと呼ばれる、昼と夜が交わる時間。


 眼前には、見慣れた庭。

 ささやかだけれども、よく手入れが行き届いた自慢の庭園。


「ああ……まるで一幅の絵のようだ……」


 魔法使いは呟いた。


 風が樹木を揺らし、葉を舞わす。

 風に合わせて、光りが踊る。


 老人は、そっと手をかざす。

 まるで、眼前の風や光りを捉えようと。


(あの光りの一粒でも…自分はこの手に掴む事ができただろうか…)


 究理の探求に費やした生涯。

 深淵への到達に挑み、そして道半ばにして逝く運命。


(魔法使いとは…その様なものだ……)


 魔法使いは、そっと指輪を外す。

 魂と引き換えに不死の怪物に転生できる、呪いの指輪。


 黒い染みが魔法使いの視界の端に現れ、悔しそうに消えてゆく。

 老人は最後に尖った尻尾を、見た気がした。


 逢魔時…。


 彼は、最後の試練に打ち勝った。


 人として生き、人として死んでいく。

 延長もやり直しも、老人は拒絶した。


 限られた時の中で、精一杯生き抜いた。

 それだけの自負を、積み上げる事ができた。

 己の魂を売り払って、仮初の生にしがみつかずに済んだ。


 指輪を弾く。

 乾いた金属音を響かせ、それは花壇の傍に落ちた。

 物言わぬ土人形の園丁たちは、気にも留めずに働き続ける。


 老人は苦笑した。


 眼前には、見慣れた庭。


 ささやかだけれども、よく手入れが行き届いた自慢の庭園。


 老魔法使いは、静かに瞼を閉じた。



 FIN

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