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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~  作者: メラニー
第三章 双子と死神
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38話 伝えられしもの 7/8

ソーラの「ストローは数日は安静」という言葉の通り、数日はペンタクルの町でゆっくりと過ごした。

晴れて神さまの影武者の任務を解かれ、チャルカもペンタクルの町に来ることができるようになっていた。

今晩は最後の晩餐に、ハラペーニョで女将がとっておきの腕をふるってくれた。

「さぁ! たーんと食べておくれよ! 」

「かーちゃん、めちゃくちゃ豪華だな! 」

テーブルに並んだ料理の数々を見て、ラロが目を輝かせた。

「ラロ! あんたにじゃないよ! ほら、お嬢ちゃんたち、冷めないうちに食べておくれよ。そっちのインコちゃんにもちゃんと果物を用意してあるからね。」

と、フルーツの盛り合わせを指さした。

『きゃりっっっ!! 』

インコちゃんと呼ばれたことはちょっと気にかかるが、それを上回るフルーツの盛り合わせに、メリーがフルーツめがけて一直線。


メイシアと、ストロー、チャルカ、ラロが取り皿に思い思いのご馳走を盛り付ける。

「ほら、あんたは卵ばっかり食べてないで、肉も野菜も食べな! 」

と女将がチャルカの目の前に野菜がたっぷり入ったスープを置いた。チャルカも女将の迫力に圧倒され、突き返すことなく、受け入れる。

「ところで、もう一人のお嬢ちゃんはまだ仕事終わらないのかい? 遅いねぇ。」

ウッジだけがこの場にいなかった。

ウッジはアレハンドラから、話があるので残ってほしいと言われ、一人遅れてハラペーニョに来る予定になっている。


「どうしたんだろうね。ウッジ。」

「なんか、すっごくアレハンドラさんに気に入られていたからなぁ…」

どうやらウッジはアレハンドラに、祭りの最中に使った術により、素質があると見込まれてしまったのだった。

日食で太陽から力をもらえない分、人から力を引き出すしか無かったのでエネルギー補給的な意味合いで一緒に呪文を唱えさせたというのに、まさか一度で使えるようになってしまったのだ。それは数百年に一度のレベルで逸材だったらしい。

しかも、二度目に呪文を発した時、皆既日食継続時間だったので、太陽からの力は殆ど届かないのに、死神の攻撃を食い止めるほどの威力を発揮したのだ。アレハンドラの惚れ込みは半端ではなかった。


その話になって、とたんに元気がなくなってしまったのが、ラロだ。

ラロは神官になりたくて、神殿に出入りしているのだ。あの日から、その座をウッジに奪われたかと落ち込んでいるのだった。

「ラロ、元気出してよ。私、アレハンドラさんが、ラロの事を褒めているの聞いたよ? 」

慌ててメイシアがフォローを入れる。

「ほ、本当ですか!? 」

「オラも聞いたよ! あの子はああ見えて察しが良いとかなんとか…」

「そーっすか! 嬉しいなぁ! 」

「そりゃ、褒め言葉じゃないねぇ。」

女将がせっかくの上昇気流に水をさす。すると、いとも簡単にラロの火は鎮火。

「どうせオイラは、まだ術を使ったことはないですよ…教えてももらっていないし…」

「まぁまぁ、ラロはあの場にいなかっただけで、あの場にいたらアレハンドラさんだって、きっとラロを頼りにしていたよ。」

メイシアが必死で繕う。そこに、女将の「どうだか。」という言葉がトドメの一撃になって、ラロが下を向いて固まってしまった。


ギィと音を立ててドアが開いた、と思うと、そこにはこれまたラロに負けず劣らず暗い顔のウッジが立っていた。

「お、おかえりウッジ。お疲れさま。…疲れたでしょ。さ、座って。ストローの横が空いているよ。」

ウッジの暗い形相に、びっくりしたメイシアが迎え入れた。

「どうしたの? ウッジ、死にそうな顔して…」

幽霊のように音もたてずテーブルまで来ると、促されるままストローの横の席に腰を掛けた。無言で下を向いている。

「ウッジーー! お腹へったでしょ! これ食べて! 」

と、チャルカが先ほどの野菜スープをウッジの前に出した…が女将と目が合って、ひっこめた。


「まぁまぁ、何があったか知らないけど、そんな湿気しけた時はこれに限るよ! おごりだよ! 飲みな! 」

女将が小さなグラスに入った少し琥珀色がかった飲み物を差し出した。

ウッジは言われるまま、それが何か確認もなしに一気に飲み干した。

「だはーーーーーー!!! 」

飲み干した流れてで火を噴くがごとく雄たけびを上げる。

「こ、これなに!! 」

「リュウゼツランで作ったお酒だよ。テキーラってんだ。どうだい、嫌な事なんて吹っ飛んじまっただろ? 」

「お酒…」

酒だと聞いて、クラッとテーブルに突っ伏してしまった。

「なんだい、口に合わなかったかい? 」

「…いや、たぶん、ウッジはお酒飲むの初めてなんですよ。って、オラも飲んだことないけど。」

「そうかい! そりゃ、珍しいねぇ。先生も、どうだい。今日はおごるよ。」

女将がストローに、ショットグラスを差し出した。

「いやいや、オラは結構です。お気持ちだけで。っていうか、オラ、先生じゃないんですって! 」

「アタシらにとっちゃ、ここにいるみんな先生さ。あの死神を追っ払ってくれたんだからね。」

その時、ウッジがムクリと顔を上げた。

「そー! その死神ら!! 」

「ウッジ、もう管を巻いてるの? ウッジ、これ飲んで。」

メイシアが、ウッジに水を差しだした。

それをぐびっと一口飲むと据わった目で話し始めた。


「その死神! やっつけられていないろ! もう、ろこに行ったのかわからないって、一体ろーゆーこと!? 」

完全に酔いが回ってしまっているのか、いつものウッジではない。ろれつが回っていないのはともかく、声も大きければ語気も荒い。

チャルカはウッジの豹変ぶりにびっくりしたのか黙りこくってしまった。

「仕方ないじゃない。消えてしまったんだから。それより、ほら、明日出発するのに二日酔いになるよ。もっと水飲んで。」

ストローが水を飲むように促すが、コップを手に持ったまま話は続く。

「何?! ストローはここに居たいかもしれないけろれぇー! ウチは絶対明日出発するから!! 」

完全に絡み酒だ。

「はいはい。どうしたの、興奮して。オラだって、早く出発したいよ。」

すると、急に今度は泣き上戸にスイッチが切りかわったウッジが涙ながらに語りだす。

「うえーーーん…聞いてくれるの? どうしたかって? 」

「はいはい。聞くから。だからお水飲んで…」

メイシアがウッジのコップを持っている手を口にもっていこうとする…が号泣に入ってしまう。

「おやおや。大した大虎だねぇ。」

「…かーちゃんのせいだからな、」

ラロが女将をジト目で見ると、気まずいのかアラアラなんて言いながら、女将はキッチンに入ってしまった。


「ほんと、ごめんよ…かーちゃんのせいで…」

「私たちも、ウッジがこんなにお酒に弱いなんて知らなかったから…」

「とりあえず、今日はこのまま連れて帰…」

と、ストローが迷惑をかけられないと、この場をお開きにしようとしたとき、またウッジが嗚咽を漏らしながら話し始めた。

「チャルカが、ちょっと神さまりなってしまったんらってぇぇぇえええ!!うわーーーん! それれ、ここに残れって言うろーーー!! 」

あまりの事に誰も何も言えない。いや、まず理解が追いつかない。

「それり、ウチも神官にしてやるからここで修行しろって、アレハンドラさんがぁぁぁああ!! ひーーーーん!! 」

突っ伏して泣き一点張りに突入したウッジをよそに、メイシアとストローが顔を合わせた。

その横で、ウッジの号泣につられてチャルカまで、意味も分からず号泣モードに入ってしまった。

そして、魂の抜けたものがもう一人…。ラロはもう生きる屍と化して微動だにしなかった。


そんな夜は更けていった。



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