表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~  作者: メラニー
第三章 双子と死神
37/56

36話 伝えられしもの 5/8

死神とメリーのにらみ合いは続いていた。

死神は、少しでも隙が出来たら突進してくるつもりで、左手には大鎌も新たに出現され握られていた。

禍々しい大鎌の輝きが、こちらににらみを利かせている。


「とりあえず、わたくしどもは、太陽の力が最弱とはいえ、コロナが力を届けてくれる事を信じて結界を張ります! 」

そういうと、アレハンドラと巫女はもう一度陣形をとり、結界結界を張ろうとした。

「ちょっと待ってよ、アレハンドラさん! オラ、聖書なんて渡されても、どうしていいのか…これでどうやって戦えというのですか? 」

「それはトーラという特別な聖書です。正しい者が正しい心で聖書をめくれば、必ず力を貸してくれるのです。では…オーイ エピリトゥース…セラル オリヒナァール オリヒナァル エレ ノンボレ デ ラ エネルヒア ソラァ…デフィンディアル セニョール ポル ミン インスプルピキオール! 」

アレハンドラがストローを振り切って呪文を口にした。

出現した結界は、先ほどとは比べ物にならないくらい色の薄いものであったが、反してアレハンドラと巫女の表情はとても険しく、額に汗が噴き出していた。


「待って!ウチもする! 」

「ウッジさんは、チャルカさんを助けてください…」

アレハンドラが絞り出すようにウッジに答えた。

とても辛そうで、さっき体中が燃えて灰になってしまうような感覚を知っているウッジは、見ていられなかった。

その苛立ちが横にいたストローに、理不尽だとわかっていないがら向かってしまう。

「ストロー、何でもいいから早く、その聖書で助けてよ! 」

「そんなこと言ってもオラ…」

本で助けろと言われても、ストローも困ってしまう。聖書の言葉で死神を改心させろとでも言うのか。


「こんな時にケンカなんかしないで! 」

見かねたメイシアが二人の間に入った。

その時、突然達成の鍵がぽわっと光ったかと思うと、トーラにその光をレーザービームのように落とした。

「え、な、何これ? どういう事? 」

慌てるメイシアをよそに、その光がまた移動して、トーラからストローの手を通り胴を通り、顔まで移動した。

「わっ! わっ!! 」

ストローも混乱して少しパニックになったが、光が額に達した時、ストローの様子が急に大人しくなり、スッと目を瞑った。

「…ストロー? 」

「ちょっと! 大丈夫? 」


二人の心配をよそに、目を閉じたままのストローが聖書を左手に持ち、右手を聖書にかざした。

「……ボアズとヤヒンのはざまに漂いし真実、我に知恵を授け給え…」

「ストローどうしたの? 」

「急に何を言ってるんだ? 」

ストローが呪文のようなその言葉を口にすると聖書がひとりでにパラパラとめくれ、あるページで止まった。

すると開いた聖書のページが青く光り、開いた聖書の上に弓とえびらに入った矢が二本現れた。

「わ! 何これ。なんで出てきたの? これ、本から出てきたの? 」

メイシアは今の一部始終見ていたのだけれど、信じられない様子だ。

「これ…弓? ストローこれで戦えっていうのか? 」

ウッジが話しかけてもストローは目を瞑ったままで何も答えず、様子がおかしいままだ。

メイシアが勇気を振り絞って、恐る恐るその弓矢を手に取ってみた。

「…わ、私これで戦ってみる! ウッジは、チャーちゃんを助けてあげて! 」

そういうと、メイシアは立ち上がり箙を背負った。

「チャーちゃんのこと、よろしくね!」

そしてメリーの横に立ち、矢を一本箙から抜き取り弓を引いた。


相変わらずストローの様子はおかしい。

しかし、刻一刻と皆既日食継続時間は経っている。

ウッジは立ち上がり、祭壇に向かった。脚がさっきの術を使ってから痺れが取れず、うまく動けない。

祭壇の上ではソーラが一所懸命に呪文を唱え、チャルカの意識を呼び戻してくれているようだった。

なんとか足を引きずり、這うように祭壇を上り、ソーラに話しかけた。

「どうですか? 」

「ダメだ…太陽が隠れている状態では、妾の力なんて…。ましてや、今契約を更新している状況、もう妾は神ではないのかもしれぬ…」

目の前にいる、見た目の年齢はチャルカと変わらない女の子。その子が神さまだと言われれば、そうなんだろう。実際、それが真実だ。

しかし今現在ウッジの目の前にいる弱っている者は、やっぱりどう見ても幼女だ。チャルカと何も変わらないではないか。

一体この女の子の身に何があったかは知らない。

でもさっき、この子はここで諦めてしまったのなら、この子の命はないと言っていた。そして、自分からもチャルカが奪われてしまう。

いや何よりも今は、この子の心が折れてしまっていることが、ウッジとって一番助けないといけない事なのだと思えてならなかった。


「何を言っているの! あなたがやらないで誰ができるの! あなたにしかできない事をやるという責任と誇りを持ちなさい! 最後まであきらめちゃダメ! 」

「……。…妾に説教か、人よ。」

「人も神もないでしょ! ピラミッドの下を見ましたか? あなたの事を信じ、慕い、信仰している人々が、こんなにも集まって、しかも今あなたを応援しているのですよ! 」

ソーラが祭壇からピラミッドの下を見下ろすと、あふれんばかりの人々の目があった。祈る手があった。

一昨日、ラロがあんなにソーラの体の事を心配していた。ハラペーニョのおかみさんもだ。

きっと、ここに集まっている人々はやじ馬なんかじゃない。

太陽の神が死神なんかに負けないと信じているからとどまっている、心から太陽の神を慕い、信じる人々なのだ。

「…すまない。妾はまた自ら心を曇らせていた。もう一度やってみる。そなたはこの子の仲間なのであろう? 」

「仲間…? 」

「力を貸してくれるか? 」

「はい! 」


そういうと、ソーラがウッジの肩に手を置いた。そして呪文を唱えだす。

ウッジの意識がまた体の外にエネルギーとなって出たような、そんなフワフワとした感覚になった。先ほどのような痛みは無かった。

「その娘を迎えに行ってやってくれないか…仲間の声なら届くやもしれん…」

「はい…」

ウッジは自分の体を飛び出し、チャルカを抱きしめた。そして、奥へ奥へと入っていく…


「やだよぉー! やだぁぁぁああ!!! この帽子がいいの! 」

「でも、ほら、ここのところもほつれているし、ここも染みが付いて汚いわよ。」

ウッジはあの噴水広場に繋がる路地にいた。

町の一等地にあるヤーンさんの店の前で、チャルカとヤーンさんが言い争いをしている。

なんでだ…あの時の…。なぜかズキンと胸が痛む。


「ほら、お父さんが作ってくれた帽子、かわいいわよ。一度でいいから被ってみたら? 気に入ると思うわよ。」

「やだ! 帽子もかわいいけど、こっちがいいの! 」

ここで何もしないという選択肢だってある。

そう。あの時はその選択をとったのだ。

それで、チャルカとの仲は別に何も変わらなかった…はずだ。…表面上は。


でも、もしその選択が不正解だったとして、何ができるというのだ。

自分も孤児で身の振り方すら決めていない。経済力だってない。何の責任も取れる立場にないのだ。それだけではない。ヤーンさんは大人だ。しかもこの町の名士だ。こんな小娘が説教をして何になる。

鼻で笑われて、終わるだけだ。


ーーーー『そなたはそれで良いのか?』


ウチは…ウチはどうしたかったんだろう。

悪い事をしているなんて思っていないのに、なんでこんなに後ろめたいの?

ただシダーが、ウチが院にいる口実づくりにあてがっただけの子供に、どうしてこんなうれいを味わされているの…


ーーーー『その娘は、仲間なのではないのか?』


…仲間?

ウチはただ、チャルカがいつもまとわりついてきて迷惑だった。…でも、ちょっとこんなのもいいなって思う事もあったりした。

でもね、でも、この子は結局ウチの家族にはならないの!

いつかは誰かの養子になって、誰かの家族になってしまう!

そうしたらウチはチャルカの部外者。他人。…また独りぼっちになってしまう。

いくら今懐かれたって、そんな惨めな未来が絶対待っているのに、ホイホイ笑顔でなんて受け入れられない!


どうしてウチを愛する者は、ウチを生かしておくの!どうしてウチの事を愛しているならウチを殺さないの!

どうして、ウチに苦しい寂しい惨めな思いばかりさせるの!

本当にウチの事を愛していたら、そんな思いをしないように殺してしまうのが愛情ってものなんじゃないの!


ーーーー『……。』


何か言ってよ!

ずるい…

ずるい…ずるい…ずるい!

ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!ずるい!


ーーーー『そなたはいつも、そうやって人の想いや行為をずるいとさげすんできたのだな。』


ずるいものはずるい!

ウチはずるいことはしたくないの!ずるい事は一番卑劣な行為だ!

愛していると言い訳をして、自分が可愛いから要らない子供を殺さないずるさ。

自分の優しさを表現するために、自分が自ら優しいと思いえるように、人を心配するように見せかけるずるさ。

本当の家族なんかになれるはずもないのに、家族のようにふるまい、それを人に強要するずるさ。

もうたくさん!


ーーーー『……。妾はそなたに何も与えることは出来ない。だが、今本当の自分の気持ちと向き合ってくれるのなら、妾はこの先、そなたの行く道をずっと見守ることにしよう。神の目はいつもそなたに注がれておる。そして、気が付いていないだけで本当はあの日も注がれておったのだ。』


…あの日?


「やなの! この帽子はウッジがくれた帽子なの! 」

「もう! 聞き分けのない子ね! そんな子はもう知りませんよ! 」

そういうと、ヤーン氏の奥さんが手を上げた。

「その手、どうするんですか? 」

ウッジがすかさず、割って入った。


「ウッジー! 」

チャルカがウッジの後ろに隠れてしがみついてきた。

バツのわるい奥さんが、手を引っ込めた。

「何だい、君は。」

代わりにヤーン氏がウッジに問いかける。


「私はこの子の今現在の保護者です。"そんな子知らない"とは、どういう事ですか? 知らなくなったらどうなるんですか? 」

「あぁ、話は聞いているよ。ウッジさんだね。今までチャルカを世話してもらっていたようで、ご苦労さまだったね。これからはもう君の手は煩わせないから、安心してくれたまえ。」

「ねぇ、ウチの質問に答えてください。」

ヤーン氏がため息を一つ。

「…知っているのだよ。君がどれだけチャルカの世話を嫌々やっていたのか。もうその苦痛からも解放されるんだよ。私たちにも待望の娘ができる。お互いウィン・ウィンじゃないか。どうだい、握手をしようじゃないか。」

ヤーン氏が笑顔で手を出してきた。


ウッジはグッと握った拳を自分の胸にドン! と叩きつけた。

カラカラという音がしない…

「何をやっているんだね、君は。」

「なんでも構いません! あなたには関係のない事です。…チャルカの事ももう構わないでください。」

「ははは!そんな事、君の決めることではないのだよ。」

「じゃぁ、誰が決めるんですか」

「それは大人が決めるんだよ。」

「…違います。」

「あなた。この子も聞き分けのない子ね、こんな子に世話をしてもらっていたから、こんな子になったのよ。早く縁組して家に住まわせないと。」

「…そうだな、」


「あなた方は間違えています。」

「ほぅ。間違えているとは?」

「最終的に決めるのはチャルカです。彼女がどうしたいか決めるべきです。」

「あははは!これは愉快だ。何を言い出すかと想えば。こんな小さな子が自分の未来の事を決められるはずないだろう。大人がちゃんと良い未来になるように誘導してあげなければ。」

「確かに、それは一理あります。しかし、チャルカは嫌がっている。」

「それは一時的なものだよ。すぐにこちらの生活に慣れて、こっちの生活が楽しくて、そんなことは忘れてしまうよ。…それとも、何かね? チャルカが慣れない生活を不安がっている事にかこつけて、本当は君がチャルカを手放したくないだけでは無いのかね?」


「……。」

「そうなのよ、この子、惨めね。寂しくなったら遊びに来てくれてもいいのよ。ちゃんとお菓子とお茶を出してあげるから。うふふふ。」

「わかったね、もう君は院に戻りなさい。」

「…やです…。」

「ん? 」

「嫌です! ウチは…私はまだまだ半人前です! 子供です! 自分の仕事も見つけられていません! でも、だからと言って、チャルカを…大切なチャルカを、チャルカが話そうと、伝えようとしている事に耳を傾けない人に渡すことなんてできません!

チャルカには親が必要です。でも、お金や洋服を与えてくれる親が必要なんじゃないんです。チャルカが本当に必要なのは、チャルカの事を無条件に愛してくれる存在なんです。私だったらそれができます! チャルカには私が必要です! そして、私…ウチにもチャルカが必要なんです! 」


一転。視界が真っ白になった。

また気を失ったのか…と一瞬思ったが、チャルカが目の前にいるから、そういうわけでもなさそうだ。

今、あんなことを言ったから、チャルカと目を合わせるのがすごく照れくさい…

でも、がんばって、しゃがみこんでチャルカを覗き込んだ。

「…チャルカ。」

「…ウッジ…チャー、一緒にいてもいいの? 」

と、もじもじしている。

「……今、言ったでしょ、聞こえてなかったの、、」

「……。」


「もぉ、仕方ないな。一緒にいてもいいよ。大人になるまでずっと一緒いよう。」

「…聞こえた。ウッジぃぃ、聞こえたぁぁぁああ!! ウッジの声、聞こえたよぉぉおお! 」

チャルカがウッジに抱き付いた。

ウッジもチャルカをぎゅっと抱きしめた。


「よくやったな、人……ウッジ。」

気が付くとウッジは先ほどと変わらず、祭壇の上だった。

「そうだ! チャルカ! チャルカは! 」

「はーい! 」

そういいながら、チャルカが杖を持っていない方の手を挙げた。

「ウッジのおかげで意識をこちらに呼び戻すことができた。さ、ムスメ、交代するぞ。妾がソーラだ。多大な迷惑をかけたな。」

そういうとソーラは、杖を今の状態から動かさないように細心の注意でチャルカから受け取り、杖を握り終えるとチャルカがソーラに場所を譲った。

そのままソーラは、今までチャルカがしていたように、スッと瞑想に入った。

ウッジはチャルカのお面を外すと引き寄せて、さっきのように、ぎゅっと抱きしめた。

「…どうしたの? ウッジ、気持ちわるーい」

「え? 今の全部ウチだけしか経験してないの? 」

「なんか、ウッジ変! 」

「……。いいの。」

そういって、もう一度チャルカを抱きしめた。ウッジに抱きしめられて、チャルカは嬉しそうだった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ