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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~  作者: メラニー
第三章 双子と死神
31/56

30話 ペンタクルの密林 5/6

神殿は朝から大変だった。

いつもの静かな夜明けは、一転していた。

太陽の神の1日は瞑想から始まり、世界は光に包まれる。

しかし、今朝は夜からずっと、とある少女の泣き声が響き渡っていた。チャルカだ。

ホームシックというか、ウッジシックというのか。

もともと大家族のような所で育ってきて、まわりは良く知った人ばかりの環境だったのが、いきなり全く知らない人? 神? だけの環境に放り出されてしまったのだ。

自らそうすると言ったものの、それは乗せられてつい言ってしまった大口なのだ。


「ウッジぃぃぃーーー! メリーーーちぁああぁぁん!! 」

巫女が入れ代わり立ち代わり、あやしに部屋へ行くのだが、効果はゼロ。

祭りでチャルカにしてもらいたいことを、あれこれと伝えたいのだが、話にならない。

そんなこんなで迎えた午後。

サンをはじめとする神殿の者一同は、メイシア達がやって来てくれるのを首を長くして待っていた。



神殿の者達が、一日千秋どころか一時間千秋の想いで待ちわびた一行が姿を現したのは、お昼を少し回った頃だった。

みんなが来るのを待ちわびていたチャルカは、一行が神殿に到着するや否や、ウッジに「遅いーーー! 」と当たり散らして泣いた後、やっと安心したのか眠ってしまった。

ウッジにとっては遅いと言われても、昼からしか神殿に立ち入れないのだと、ラロに聞いていたものだから、心外なのだがチャルカしてみれば、空が白んだあたりから「そろそろみんなやってくるから」となだめられていたので、遅いと言うのも納得がいくのである。

そのままチャルカは、アレハンドラが用意した寝室へと、ウッジ付き添いで行ってしまった。


しかし、ここまで神殿の内部がチャルカ一人でぐちゃぐちゃになっていたとは…、逆にチャルカに感心してしまう。

そんなこんなで屋敷内が混沌としていたものだから、同伴している神の記憶を持たない"女の子ソーラ"の紹介が出来ないまま、何となく事が進んでいる。


神ソーラがいなくなって女の子ソーラが目を覚ました後、神ソーラが意識下で頑張ってくれたのか、女の子ソーラのオラたちに対する警戒心は殆どなかった。

もしかしたら、もともとそういう女の子なのかもしれないが…。

「そろそろお昼だし、おいしいものを食べに誘いに来たんだよ。」なんて、ありえない一言を信じて、のこのことついて来たのだ。

当たり前だが、行きと同じ思いをして(この土地に住んでいるラロとソーラと肩の上に乗っているメリー以外だが…)森を歩き、ハラペーニョで少し早い昼食を食べさせてもらって、再び会わせたい人がいると言って神殿まで連れてきたのだった。

女将さんはソーラの髪が黒いせいか、名前がソーラであってもまったく神ソーラだという事に気づかなかった。この親子は…。

街中ですれ違った人も、気が付くものは誰一人としていなかった。


とにかく明るく、よく笑うかわいい子で、素直というか純真無垢というか…扱いやす過ぎて、こっちが拍子抜けしてしまう。

メリーもひと役買ってくれて、とびきりの愛玩動物っぷりを発揮して女の子ソーラのお気に入りになってくれた。

ソーラの家からペンタクルまでの道中と神殿までの間、死神が姿を現すかとびくびくしたが、やはりソーラの言っていた「太陽の力が弱まるとき」を待っているのか、姿は現さなかった。

それにしても神ソーラが最後に伝えようとしていたことが気になって仕方がない。

どこかにそれを知る鍵は無いかと考えるが、糸口すら思い当たらない…



通されたのは、応接室のような一室だった。

そこへ行っても、ソーラはキョロキョロするばかりで、まるでお登さん丸出し。誰が見てもここへやって来たのは初めてのような様子だった。

やはり神だった時の記憶はないようだ。

「ソーラちゃん、ここに来た事ある? 」

メイシアが、それとなくというには、核心を突きすぎる質問をソーラした。

「ないよー? メイシアお姉ちゃんはあるの?」

「う、うん。私は昨日来たんだけどね。この部屋は初めて。」

「そっか! 広いお家だねー! すっごいお金持ちのお家だね! 」

やたらと広さに感心しているようだった。


「お待たせいたしました。」とアレハンドラが部屋に入ってきた。

アレハンドラは、やはりソーラに目がいったようで、驚きで声も出ない様子だった。

一方ソーラは、アレハンドラ駆け寄り、無邪気に挨拶をした。

「初めまして! ソーラと言います。今日はお招き、ありがとうございます! 」

「…これは、」

「アレハンドラさま、驚いたでしょう? 」

「ラロ、これはどういうことですか? 」


「オイラもまだ、信じきれないのだけど、この方が本物のソーラさまらしいんです。」

「一体どちらに…それよりも、ソーラさまはお記憶が…?」

「はい。ソーラさまは記憶を無くされていますので、初めましてと…」

「……。」

突然そう説明されたとしても、なかなか受け入れられるものでは無いだろう。

アレハンドラは、眉間にしわを寄せて判断を決めかねている感じだったが、心が決まったのか、ソーラの前にひざまずき、

「初めまして、ソーラさま。アレハンドラと申します。」とあいさつをした。


「しかし、どうして…。わたくし共も、ずいぶんとソーラさまをお探したのです。一体どちらに…」

席に着き、驚きから少し落ち着きを取り戻したアレハンドラの顔が、次は落胆しているように見えた。

「偶然なんです。ソーラさまと知らずに森の外れに住んでいる女の子を訪ねて行ったら、ソーラさまだったんです。」

「森…ですか? 」

アレハンドラからしたら森だろうと洞窟だろうとくまなく探したのだろう。

「ペンタクルの町を挟んだ向こうの森の奥です。ラロに案内してもらって行ってきました。本人が言っていたのですが…おそらく、見つからないように結界を張っていたのでしょう。」


「ケッカイ? ってなぁに? 」

子供の耳というものは、もれなく"聞かれたくない言葉ほど引っかかってしまう特殊フィルター"が標準装備されている。女の子ソーラも例外ではなく、今からアレハンドラと話したい事はソーラには聞かれたくないことばかりだと思われる。正直ここでは…話しづらい。


「ソーラさま! オイラとお外で遊びませんか? そうだ、秘密基地に行きましょう! あの木の上の、枝が生い茂っているところがまるで秘密基地みたいなんです! ご案内しますよ!」

いきなりラロがソーラの手を取った。

「秘密基地! うん! 行きたい!秘密基地、行ってみたい! 」

ラロの遊びのお誘いに、ソーラが目を輝かせた。ラロのソーラ釣り大成功。


「ソーラさま、女の子だからなぁ。登れるかなぁ? 」

「登れるよー! メリーちゃんも一緒にいこー! 」

『…きゃりっ』

「ちょっと、外で遊んできますね! ソーラさま行きましょう! 」

「ちょっとラロ! 」

とメイシアが止めようと呼びかけるも「では、お話をごゆっくりどうぞ。」とソーラと、こっちに残りたそうだったメリーを連れて外に出て行ってしまった。


パタンと扉が閉まり、子供の声が遠ざかってゆく。


「…大丈夫でしょうか? 」

「エドァルドはああ見えて、状況判断のできる賢い子なのです。」

「といっても、死神が…」

死神という言葉を聞いて、アレハンドラが小さなため息をこぼした。


「もう、死神の事まで知っているのですね。一体この一晩でどれだけの事を調べて来たのですか…。」

「いや、調べ来たというか…成り行きというか…」

「とりあえず、ここでは死神は心配いらないでしょう。神殿の聖域の中には、今は死神は入れないはずです。それに、万が一の事があったとしても、グリフォンが付いているのですかから、手出しはできないでしょう。」

…グリフォンってそんなに力を持っているのかなぁ。オラが知っているグリフォンは甘え上手なだけというか、世渡り上手なだけというか…。


「ところで、サンはいないのですか? 」

メイシアがサンを気にしているのは、会いたくないからなのだろうか…? 気になる様子だった。

「サンさまは…昨晩お休みになれなかったので、お昼寝をされていらっしゃいます…」

眠れなかった…その話には、触れないでおこうと、オラとメイシアの間で一瞬にして意思疎通できた。


「…結界の話の続きですが、先ほどソーラさまご本が言っていたとおっしゃいましたが、ソーラさまの記憶はないのでは? 」

「はい。信じがたい事だと思いますが、私たちが最初にお会いしたのは神であるソーラさまでした。何からどう話せばいいのかわかりませんが…」

「オラの考えを言ってみてもいいかな? かなり想像の部分もあるんだけど。」

「ぜひ、お願いします。」

自分なりに今起こっている事を整理をして、浮かび上がってきた仮説がある。

そして、アレハンドラ自身にも、きちんと確認したい事。


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