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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~  作者: メラニー
第三章 双子と死神
28/56

27話 ペンタクルの密林 2/6

ちょうど朝食を食べ終わった頃、タイミングを見計らったように、ラロが宿まで迎えに来てくれた。

「おはようございますっ! 」

朝から元気がいいな!


「ラロ、おはよう! 早く神殿に行こう! 」

ウッジがラロを見た途端、俄然元気になってグイグイ話しかける。

「あー、すみません。神殿は午後からしか立ち入ることができないのです。午前は神聖な時間なので。」

「そんなぁ…」

「じゃぁチャルカは、午前中何しているんだろう? 」

「チャルカって誰ですか? 」

「あ、何でもない、何でもない。こっちの話。」

「? …そうだ。忘れてた、これ。」

ラロが手提げの袋を差し出した。

「なにこれ? 」

「グリフォンの朝ごはん困っているんじゃないかと思って。かーちゃんからフルーツをもらってきたんだ。」


『きゃりっ! 』と胸のあたりで声がした。

「お、今日もそこにいるんだね。とりあえず森まで行って、そこで食べたらいいんじゃないかな? 」

「森って、昨日言っていた女の子の…? 」

メイシアの一言で昨日の悪夢が蘇ってきた…

あぁ…そうだった。そんな話をしていたんだった…オラは医者という事になってしまっているんだった…

「そうだよ。神殿と反対側の森なんだけどね。あんまり人が行く場所じゃないから、きっとグリフォンが顔を出していても平気だよ。さ、時は金なり。出発しよう!」

そういうと有無も言わせず、ラロが歩き出した。

肩を落としているウッジも「おー」なんて相づちで強がり、メイシアもオラの気持ちなんてお構いなし。

オラは…ついていくしかないようだ…



東の砦に着いた時もそう思ったが、ここの森は、むせ返るような…また、人を拒絶すようなそんな雰囲気がある。気根きこんというのだろうか。樹木から垂れ下がった髭のような根っこやら、蔦の絡みついた枝。地面もたくましい根っこが網目状に盛り上がって歩きにくい。

昨日の赤茶けた砂漠からは考えられないくらい湿度があり、不快指数が高い。


ラロからの差し入れの果物を食べ終えたメリーは、人目がないのでチュニックに隠れる必要も無く、ずっとラロの頭の上に乗っていた。それだけは助かっている。

もしオラのチュニックの中に隠れないといけなかったら、それだけで暑苦しい…

と、そんな事を考えている場合ではないのだ。オラはもう死刑宣告を受けているようなもので…


「ラロくーん、まだ着かないの? 」

メイシアが限界と言わんばかりに、先頭を軽い足取りで進んでいるラロに声を投げかけた。

時間的にそんなに歩いたわけではないのだけど、もうヘトヘトだった。


「まだですよ。あれ? みんなさん、お疲れみたいですね。」

「ラロ、ごめん…ウチ頭が痛くなってきた…息を吸ってもぜんぜん息が出来ないというか…」

ウッジが疲労困憊で、耐え兼ねて座り込んでしまった。

「ちょっと休憩しよー」

それに続いてメイシアも脱落。


「じゃ、ここでちょっと一休みしましょうか。」

ラロの一言にメリーが『ぴゅろろろろ』と鳴いた。先頭を行くラロの頭の上がお気に召したのか、ご機嫌な様子だ。

「そんなこと言っても、メリーはずっとラロの頭の上だから楽だけどさぁ。」

「そうよ。メリーちゃんずるい。」

「ウッジさんもメイシアさんも、グリフォンとしゃべれるなんて、ホントすごいですね! 」

ちょうどよさげな湾曲した枝にラロが腰を掛けて、目をキラキラさせた。


「え? なんとなくだよ。メリー、しゃべれたらいいのにね。」

「えー。このままの方が可愛いよ。ねー、メリーちゃん。」

『きゃりっ』

「オイラもグリフォンのしゃべっている事、わかるようになりたいなぁ。」

『ちゅぴっ』

「あはは! ありがとう! …あれ? 今のしゃべっているのが分かったのかな? 」

「うん、きっと『なれるよ』って言ったよね。」

「わーーー! すっげぇ! オイラ、グリフォンのしゃべっている事わかるようになった! 」


「ところで、さっきからストローが静かだけど。大丈夫か? 」

いや、オラは気配を消していたから…

「う、うん。大丈夫…。ウッジこそ、大丈夫? さっき頭が痛いって言っていたよね。眠くなってきてない?」

「…うん、頭はさっき痛くなり始めて。でも、まだ眠くはないよ。」

「ラロ、この辺りって山の上なの? 」

「ああ、そうだよ。オラは山から下りたことはないから、山だっていう感覚はないんだけど、よそから来た商人が登ってくるのが大変だったーとか言っているね。」

「…なるほど。」

「ストロー、山だとどうなの? 」

「たぶん、ウッジは高山病になりかかっているなぁ…。」

「コーザン病? 」

この立ち入ることを拒絶されている感じは、標高が高いからだろう。


「オラたちが暮らしていた場所よりも息がしにくいんだよ。だから、オラたちも高山病になるかも。ラロ、ここからはもっとゆっくり進んでもらえるかな? ウッジはとりあえず、座っている間に深呼吸をいっぱいした方がいいかも。」

「すっげぇ! やっぱりストローさんはお医者さまなんだな! 」

…しまった。ただ以前、山越えをした時にその土地の住民に聞いただけなんだけど…

「いや、それくらいは常識というか…生活の知恵というか…たまたま知っていただけというか…」

助けを求めて二人と一頭…一羽をみるが、またもや目を泳がせて、合わせようとしてくれない。

「わかったよ! ここからはゆっくり行こう! 」

あまりにラロがキラキラした目でオラを見てくるから、胃が痛くなりそうだ…


「ラ、ラロ…ちょっと聞きたいことがあるのだけど…」

「ん? なんだい? オイラにわかることだったに何でも聞いてよ! 」

「う、うん、ありがとう。昨日オラとウッジが骸骨を見たんだけど、骸骨についてなんか知っている? 」

オラが骸骨という言葉を発した瞬間、ラロの目から輝きが消えた。

「…ラロどうしたの?」

「もしかして、その骸骨…馬に乗ってました?」

「あぁ、馬に乗ってた。」

「…この話はみんな、しないようにしているんだ…。でも神殿に出入りしているんだし、気を付ける意味でも知っておいた方がいいよね…」

ん? ん? なんか、思いの他、重い展開になってしまっている?


「今朝、番頭さんに骸骨の話をしていたのを聞かれて、様子が急におかしくなってね。」

「そうだろうね。ペンタクルではみんな避けている話だから。あの骸骨がペンタクルに来てから全ておかしくなったんだ。ペンタクルの人はあの骸骨を死神って呼んでる。」

「…死神」

「一体何をしているのかは誰も知らない。もしかしたらアレハンドラさま位の人だったら知っているのかもしれないけれど。」

「おかしくなったってどういう事? 」


「昨日も話したけど、このペンタクルは、自由貿易で栄えている町なんだ。…いや、今は自由貿易の町だったといった方がいいかもしれない。今でも少しは貿易の町としては機能しているけど、今ペンタクルには入れるのは以前からの貿易で実績と信頼がある、ごく一部の貿易商だけ。賑わいも以前に比べたら見る影もないよ。」

田舎暮らしのオラやメイシアからしたら充分に賑わっているように思えていたのだが、そう言われたら、宿の客はオラたちだけだったようだし、やはり、昔はこんなものではなかったのだろう。


「少し前まで色んな土地から色んな貿易商や観光客がやって来て、本当ににぎやかで豊かな町だったんだ。でもある日、死神が神殿に潜り込んだんだ。それから程なくしてソーラさまが姿をお見せにならないようになって。

オイラはまた見たことがいなんだけど、山裾から砂漠が山頂に向かって広がってきているらしい。水の値段も高騰しているし、それから他の国で洪水や日照りも出るようになったとか、旅の貿易商が話しているのを聞いたことがある。」

「あぁ、オラの村もそうだったよ。」

「チャリオット領の去年の嵐っていうのもそれなのかな?」


「そうして、東の砦一帯に入国禁止のお触れが出たんだ。それ以降ごく限られた人しかここへは足を踏み入れられなくなった。

今じゃ、物価も高くなって、もともとここに住んている人たちは陽気で明るいから、なんとか楽しくやっているように見えるけど、本当はみんな不安だと思う。

だから死神に目をつけられたらどんな災いが降るかかるかわからないから、過敏に反応してしまうんだよ。」

「なるほど。だから、番頭さんはあんなに、宿の様子を死神が見ていたって、隠したかったのね。」


「でも、きっともう大丈夫なんだ! 」

「どうして? 」

「だって、ソーラさまが復活されたんだもん! きっと、ソーラさまとサンさまが二人そろったら死神なんて、簡単に追っぱらってしまうよ! …あれ? どうしたの、みんな。顔が急に青くなったけど、コーザン病っていうのがひどくなってきたのかい? 」


そのソーラが偽物だなんて、口が裂けても言える状況じゃない…

「う、うん? 大丈夫だよ。教えてくれてありがとう。そろそろ、休憩も出来たし、ゆっくり歩いて行こうか。」

「ほんと? 顔青いよ? 」

「うん、本当に大丈夫…。みんなここからは、意識的に深く息をするようにして歩こう。」

そういうと、ゆっくりとオラにとってはゴルゴタの丘ような山道を歩きだした。




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