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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~  作者: メラニー
第三章 双子と死神
27/56

26話 ペンタクルの密林 1/6

朝は一番好きな時間だ。

昨日の嫌なことなんて、寝て吹き飛んでしまっている。

庭で日課の朝の体操をしていたら、メイシアが目をこすりながらやって来た。

「ストロー、おはよう。よく眠れた?」


「メイシア、今日は早起きだね。」

「…いつも私が起きるの遅いみたいじゃない。…だって昨日の夜、ストローの様子がいつもとちょっと違っていて心配だったから。」

「あはは、そうだったかな? 」

そうか。オラ、そんなに落ち込んでいたのかな。メイシアは、よく見ているんだなぁ。

「もう、大丈夫そうだね。メリーもおはよう。」

『きゃりっ』

オラの肩でメリーが返事をして、メイシアの肩に飛び移った。


見れば見るほど、不思議だ。

昨日までとても大きな獣だと思っていたのに、アレハンドラに術を掛けられ、あっという間にこの大きさになってしまった。

アレハンドラによれば、本人の意思で元の大きさに戻れるというのだが、本当にそんな現実離れしたことが起こるのだろうか…いや、もう空飛ぶ戦車に乗ったり神という存在が目の前に現れたり、今までの自分が知っている世界を超越した事ばかり、目の前で起こっているじゃないか…と頭で理解していても落ち切らない自分に言い聞かす。


「ちょっとストロー、そんなメリーをじろじろ見てどうしたの? 」

「いや、不思議だなぁと思って。」

「今更? もう不思議なことだらけで、何でも来いって感じよ。」

「そういわれれば、そうだよね。ははは。不思議っていえばさ、昨日の夜、オラ寝ぼけていたのかなぁ? 」

ふと、昨晩の不思議な出来事を思い出した…。あれは夢だったのだろうか。馬に乗った骸骨。

その話をしようとした時、ウッジが起きてきた。


「おはよー…みんな早いね。」

メイシアよりも輪をかけて眠そうな顔をしている。見るからに眠れなかったっぽい。

「うわっ、ウッジ目の下のクマがすごいよ?眠れなかったの? 」

「あははは…そんなことないよ? ぐっすり寝たけど? 」

くるっと顔が見えないように向こうを向いてしまった。

たぶん、チャルカが心配で眠れなかったのだろうけど…チャルカの事になると、どういう訳か素直じゃないかならなぁ、ウッジは。


「そう? だったらいいんだけど。チャルカが心配であんまり眠れなかったのかと思って。」

メイシアの空気の読まなさはレベルが高い…。

「そ、そんなわけないよ! ところで、今なんか不思議がどうとか話してなかった? 」

「あぁ。昨日の夜、その塀の向こうに骸骨がいこつを見たんだよねぇ。」

突拍子もない話だから、予測はしていたけど…メイシアとウッジの目が点になった。


「……。寝ぼけていたんじゃない? 」

「ちょっと、メイシアが不思議なことは何でも来いって言ったんじゃないか! 」

「えー、でも私見てないし。ウッジは見た? 」

ウッジが一瞬何かを思い出したような目をしたのだけど、慌ててブルブルと首を横に振った。


「まぁ、オラも寝ぼけていたかもなぁ…」

『ぴゅぅぃっ』

メリーがそうだそうだと、言ったように思ったので

「今のところ、メリーが一番不思議だけどな! 」と、言ってやった。

『ぴゅろろろろろろ…』


「とりあえず、お腹減ったから、なんか食べに出ようよ…ってウチらそんなお金持ってないのか…」

「さっき、番頭さんが朝食を食堂でどうぞって言っていたわよ。」

「へぇ! それは助かった! 食べに行こうか。」

宿代はラロがアレハンドラからお金をもらっていて、払ってくれるはずだ。


『ぐぅ』

「あ…メリーは無理だよねぇ。ごめんね、メリー、何か食べられそうなものをもらってくるから、部屋で待っていてくれる? 」

メイシアの言葉を聞くと、メリーが一目散で飛んできて、オラの服の中にもぐりこんだ。

「ちょっと、メリー」

『ぐぅ、ぐぅ…』

「…これで行くのね…仕方ないなぁ。顔は絶対に出さないでよ。」

『ぴちゅっ』



食堂というが、宿の一階の一部分をカフェとして営業しているようだった。

「おはようございます。宿泊のお客さんだね。」

カフェに入ると声をかけてきたのはチョビ髭の、昨夜、水を一杯くれた番頭さんだった。

「はい。朝食をいただきたいのですが…」

「もちろん、もちろん。好きな席にどうぞ。卵料理だけど、いいかね。」

それぞれ返事をして、朝日が当たる一角に座った。

けっこう広い宿にも関わらず、カフェで朝食をとっているのはオラたちだけだった。


「…その骸骨なんだけど、」

座った途端、ウッジが青い顔でおずおずと話し出した。

「実は、ウチも昨日森の中で見かけたような…」

「え? 森って、いつ? 」

「竜巻に連れてこられて、アレハンドラさんの後を…」

「気を失っていた時ね。」

あぁ、それで気を失っていたのか…

「あはは… 見間違えかなぁとも思ったし、昨日は色々あって話しそびれてしまって…」

と、そこに朝食が運び込まれてきた。とてもいい匂いが食欲を刺激する。

テーブルに置かれたのは、昨日ハラペーニョで食べたような薄い生地に半熟卵とトマトのソースが乗って焼き目が付いた料理だった。


「お待たせしたね、ウエボス・ランチェロスだよ。」

「おいしそう! 」

「…これも辛いのかな? 」

「おや、お客さんは辛いのが苦手かい? まぁ、食べてみておくれ。うちのはペンタクルいち…普通のウエボス・ランチェロスだよ! はははは! 」

「…はぁ。」

と生返事の後、びくびくしながらウッジが一口。


「…食べられ…る。」

「失礼だなぁ、お客さん。そういう時は美味しいって言うんだよ、ははは! 」

「…はい、おいしいです」

ペンタクルの人は、陽気な人が多いのだなぁ。と二人の会話を聞きながら一口頬張る。

「おいしい! 」

「そっちのお客さんは正直だな! ははは! …ところでさっき、骸骨がどうのこうの聞こえてきたのだが、骸骨がどうかしたのかね? 」

「昨晩ですが、そこの塀の向こうから、馬に乗った骸骨がこっちを覗いていたんです。でも、すぐに消えてしまいました。」

「な…! そんな話、他ではしないでくれよ! 」

オラの話を聞くや否や、番頭の表情が一転した。


「その骸骨知っているんですか? 」

「その話はやめだやめだ! あんた達は、アレハンドラさまのお客人だと聞いているから、今晩も泊めてやるが、もし他で今の話を他言したら追い出すからな。うちがあいつに目をつけられているなんて噂が広まったら、それだけでもうお終いだ。」

そういうと、番頭はキッチンなのか、フロントなのか、どこかへ行ってしまった。


「びっくりしたね…」

小声でメイシアが話しかけてきた。

「うん。でも骸骨の事、何か知っていそうだったし、これは何かあるね。ラロが来たら聞いてみよう。」


胸のあたりがもぞもぞとするのに気が付いた。

『ぐぅ。』

メリーが襟ぐりから顔を出した。

「わっ! まだダメダメ! 」

慌ててメリーの顔をチュニックの中に押し込む。

「…というか、ごめん、メリーの食べられそうなものをもらうの忘れたよ…。それも後でラロにどうにかしてもらうから、もう少し我慢して。」

胸のあたりで、ぐぅ、という声が聞こえた。


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