22話 旅の続きは竜巻に乗って 3/6
祭壇の段差に腰をかけた。
その前の桟敷に、その他の面々を座らせる。
「じゃぁ、最初から整理するから。まず、チャルカの帽子は? あるんだね、アレハンドラさん。」
「はい、ございます。後でお渡しいたします。お洋服もちゃんとございます。お帰りの際、お返しいたします。」
おかえりの際…と言うことは、帰してくれるつもりはあるということか。
「チャルカ、聞いた?…という事で、もう帽子が無い事で泣かないように。」
「ふぁーーーい…」
「では、次。サンは本当に神さまなのか?」
サンも漏れずに正座をしている。
上目づかいにちらっとオラを見て、涙をゴシゴシと腕で拭ってから答えた。
オラを見た顔があの顔だった。
「…うん。本当だよ。…でも半人前なの。だから、チャルカに協力してもらおうと思って…」
「協力って、なんだ?…とその前に、本当に神さまだったんだな。」
といってメイシアを見る。あからさまに見つかった! という顔をして、下を向いた。
「あの時のサンの態度は、確かに良くなかったけど、手を出したのはメイシアが悪い。それに神さまっていうのは本当だったし。メイシアはきちんと謝った方がいいよ。」
「…サン、叩いてしまってごめんなさい。」
「うんん、いいんだ。僕の方こそ、ごめん。」
なんだ、この子も素直でいい子じゃないか。
「よし。で、なんだっけ?」
「わたくしが、この東の砦で起こっていることを説明いたします。」
と、アレハンドラが手を上げた。
「はい。じゃぁ、お願いします。」
「東の砦は、先ほども言いましたとおり、太陽の神が守る砦でございます。太陽の神は、一対で一柱の神。ここにいらっしゃいますサンさまと双子のソーラさまの二名そろって正常に作用するのですが、ソーラさまが一年ほど前から行方不明なのです。もうすぐ、太陽のお祭りがあるのですが、そのお祭りは太陽の神として、民に祝福を与えねばなりません。しかし、二対そろっていないことがばれてしまえば、大混乱になる。なので、お祭りが終わるまでの間、背丈や容姿がソーラさまに似ていらっゃいるチャルカさまに代役をしていただこうと、こちらへおいでいただいたのございます。」
「ちょっとまって。チャルカが神さまの代役だなんて。そんなの出来るわけないじゃない。」
ウッジの顔が青い。
「しかし、チャルカさまはグリフォンを従えていらっしゃいます。」
「さっきから気になっていたのだけど、グリフォンって、メリーの事…だよね。」
「このグリフォンはメリーというお名前なのですか?」
「メリーちゃんだよ。チャーのムスメなの!」
と、話がややこしくなりそうだったので、
「チャルカは黙ってて。」
「ぷー。」
「チャリオット領にいた時に、チャルカがこのメリーに連れ去らわれて…気が付いたら、飼うことになったのです」
「だからね、メリーちゃんはチャーのムスメなの!」
「チャルカは黙ってる!」
「ぷーーーー」
ぶーたれているチャルカの頭をメリーが優しく嘴で毛繕いした。どっちがムスメなんだか。
「飼う!? なんて罰当たりな事を!あなた方は、グリフォンがどれだけ高貴な生き物なのかご存じないのですか?」
「って言われてもなぁ…チャルカが拾って来ただけだし…」
成り行き上そうなっているだけというか…いてくれたら結構便利、ぐらいにしか思っていなかった。
「これだから、"人"は。」
とサンがあの調子で口走ったものだから、メイシアがギロっと目を光らせた。
「…ごめんなさい、」
「オラたちも、チャリオット領の人たちも見たことがない動物だったから、珍しい生き物だったことはわかるんだけど。」
「その通りです。一生に一度も目にすることなく生涯を終える人が大半です。それくらい珍しい聖獣です。」
チャリオット領の人々もメリーを見て大騒ぎだったもんなぁ。
「上半身は猛禽の王。下半身は百獣の王。とても気高い聖獣です。そのような聖獣を飼うなどと…」
と言っている尻から、チャルカが毛繕いのお返しにメリーの目の下あたりの頬をカキカキして、メリーが下まぶたを半分閉じてうっとりとしている。高貴な聖獣の威厳…
「…コホン。ゆえにグリフォンを従えていらっしゃるチャルカさまも、尊いお方なのでございます。神の代理も出来ましょう。」
「だからさぁ、お願い!少しの間、ソーラになってぇ!」
「なってぇって言っても…ねぇ、ウッジ。」
保護者であるウッジがどういうか…
「…チャルカはヘタレだよ? 何をするのか知らないけど、ちゃんと使命が全う出来るかどうかわかんないよ。」
「チャーできるもん!」
「はいはい。」
気持ちいいほどの、ウッジの受け流し。
「大丈夫ですよ。先ほどのように、わたくしがチャルカさまにちょっと術を掛けさせていただいて…」
「ダメダメ!そんな事するんだったら、絶対ダメ!」
ウッジが慌ててアレハンドラの言葉を遮った。
確かに、神がすることとはいえ、意志を乗っ取られるのは気持ちのいいことではない。
「そうだね。もしチャルカがソーラの代役をするにしても、ちゃんとチャルカの意志ですること。これが条件だね。」
「チャルカするー!」
「また、そんな簡単に言って…」
「チャーちゃん、すっごく大変なのかもしれないんだよ。それにアレハンドラさん、そんなにチャルカはソーラさんに似ているんですか? サンと双子だとしたら、チャルカの肌の色も髪の色も違うと思うのだけど。」
「大丈夫です。祭りの間はお面をつけるので問題ありません。髪はそのままで問題ありません。先ほどもご覧になったように太陽の神は神として力を使っている間は金色に髪色が変化するのです。チャルカさまは金髪。そのままで問題ありません。」
「ってことは、背丈が同じだったら誰でもいいのでは…」
「……。そうとも言えます…が、チャルカさまでないとダメなのです。」
「そうだぞ。普通の人の子では、キケ…」
「サンさま!」
「ぃいや、何でもない、気にしないで。とにかく、チャルカには手伝ってもらう。それが太陽の神からの啓示である。」
「何よ、都合のいい時に神さま風吹かせちゃって。」
「だって、ぼく、神さまだもん!」
サンがメイシアに向かってイーといた。子供だな。
「なんか、メイシア、サンとは馬が合わないようだね…」
「とりあえず、皆さまは、祭りが滞りなく終わるまで、こちらに滞在していただきます。どうか、ご理解ください。」
ここは、どうやら協力するしか先に進むことが出来なさそうだ。
「で、その祭りというのは、いつあるんだ?」
「三日後でございます。」
「…わかった。」
「ちょっと、ストロー! またそんな重大なこと一人で決めて!」
ウッジが突っかかってきそうなので、それを手で止めた。
「オラたちも急ぐ旅なので、条件がある。」
「神の啓示なのだぞ。」
「メイシアも言いましたが、こんなところで神さま風吹かさないで下さいよ。オラたちは親切心で協力すると言っているのです。急ぐ旅なのに協力をするのです。神さまに命令されたからやると言っているのではありません。」
「ほぉ。では、それに対する対価を支払えという事だな。」
「話が早いですね。」
「なんだ、金か土地か。それとも名誉か。」
「オラたちは、虹の国へ行きたいのです。行ってロード様にお目通りしたいのです。その為に協力してください。」
生意気な顔になっていたサンの様子が変わった。
「…それは、、」
「それができないのでしたら、オラたちはここに長居する意味はありません。敵が神といえども、いかなる方法でもこの砦を脱出して虹の国へ向かいます。」
「サンさま…」
「……。わかった。しかし協力はするが成功するかどうかの約束はできない。虹の国へはどうにか入り込めるように手配しよう。ただ、虹の国の中は神であったとしても力が及ばないのだ。」
嘘を言っているようには見えない。かなりの大博打だったが、どうやったら入れるか分からなかった虹の国へは入ることができる神さまお墨付きの通行手形を手に入れたのだから、万々歳なのかもしれない。
「よし。それで手を打とう。チャルカお願いね。」
「はーーーーいっ」
「ちょっと! 結局チャルカが大変なんじゃない!」
「まぁまぁ…私たちも協力するから。」
『きゃりっ』




