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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~  作者: メラニー
第三章 双子と死神
21/56

20話 旅の続きは竜巻に乗って 1/6

「暑い…暑すぎる…」


草木はなくなり、見渡す限りの赤茶けた大地には、木々の代わりにまばらに棘だらけのサボテンが立っていた。

地面にはカラカラに乾いた枯れているのか生きているのかわからないような植物が、コロコロと赤土の大地を転がっている。

陽炎がゆらゆらと、視覚的にも温度を上げてくる。

赤茶けた砂漠の中を貫く黄色いレンガの道を、オラ達は延々と歩いていた。

あの河辺を風車がゆったりと回っていた、チャリオット領が恋しい。


ローニーと別れを告げてから、黄色いレンガの道を辿り、チャリオット領の大河もメリー背中に順番に乗せてもらって難なく飛び越えた。そして、道は樹海の中に延びていた。


その日は森の中で野宿をした。

今思えば、森の中は良かった。

チャリオット領でもらったサンドイッチに、森に自生している木苺やらキノコやら。

この調子なら野宿したとしても、サンドイッチが無くなっても、なんとかやっていけそうと思った矢先、突然線引きをしたように森が無くなり、地平線いっぱいの砂漠が姿を現したのだ。


どこまで続かわからない砂漠。なのに黄色いレンガの道は有無も言わせず砂漠の中に延びていて、もし虹の国に行きたいのであれば、砂漠を進む他選択肢がなかった。

進むなら夜のうちに進まないと体力がもたないとオラが提案して、夜まで森の中で体を休め、日没とともに砂漠に足を踏み入れた。

みんなが休んでいる間、オラがそのあたりに生えている葉っぱで、円錐えんすい型の帽子を全員分用意した。

砂漠は太陽が突き刺さるように厳しいから、日蔭にいることが重要なのだ。


「…ねぇ、もう水無いの?」


口に出すまでもなくメイシアの顔に、喉がカラカラだ書いてある。

夜通し歩いたものの、景色は同じ赤茶けた風景から代わり映えしなかった。

もう太陽が虹の輪っかの真ん中に差し掛かるところだ…お昼になろうとしている。


「これで最後。…太陽が出ているうちに、早く次のオアシスを探さないと、オラたち明日には干物だな。」

リュックから水筒を取り出しメイシアに渡した。これが最後の水。早くオアシスか町を探さないと冗談ではなく、本当に干からびてしまう。


「チャーも水欲しい!」

「ウチもー…」

「だよねぇ…。それにメリーちゃんも飲みたいよねぇ。」

『ぐぅ、ぐぅ』

みんな、暑さで体力の消耗も早そうだなぁ…何とかしないと。


「とりあえず、みんな一口ずつ、水飲もうか…」

と、水の回し飲み。残念ながら生き返る…とまではいかない量。もっと飲みたいのを我慢して、それぞれ次に回す。

メイシア、チャルカ、ウッジと回って来てオラも一口。で水筒をメリーに回した。

水筒を受け取ったメリーが器用に前脚を使って、水筒を持ち飲み干してしまった。


「あ!ちょっと!」

慌ててウッジが止めたが、時すでに遅し。


「ストロー!なんで、メリーにお水渡すの!」

「メリーだって水欲しいでしょ。」

「そりゃそうだけどさぁ。体格違いすぎて、飲む量が半端ないんだよ…」

「ウッジ、メリーちゃんいじめちゃダメー!」

「いじめてるわけじゃないんだけど…」

「あなたたち、よく言い争いする元気あるね…私、出来れば一言もしゃべりたくないくらいなんだけど…。」

「……。」


みんなが、ごもっともです、という顔をする。

それを見たメイシアが、もう少し言い足りないような息を一吐きしてから自分を奮い立たせるように、

「さ、体力があるうちに少しでも先に進もう。ここは神さまの土地だってローニーさんが言っていたから、きっと何とかなるわよ。」

というメイシアの背後には、相変わらず陽炎が揺らいでいる。

メイシアの言う通り、体力があるうちが勝負だなぁ…。


地道に歩いて進むしかないので、みんなトボトボと足を動かし始めた。

歩きながらウッジが、誰に言うでもなくポツリとこぼす。

「メイシアはネガティブなのかポジティブなのか、よくわからないな…」

「……。…だってそう思わないと、こんないつ終わるかわかない砂漠、歩いていられないでしょ…」

ウッジが声に出さず、それれもそうか…という顔をした。


まだまだ赤茶けた景色は飽きもせず、ただ延々と続いている。

もうしばらくは乾いた色を見ることになりそうだ。と思ったその時、メリーがけたたましい声で鳴いた。


『びゃーーーー!!』

「どうしたの?メリーちゃん。」


チャルカが、聞くが早いか、メリーが何を言いたかったのか全員がすぐに理解した。


黄色いレンガの道を進んでいるオラたちの左側から、巨大なハリケーンが、こちらに向かってやってくるのが見えた。

それぞれ悲鳴を上げて、逃げようとするが、スピードが違い過ぎる。

こんな時は、みんなが離ればなれにならないことが一番大切!


「みんな、離れちゃだめだ!メリーの首輪を掴んで!」


メリーに乗っているチャルカはもちろん、オラとメイシアが両脇から首輪を掴んだ。ウッジがメイシアの脇から、首輪を掴もうとしたが、その瞬間、全員の体を大量の砂粒が打ち付けた。


激痛が走ったと同時に、全員が圧倒的な力でかすめ取られるようにハリケーンに持ち上げられた。

散り散りにならないように、必死にメリーの首輪を掴んだ。

砂が体を強く打ち続ける。

砂といえども大量なので、板がぶつかってきているようだった。とてもじゃないけれど、目が開けられない。

どこを飛んで、どこに落とされるんだろう。恐怖にメリーの首輪を握っている手が汗ばんで滑りそうになるが、これが唯一の命綱。絶対に離してはいけない。必死でつかんだまま気が遠くなりそうだった。いや、一瞬、意識がなくなってかもしれない。



どれくらい、そういていたのだろう。あっという間だったのかもしれない。もしかしたら1時間ほどかかったのかもしれない。時間の感覚が曖昧になり意識もどこを漂っているのかわからなかった。

次に意識がはっきりした時には砂っぽい乾いた空気は無くなって、透明な空気の渦の中にいた。空気が変わった!と思った瞬間、ふっと風が止み体が落下する。落ちる!!


『きぃぃぃぃぃぃ!!!』


メリーが力の限り羽ばたいた。

落下するスピードが緩まり、ふわっと地面に着地した。

足が地面に付いたと同時に、腰が抜けてヘタレ込んでしまった。メリーを挟んでメイシアも同じように腰が抜けたようだった。


「はぁ、助かった…オラ、生きてるよね?」

そう言いながら、やっと目を開けることができた。目を開けると、目の前にウッジが倒れこんでいる。


「ウッジ、どうしたの! 大丈夫?」

「……。助かった…」

そういう言ったウッジは、うつぶせで背中にメリーの右前脚が乗っかっていた。

「メリーが、浮き上がった時に掴んでくれたの…メリーありがとう。ってか、もう足どけて…」

『きゃりっ』

メリーが前足を除けて座ると、後ろ足でカリカリっと頭を掻いた。砂がぽろぽろっとこぼれる。

あとはチャルカだ。大丈夫かな?


「チャルカは、大丈夫か?」

返事がない。まさか…?

立ち上がって、メリーの背中を見るがチャルカがいない。

「え?チャルカがいないんだけど!」


子供の握力で振り落とされないように、ずっと首輪につかまっているのは至難の業だ。

きっと、どこかで振り落とされたに違いない。


ウッジが立ち上がりオロオロとし始めたその時、三人と一頭の前に、白いワンピースに白いケスケミトル…正方形のクロスに首を通す穴をあけたような外套がいとうを羽織った女性が姿を現した。


「ソーラさまは、こちらにいらっしゃいます。どうぞ。」


何時からそこにいたのか、女性は落ち着き払って静かにそういい終えると、三人と一頭に背中を向けてゆっくりと歩き始めた。

「え? 何? というか、あなたは誰なんですか!」

メイシアが、声をかけても歩みを緩める気配もない。


「私たちが探しているのはソーラって人じゃなくて、チャーちゃんなんだけど…」

「とりあえず、ついていくしかないんじゃない? チャルカがここにいないのは確かだし、もしあの人がこの辺りの集落の人だったら、チャルカを探す手伝いをしてもらえるかもしれないし。ここ森だしオラたちだけじゃ、探せそうにない。」


ハリケーンに連れ去られるという余程の経験からの生還で、頭が働いていなかったが、見回すと周りの景色は赤い砂漠から一転していた。

オラたちが降り立ったのは、森の中にぽっかりと開いた広場のような場所だった。しかも、昨日まで歩いてきた森とはかなり木々の様子が違っていた。


『ききききききききききぃぃぃぃ!』

「これって、メリーも付いていけって言っているのかな…」

メリーの声にさすがの、白い外套の女性も一度振り返り、こちらを見た。


「…行くしかない…のかな…」

「行こう。」

と、歩き出そうとした時、

「まって…ウチ、歩けない…」

ウッジがぺたんと座ったまま、動けないで狼狽していた。


「えー。」

「だって、腰が抜けてしまって…わ!」

『きゅぅい!』

いきなりメリーがウッジを咥えて、自分の背中へ乗せて歩き始めた。


「ちょっと待ってよ!ウッジだけずるい!私も!」

『ぴぅ』

「なんでダメなのー」

三人と一頭は、謎の女性の後を追って、密林の中に入って行った。


「旅の続きは竜巻に乗って」は全部で6部あります。

5日毎の更新です。


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