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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~  作者: メラニー
第二章 麦畑の国で
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19話 笑顔のわけ 4/4

メリーの首輪が明日の朝にできると言われたので、その日は、一日散歩をしたりストロープワッフルの焼き方を教えてもらったり、お屋敷の書庫にある庶民の目には触れることのないような本を読ませてもらったり、それぞれが楽しく過ごした。

夕方、与えられた部屋のバルコニーでメイシアが本を読んでいると、下から声がかかった。


「メイシア嬢! 今日は歌われないのですか?! 」

一瞬にして心臓が飛び出そうなくらいの緊張状態になって、バルコニーの下を覗き込むと、このお屋敷に着た日に歌を聞いていた百姓だった。

「な…! 何言っているんですか! 」

「とてもきれいな歌声でした。また歌ってください」

一体何を言うんだとよく見ると、その百姓はローニーだった。


「ローニーさん! その格好! 」

「あぁ、これですか? 私は野良仕事の方が性に合っているといったでしょう。」

土でドロドロの顔いっぱいに笑顔を作った。

「あははは。びっくりしました! でも、似合ってます。とっても素敵ですよ! 」

「光栄です! …それで、今日は歌は…」

「もう! それはいいんです!歌わないですから! みんなには秘密にしていて下さいよ! 」

「残念だなぁ。では、またディナーの時に。」

「はーい」

と、にこにこと手を振った。



三分後…

今の出来事を反芻はんすうする。

「では、またディナーの時にお目にかかりましょう」だと思い「はーい」と返事をしたのだが、もし「ディナーの時に歌ってください」だったら詰んだ…。


それからディナーまでの間、メイシアは「歌ってもいいけど…」「いや、やっぱり恥ずかしい、準備を何もしていないし…」「でも、人前で歌うチャンスだし…」「失敗したら恥ずかしいし…」と無駄に「んっ、んっ、あーあー」と声を出してみたり悶え苦しみながら過ごすこととなった。


ディナーの呼び出しは、髪の毛が抜けそうなほどびっくりして、呼びに来たソフィを逆にびっくりさせてしまった。

ガッチガチの足取りで階段を降りようと廊下を歩いていると、向こうのフロアからストローとウッジが向かってきた。


「あれ? メイシア、ちょっと頬がこけてない? 」

「ほんとだ、げっそりしているよ、お腹でも痛いの? 大丈夫? 」

「…う、うん、大丈夫…あはは…。あれ?チャルカは? 」

「あぁ、まだメリーのところじゃない?オラもさっきまで一緒にいたんだ。」

「そかそか。」

そんなたわいもない話をしながらたどり着いてしまった食堂。


「どうしたの? 入らないの? 」

「う、うん。はいるはいる。」

きょろぎょろと周りを見回すが、楽器が用意されていたり、ステージがあったりするわけでもなく、別段変わったところは無く今までと一緒だった。

(ディナーの時にお目にかかりましょう、の方だったのよね。心配しすぎて損したな。あはは…)

と、安心したような、残念なようなそんな気持ちで使用人にエスコートしてもらい、席に着いた。


程なくして、チャルカがやって来て、メリーとごはんを食べるといってだだをこねた。しかし、それは絶対にダメ!とウッジに一括され、しぶしぶ手を洗いに行って席に着いた。

メリーはメリーで、麦やナッツや果物が用意されたらしい。どうやらあの外見なのだが、肉食ではないようだ。

そして一度結論付けたものの一応、一気にメイシアの緊張が高まる。

ローニーが食堂に現れたのだ。


しかし、あの話題を出すわけでもなく、いつものように食事のあいさつをして、ディナーは始まった。

(やっぱり、ローニーさん紳士なんだな。私が秘密にしてって言ったことをちゃんと守ってくれているんだ。)

安堵とがっかりが入り混じった何とも言えない柔らかいハンマーで頭を殴られた感覚。このダメージはいったい何…


食事中の話は、チャルカがメリーがかわいいという話をずっとしている。もう独り相撲の緊張なんて薄らいだ頃、おもむろにストローが話題を振ってきた。

「メイシア、歌うまいんだって? オラも聞きたい! 」

無邪気すぎるその笑顔に殺意すら覚える…

「え! それは知らなかった。ウチも聞きたいよ、メイシア。」

「チャーももう一回聞きたいー! 」

「わたくしも拝聴させていただきたいです。」

「な、、セバスさんまで何を言っているの? そんな、私歌わないよ!ってか、なんてみんなその話知っているの?」

と、ローニーさんをジロっと見たのだけど、「?」という澄んだ目で見かえしてくる。


「だって、夕方、ローニーさんと話していたじゃないか。」

さーーっと血の気が引いた。

(そうだ、私の部屋、メリーがいる庭の斜め上だったんだ…全部聞かれてた…)

顔は青くなるのに、鼓動はアッチェレランド。心臓が今にも飛び出いそうだった。



と、言ういきさつで、歌う事になってしまった食後のひと時。

メイシアは、食事の味なんて一つもわからなかった。何を食べたかさえも覚えていない。

みんなはおいしそうにデザートのストロープワッフルを食べている。

(何よ、誰のせいで私はこんなド緊張していると思って…)

「さ、そろそろ歌っていただけるかな? 」

(きたーーーー!!! バクバクバクバク…)

「…はい。いや、でも、その…」

「伴奏があった方がいいのかな? 」

「いや、そうじゃなくて…」

「わたくし、ギターを少々。」

とセバスチャンのキリッとした声。いつから、そうしていたのかクラシックギターをもって立っていた。

一同、わーーーっと拍手が起こる。

(覚悟を決めるしかない…)

「では、一曲だけ…。セバスさん、ボレロ進行です。わかりますか? 」

「はい。大丈夫でございます。」

と、セバスチャンが音を出し始めた。

アルペジオで。静かに。大河を船がゆったり進むように。

メイシアは、すっと息を整えて、ディナーの席のまま、何も気にせず歌いだした。


「空からこぼれて この手の中へ

光は 風は 雨は 甘い


雨脚 キラキラ 流れてゆくの

私は さらさら 流れて もう


ひとつ あかいろ 生まれた証

ふたつ ももいろ 春色

みっつ だいだい あなたの隣

よっつ きいろ 咲いた花


やわい やわい お星さま きらり

お空のカーテン 虹のカーテン

いつも ここに 愛は 注がれて 

さよなら さようなら 愛して 愛している



夜空は 深々 降り積もり

光は 風は 雨は 甘い


そよ風 そよそよ 頬をなでてく

あなたは いよいよ 流れて もう


いつつ みどりは 瞬いて

むっつ あおいろ 愛の色

ななつ むらさき 煌めいては

さいごは 今宵も 良い夢を


やわい やわい 夢の中 ふわり

夜空のカーテン 虹のカーテン

いつも すべて 愛は 知っている 

さよなら さようなら 愛して 愛している」


そっと、大切なものを置くようにセバスチャンのギター最後の音が添えられる。


一瞬の間を置いて、メイシアは我に返って顔が真っ赤になった。

そして、もう一拍あけて、食堂にいた全員が拍手をした。

ストローに至っては泣いていた。

「メイシア嬢、とっても良かった!ありがとう! 」

メイシアは未だかつて経験したことのないフワフワ、キラキラした感情になった。

(みんなが、歌を聞いてくれるってなんて素敵なことなんだろう! )


翌朝、約束通り、メリーの首輪が仕上がっていた。

丁度ペンダントトップが来る位置が、少し太めのV字になっていて、その部分にカメオをはめ込めるような作りになっていた。

それをメリーに首にぶら下げた。メリーは一度、気になるのかぶるぶると体をゆすったが大丈夫そうだった。


「最後の仕上げは、チャルカ嬢、カメオをどうぞ。」

とローニーが促すと、チャルカはカメオを首輪にはめた。

『きゃりっ! 』

「よかったね! 気に入った? メリーちゃん似合っているよ! 」

メリーの体格からしたカメオはとても小さいのだが、チャルカはとても満足そうだった。


「さぁ、これで、出発だな。」

ストローの言う通り、みんなもう旅路支度をして集まって来ていた。

「ローニーさん、いろいろとありがとうございました。思っていた以上に長居をしてしまって…」

「こちらこそ、楽しい時間を過ごせました。ありがとう。」


「そうだ! 肝心なことを聞いてなかった! ここから虹の国まではかなり遠いですか? 」

「そうですね…私も行ったことはないのです。たぶん、うちの領土の者は誰も行ったことがないでしょう。力になれなくて申し訳ない。」

そう聞いて、メイシアとストローとウッジは肩を落とした。

「しかし、隣の土地を抜けると虹の国の門だと思う。」

「本当ですか! 」

「だが、その隣国がとても厄介で…神が支配していて、今は我々は立ち入れないのだ。気を付けて旅されよ。」

「え、なんか、厄介そうだな」

「虹の国の周辺は神や精霊の住処になっているゆえ、どの方角から向かうにしても、そういう土地を通らねばならない。」

「そうだったんだ…」

「何はともあれ、我がチャリオット家はいつまでもお嬢方の味方だ。またこちらに立ち寄られた際は、顔を出してください。」

「はい。」

「では、名残惜しいですが、ここで。私はこれから野良仕事に…」と言ってローニーがニッと笑った。

「あはは。はい。おいしい小麦が育った頃にまたストロープワッフルをいただきに参ります。」



一行は仲良くなったこの屋敷の人たちと別れるのが名残惜しかったが、旅路をあきらめることはできないので歩き始めた。

いつも通り、メイシアとウッジは小ぶりなリュックサック。ストローは大きな大きなリュックサック。チャルカは小さなポシェット。そして、チャルカは大きな子供のグリフォンのメリーの上に乗って。

「チャルカ、お外に出るときは帽子をかぶらないとダメでしょ。」

と、あの日以来、ウッジが持っていて渡しそびれていた帽子をチャルカに渡した。

「あ! 帽子! 」

チャルカは帽子をウッジから受け取りさっそく被った。かと思うと「あ!思い出した!」と独り言を言ったあと、メリーに首を低くしてもらい、メリーから降りた。

ウッジに向き合ってじーっと見つめる。

「チャー、言い忘れていたことがあって…」

なんとなく、改まってもじもじしている姿が、怪しくて後ずさりしそうになる。

「な、なに、チャルカ。改まって」

とたんに、チャルカがニコニコニコっと眩しいくらいの笑顔になって、ウッジに抱き付いた。

「ウッジなんて大っキライ!!! 」

「うわっ! 」

と飛びついた勢いでウッジがしりもちをついた。

「知っているから! 嫌いなの知ってるから! 」

そういいながら、ウッジは迷惑そうで、うれしそうな笑顔を浮かべた。


まだまだこれから旅は長い。

自分が行くべき場所まであとどれくらい?



作中曲:「虹の歌」 作詞・作曲 mihhi


アッチェレランド…曲の演奏において、だんだんとテンポを速くしなさいという指示。


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