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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~  作者: メラニー
第二章 麦畑の国で
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17話 笑顔のわけ 2/4

それはまだ平和だった数時間前の事。


食堂で眠ってしまったチャルカは、ウッジとソフィの手によって、与えられた自分の部屋のベッドに眠ったまま移されていた。

記憶のある限り、チャルカにとってこんなにフカフカなベッドで眠るのは初めての事。

ゆりかごの遊覧飛行はとても気持ちがよくて、チャルカは夢の中で空を飛んで、雲のベッドにダイブ! …そんな夢の真っ最中だった。


それは突然やって来た。

窓の外から突風が舞い込み、夢の中で遊んでいた雲のトランポリンの雲が吹き飛ばされてチャルカが目を覚ました。

夢かうつつか。曖昧な世界でふわふわする意識で窓の方を見ると、バルコニーに火の粉のようなキラキラとしたものが舞っているのが見えた。


とてもきれいで、暖かい光。

もっと近くで見たくなったチャルカはバルコニーに出た。

火の粉の塊が目の前に、ぼんやりとうつしだされる。

チャルカは目を擦って、改めて火の粉をみる。曖昧な感覚が徐々にうつつに戻って来て、取り戻したリアルな感覚に、火の粉の親玉が顔をのぞかせる。


「わ!!!! 」

火の粉の親玉。

夢から覚めたチャルカの現実は、雲のトランポリンではなく、麦畑の波の音が聞こえるバルコニー。そして、そこにはあの獣が立っていた。


顔は鷲。大きく尖ったくちばしに、これまた大きな目。体は獅子で筋肉が隆々としていてたくましい。翼も畳んではいるものの開けばこのバルコニーよりも大きいだろう。爪もとても鋭く、掴まれたら握力だけで息の根を止められるだろう。胴と首の境目と尾っぽの先がチリチリと光り、その光が火の粉のように舞っていた。

目があったと思った瞬間、獣は大きく咆哮ほうこうし、その恐ろしさにチャルカは泣く間もなく気を失ってしまった。


チャルカは、心地よく湿気を含む風に頬を撫でられてながら、またフワフワした頭で、夢の続きを想う。

どこまで夢をみたんだっけ?



チャルカはとても怖い夢を見た。

ウッジが長い旅に出るというのだ。そして、それを自分に秘密にしていて、さようならも言わないで遠くへ行こうとしている。

チャルカにはそれが受け入れられなくて、なんだか悔しくて、ウッジの後を追うことにした。誰にも内緒で。


チャルカには、ウッジに言いたいことがあった。

ただ遊んでくれる優しいおじさんとおばさんだと思っていたヤーンさんが、パパとママになると言ってきたこと。


パパとママになるってどういうこと? 

パパとママの「ムスメ」になったら、きれいなお洋服をいっぱいプレゼントしてくれるという。


好きなものを選んで着てみてというから、たくさんの洋服の中から、ウッジの洋服と同じ色の入ったものを選んで着た。

とってもかわいくて、嬉しくてウッジに見せたいと思ったのだけど、ヤーンさんが、お出かけの時にいつも被っている帽子は古くてすり切れているから、帽子は捨てましょうと言った。

でも、この帽子はウッジがくれたたった一つのものだった。


一番の宝物。

この帽子は捨てたくないし、脱ぎたくない。

いつもお出かけの時は、被って行きなさいって言ってくれる帽子。

新しいきれいな帽子もあるって見せてくれたけど、ウッジからもらった帽子が一番。

この帽子が好きなのにどうして、この帽子じゃだめなの?ウッジはこれを被って行きなさいって言ったよ。

ウッジの帽子をかぶったままだと「ムスメ」にはなれないという。


「ムスメ」になるってどういう事?

ウッジに聞きたい。ウッジに言いたい。ウッジなら何て言ってくれる?

なのに、ウッジは秘密で遠くへ行こうとしている。

ウッジのばか! ウッジなんて大嫌い!

ウッジに大嫌いって言ってやらないと、気が済まない!


いつもお出かけをする時に使うポシェットにハンカチと「カタミ」だから大切にしなさいと言われたブローチを入れて、こっそりラズベリーフィールズを抜け出して夜通し泣きながら、お化けの森を通って、何とか朝には森の外に出らたけれど、ウッジに会えないまま。


心細くて動けなくなってしまったところに、メイシアとストローという人に出会った。

はじめは二人の事も怖かったけど、だんだんと好きになって、ウッジとも再開することができた。

そこから、もっと変なことに、自分も旅をすることにしてしまった。

だって、なんだか、悔しいんだもん。


メイシアは優しいし、ストローは面白かった。ウッジは、あまり目を合わせてくれない。

何が悔しいんだろう。

そうだ。ウッジにウッジなんて大嫌いって言いに飛び出して来たのに言ってない。

全部の時間がパンパンで、一番大切なことを忘れていた。

今度会ったら、言わなくちゃ。

ウッジ…ウッジ…


「ウッジ…」


目をゴシゴシして、体を起き上がららせた。二段ベッドの上にウッジがいるはず。あれ?二段ベッドじゃない。そっか。お姫様ベッドで寝ているはず…あれ?

しかし、床は全然固くない。どちらかといえば、フカフカ。よく見ると、とても丁寧にしごいた藁と羽根が混ざったもので大きなお椀のようなものが作られていて、その中に寝かされいたのだ。


とても暗い。

ふと気が付くと、少し離れた場所でゴォーーーと水が流れる音が聞こえる。


外が見えないかと立ち上がってみる。

足元がフカフカ過ぎて、よろめいて、前のめりで倒れてしまった。

ーーーパフっ


「うぷっ」

フカフカで干した後の布団の匂いの何かが、チャルカを受け止めた。

そのまま触り心地のいい「それ」に抱き付いて、さわさわする。

気持ちがよくて、撫で続けていたら、右手に何か固いものが当たって、異質なその物体をぐいっとつかんでみた。


「痛っ!」

手に何か刺さったようだった。

同時に今まで、さわさわしていた「いい匂いの何か」も『ぎぃーーー!!!』と鳴いた。


心臓が体から飛び出るかと思うくらい、チャルカは驚いて『ぎぃ』と鳴いたそれから、体を離して、じっとそれを見つめた。

鳴いた瞬間から火の粉が空中を飛び始める。

霧が晴れるように、記憶がよみがえる。

バルコニーで見た火の粉…

目の前にいるのはそうだ、あの獣だった。

夢だと思っていたあの光景は夢ではなかった。


あまりに驚いて、一瞬息もできなかったが、自然に涙がぽろぽろとこぼれてくる。そして、火が付いたような泣き始めてしまった。

すると獣が首をにょきっと伸ばし、チャルカの顔に自分の顔を近づけた。


獣の鼻息で接近に気づいたチャルカは、やだ! やだぁ! と手でそれを払いのけようとする。

それでも獣は顔をチャルカに近づけて、くちばしで器用にチャルカの髪を優しく毛繕けづくろいし始めた。


朝、メイシアにお団子にしてもらった枝が折れて、髪がほどけた。

獣がきゅるるるるると鳴いた。まるで甘えているような声だった。

チャルカは目を開けて、ちゃんと獣の顔を見た。

とても優しい目をしている。


「あなた、チャーを食べないの? 」

どうしたの? と首をかしげる獣。

「…お腹すいてないの? あ、そうだ! お菓子あるよ! 食べる? 」

ポシェットの中をごそごそ。出てきたのは、ローニーのお屋敷の部屋に備え付けられてあったナッツだった。

「ほら、おいしいよ。」と手のひらに何個か乗っけてくちばしの前にもっていった。

獣は、くちばしで上手に割りながら食べ始めた。


「美味しい?」

『ちゅぴっ』

「チャーもこれ好き! 一緒だね! お腹減っていたの? まだあるんだよ。全部食べていいよ! 」

とポシェットの中のナッツを全部出した。

食べ続ける獣の頬あたりをわさわさと触る。不思議に怖くはなかった。


「あなたは、お名前は? 」

『ぴちゅっ』

「ごめんねぇ、わかんないなぁ。…そうだ! メリーがいいわ! メリーにしましょ! …メリーって呼んでもいい? 」

『きゃりっ』

どっちともつかないような返事なのだが、チャルカには肯定に聞こえたようだった。

「わぁ! じゃ、今からメリーちゃんね。」

嬉しくなってメリーに抱き付いてメリーの体をさわさわした。


「メリーちゃんいい匂い…」(さわさわ)

と、さっき固いものに触れた手のひらにチクッと痛みが走った。

じっと手のひらを見るのだけど、メリーの火の粉しか明かりがなくて暗がりで細かなものがよく見えない。

じーっと黙って手のひらを眺めていたら、メリーがしっぽを手のひらに近づけてくれた。

メリーのしっぽの先が光でふさふさしている。その光で手のひらが明るく照らされた。


「あ、なんか刺さっている。」

木の棘のようなものが刺さっているのだが、細かすぎて指でつまむことができない。

『きゅぴっ』

「…うん、大丈夫。ウッジに見せたらきっと取ってくれるから。」

そういうと、急にしゅんと元気がなくなってしまった。

メリーがきゅーんと鳴き、チャルカの毛繕いを始めた。

「ウッジにね、言いたいことがあって来たのに、言うの忘れていたの。ウッジに会わなくちゃ…チャー、もう帰るね。」

『きゅるるるるる…』

「寂しいの?」

『……。』

「そっか、メリーちゃんはずっとここで独りなのね…。わかった! 一緒に行こう! 私がメリーちゃんのママになってあげる! 」

『ぴちゅっ』

と、メリーが立ち上がろうとした。

その瞬間「キーーーーーー」っと今までと毛色の違う声を上げた。


「きゃっ! …どうしたの? 」

メリーが、後ろ脚の付け根を気にしている様子で、そちらに首を伸ばした。

「あれ? なぁに、これ? 」

メリーは首が鷲、胴がライオンの、いわばグリフォンだ。そのライオンの部分。後ろ脚の付け根に大きな木の杭のようなものが刺さっていた。


「これが痛いの…?」

『きゅるるるる…』

「そうだよね…チャーもこんなに小さいのが刺さっていても、手のひらが痛いもん。すっごく痛いよね。取ってあげるね」

と、その杭を掴もうとした。その時!


ーーーーバシャ!!!ドカ!ゴゴゴゴゴ!ズザーーー!!!


お椀上になっているメリーの巣の外で大きな音がした。

それを合図に、メリーがライオンの咆哮ほうこうを上げて、チャルカをくちばしでつまみ上げ、自分の肩に乗せた。

それから翼を広げてブワン! と一回羽ばたくと軽々と宙に浮かび上がった。メリーの火の粉がハラハラと舞い、あたりが照らされる。ここが洞窟の奥に作られた巣であったことが分かった。

もう一度ブワン! そのまま一直線で、洞窟の出口へメリーは向かって飛んだ。


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