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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~  作者: メラニー
第二章 麦畑の国で
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13話 「達成の鍵」 4/4

 しぶしぶ聞いた話はこうだった。


 おばさんも話していた通り、このチャリオット領地に、夜になると獣が出没して久しいという。

 その獣は、今のところ人を襲った事例はないものの、家畜を奪ったり畑を荒らしたりすることもあるらしい。人々は警戒して夜は出歩くことができない。中にはやむなく夜間に外出をして運悪く出くわしてしまい、逃げるのに怪我をした者もいるそうだ。


 セバスさんの話によると、ローニーさんは領地の者たちの不幸に心を痛める心優しい領主ではあるのだが…ここは、はっきりとは言わなかったけれど、臆病で、獣退治にはものすごく消極的なのだとか。

 日に日に領地の住民からは獣を退治して欲しいと声が大きくなっているので困っているらしかった。


 私たちがお願いされたのは、私たちだけで、獣を退治することではなく、ローニーさんに獣と戦うやる気を出させて、一緒に退治してほしいという…なんとも都合のいいお願いだった。

「このチャリオット家は、代々ロード様をお守りする家として栄えてきた武家。平和な世の中になったとはいえ、戦わなくては、この家の血が廃ってしまうのです! 」と涙ながらに訴えていた。


 とは言っても、やる気のない人をその気にさせるなんてできるんだろうか。

 それ以前に、大人たちが退治できないでいる獣を、私みたいな小娘なんかが退治できるものなのだろうか…というか、できない。

 ごり押しで獣退治を約束させられて、後半はワッフルの味なんて感じなくて、まるでゴムを食べたいるようだった…。



 とりあえず、私たちはそれぞれ部屋を用意してもらって、ディナーまでの時間を過ごす事にした。

 用意してもらったのは、3階の一室だった。部屋にはフカフカのベッドがあって、テーブルには飲み物やナッツまで用意してあった。

 この建物、お屋敷というよりお城のようだ。私の村にはこんな背の高い建物といえば、火の見櫓やぐらにもなっている教会の鐘しかなかった。


 一人になってみると、村の事、お母さんの事、牧師さまの事を思い出してしまう。

 最後に顔を合わせたのは4日前の昼過ぎだっただろうか…もうずっと昔だったような気がして、お母さんの顔も声も忘れてしまいそうで、言い知れない不安に押しつぶされそうになる。


 ふと、セバスさんの言っていたローニーさんが、ストロープワッフルが好きで食べ過ぎて叱られたというエピソードが頭によみがえって、私も誕生日にお母さんが作ってくれたケーキがうれしくて食べ過ぎて気分が悪くなって叱られたのを思い出した。

 ローニーさんも同じなのかなぁ。

 ローニーさんの事は全く知らないけど、なんとなく、そんなことをぼんやりと思った。


 お母さんに会いたい。お父さんにも会いたい。牧師さまにも。

 あの、花であふれた村をもう一度見たい。

 窓の外を見ると、ここには心がすーっとするような、広くて大きな緑の小麦畑の景色は広がっているが花が無かった。

 私が今するべきことは、1日も早くロード様に会って、村を、大好きな人達を、今まで通りの日常を返してもらう事だ。

 そのためにも、この村の問題も素早く解決しなくてはいけない。


 物心ついてから1日たりとも歌わない日なんて無かった。でも村が無くなってから歌うという行為自体を忘れたかのように歌から遠のいていた。もっとも歌う気分ではなかったのかもしれない。

 バルコニーから地平線の限り広がる、風で柔らかく波打つ麦畑を見ていたら、自然に歌が口から洩れていた。


  「空からこぼれて この手の中へ

   光は 風は 雨は 甘い


   雨脚 キラキラ 流れてゆくの

   私は さらさら 流れて もう


   ひとつ あかいろ 生まれた証

   ふたつ ももいろ 春色

   みっつ だいだい あなたの隣

   よっつ きいろ 咲いた花


   やわい やわい お星さま きらり

   お空のカーテン 虹のカーテン

   いつも ここに 愛は 注がれて 

   さよなら さようなら 愛して 愛している



   夜空は 深々 降り積もり

   光は 風は 雨は 甘い


   そよ風 そよそよ 頬をなでてく

   あなたは いよいよ 流れて もう


   いつつ みどりは 瞬いて

   むっつ あおいろ 愛の色

   ななつ むらさき 煌めいては

   さいごは 今宵も 良い夢を


   やわい やわい 夢の中 ふわり

   夜空のカーテン 虹のカーテン

   いつも すべて 愛は 知っている 

   さよなら さようなら 愛して 愛している」


 しばらく外の景色を見ながら歌ってたら、バルコニーの下に農夫がこちらを見上げて歌を聴いているのに気が付いた。

 同時に農夫も私が気が付いたことに気付いたようで、慌てて逃げるように塀に付けたられた小さな勝手口から敷地内に入り、屋敷の中に姿を消した。


 人に歌を聞かれるなんて、久しぶりの事で、なんだか恥ずかしくて私もバルコニーから離れた。

 でも誰だったのだろう。この屋敷の使用人さんだろうか。

 恥ずかしさを紛らわすために、そんなことを考え始めるが、照れくささが優って、ベッドに倒れこみ枕に顔を押し付けた。


 太陽の匂いと、極上のフカフカ。

 こんなのいつぶりだろう。ベッドに身をゆだねるのなんて、遠い昔だったような気がする…

 太陽の匂いに体も気持ちも解放したら、急に眠気が襲ってきて、そのままうとうととうたた寝をしてしまった。





作中曲:「虹の歌」 作詞・作曲 mihhi

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