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虹の国のメイシア ~タロット譚詩曲~  作者: メラニー
第二章 麦畑の国で
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10話 「達成の鍵」 1/4

 私が目覚めたときにはもうストローが起きていて、その辺から葡萄のような房になった赤い果物を採って来てくれていた。

 目覚めた四人…というか、私を含む三人は泉へ向かい顔を洗い、もう一人…チャルカはウッジが汲んで来た水を顔にぴちゃっとかけて起こされた。


「…いつも、そんなことしてるの? 」

 ストローがもの珍しそうに見ている。

 愚図ぐずっているチャルカの顔を手ぬぐいでゴシゴシしながら、ウッジが力なさげに、ははは…と笑った。


「チャルカ、明日からは自分でちゃんと起きないと置いて行くからね。自分の事が出来ない子はこの旅には必要ありません! 」

 ウッジの言葉に「うわー…またひと嵐来る…」と身構えたが、予想を裏切ってチャルカが愚図っていた口を奥歯をぐっと噛みしめて小さい声で「…大丈夫だもん」と言った。

 これには私もストローも驚いたが、一番驚いたのはウッジのようだった。



 それから、朝食を食べる。

 私たちが持ってきた食べ物は持ち運びがしやすくて軽いものばかりで…といっても二人で数日分くらいしかない。

 二人とも虹の国の場所を知らないからどれくらいの期間旅をすればいいのかわからないのだが、それが持っていける限界だった。


 ストローは昨日の話が本当だとすると、一年間旅をしていたわけだから、食事をする知恵のようなものがあるのか、そのことに関して、あんまり心配そうではなかった。

 かく言う私もそんな旅のスペシャリストと一緒なのだから大丈夫だろうと思っている。


 しかし…今、直面している問題はそんな問題ではない。ウッジが出してきたサンドイッチ(チーズと何か葉物野菜が挟んである)があまりにもきちんとしていて、堅パンしか出していない私が、なんだか恥ずかしい気持ちでいっぱいなのだ…

 堅パンを噛みしめながら、せつない気持ちになってくる。


「ご、ごめんね。こんなものしかないの…」

「堅パンだね。おなかがふくれたらそれだけでありがたいよ。…というか、ウチはほとんどこれが最後の食べ物で…あとはどこかで調達しないといけないんだ。出発が急だったからね。…ごめん」

 一瞬、え?ってなったけど、ある意味想定内。そうだよねぇ。


「だ、大丈夫だよ。ストローが旅慣れしているから、きっと食べることにも困らないはずだよ! ほら、今朝も果物とってきてくれたし! ね、ストロー」

「うん、食べるものが無かったら我慢すればいいだけだから! 」

 ……。

 私が間違っていた…そっちの選択肢があったのか…と「だよねー」と笑顔を作りつつ、心の中で頭を鈍器で殴られたような衝撃で涙が出そうだった。


「まぁ、どこかの集落にたどり着けば、けっこうみんな泊めてくれるし、大丈夫だったなぁ。あと、木の実やキノコや魚ななんかも獲れたから。」

「ちょっと待って。もしかしてあのトーヴァ、旅の途中で作ったやつだったりして…」

「え、そうだけど? 言ってなかったけ? 」

 聞いてません、聞いてません。なんなの、この人。アウトドアの達人なの? 一年も旅をしていると誰しもがこうなってしまうの?

 教会で歌を歌うことで時間を使ってきたインドアの私とは、きっと人種が違う…。


「簡単だよ。塩だけは、切らないように持ち歩いているんだ。これがあったら何でも…あ、あとその辺の木でいぶして燻製にすることもあるけど。基本的には塩をまぶして、干しながら歩くんだよ。カンタン、カンタン。」

 カンタン、カンタンって…


「ストローってすごい経験豊富だね。」

 チャルカの世話を焼きつつ、ウッジが感心した。確かに。

「どうかなぁ。オラ考えるより先に行動してしまうから、よく失敗するんだよね。」と笑った。

 それは知っている。失敗しているかどうかは知らないけれど、弾丸のように飛び出していく場面に短い期間に何度か出くわしているから。


 そんなことを思い返しながら、ストローが採って来てくれた果物を一粒食べた。

 甘酸っぱくておいしい。

 こういうものを採ってきてくれるんだったら、きっと大丈夫か…


「チャルカ、ちゃんとごちそうさまのご挨拶して。」

「「われ今 この清き食を終わりて 心豊かに力身に満つ ごちそうさまでした。」」


「いただきますの時もそうだったけど、ちゃんと言えて偉いわね、チャーちゃん。」

 チャルカが、えへへーと照れた。

「これくらいはちゃんとさせないとね…。もう院の外に出るんだし、養子になって外に出ても恥ずかしくないようにしておいてやらないと。…痛っ! 」

 ゴン。という鈍い音から一瞬遅れてウッジの悲痛な声が…。

 チャルカがウッジに頭突きをしたのだ。…痛そう…。


 素早くチャルカが私の後ろに逃げ込んだ。

「ベー。」

「チャーちゃん、なんでそんなことするの? 」

「チャルカ!! 痛いじゃない! …もう、連れて行かない。あんたはここで別れて、一人でラズベリーフィールズに帰りなさい! 」

「別にウッジに連れて行ってもらわなくてもいいもん。メイシアに連れて行ってもらうもーん。」

「え?! 」

 ちょっ、私を巻き込まないでよ…


 ウッジの怒りなのか痛みなのかが治まらないようで、頭突きの患部を手で押さえながらワナワナと震えている。

 ストローが冷やさないと! と言いながら手拭いをもって慌てて外に飛び出していった。


「チャーちゃん、ちゃんと謝らないとダメでしょ。」

「……。はーい…。ごめんなさい。」

 なんだ。素直じゃない。


 急いで帰ってきたストローが絞った手拭いと小さな葉っぱを数枚差し出した。

「ほら、氷なんていいものはないけど、手拭い絞ってきたよ。これで冷やして。あと、この葉っぱを手拭いに擦りつけたいら冷たく感じるよ。」

「…ありがとう。チャルカ! 本当に言うこと聞かない子はその場で置き去りだからね! 」

 ウッジがストローから受け取った手拭いで葉っぱを揉んで、頭突きの患部に当てていた。


 なんだか、先が思いやられるなぁ…ちゃんとロード様のところへ行けるのかなぁ…。

 これからの成り行きに不安を感じていたところに、チャルカが背中から首に腕をかけて抱き付いてきた。

「メイシア! 髪の毛三つ編みにして! 」

「いいけど…結ぶ紐がないなぁ。」

 そういうと、ものすごくがっかりしたような顔をしたので、うーん…と代替案をひねり出す。


「じゃぁ、お団子にしてあげる。お姉さんになったみたいな髪型だよ! 」

「うん! それにする! 」

「ちょっと待ってね…」

  と、その辺に落ちている葉っぱや木くずから丁度いい細さの小枝を探した。

「うん。これなら大丈夫そう。チャーちゃんこっちおいで。」

  とてもいい返事をしてチャルカがこちらへやって来て、私の前で座った。


 手早く髪をまとめてねじりあげてお団子にして、小枝をお団子にさして形を整えた。

 お母さんがいつもしていた髪型…。

「出来上がり! …まぁ、帽子かぶったら見えなくなってしまうけどね」と苦笑い。

 チャルカはそんなことお構いなしで、初めてする髪型がうれしいようだ。

「どう? どこか引っ張られて痛くない? 」

「平気ー! ウッジ見て! お姉さんみたい? 」

「……。」

 ウッジの無視攻撃。

 ストローが慌ててお姉さんみたい! と言ってくれた。

 本当にこの先どうなるんだろう…。



 そんなこの旅を暗示する朝なのかと思ったけれど、歩き出してみたら黄色い道はとても歩きやすい道でチャルカはちゃんと歩くし、とても順調に感じられた。

 でも、その間もウッジはチャルカと目を合わせようとはしなかった。

 この二人に一体何があったのか色々聞いてみたいけど、ウッジがこんな状態だったら聞くにかけない。

 ウッジは保護者代わりと言っていたけど、ウッジは何かそのことに対して不満でもあるのかなぁ?




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