5
「え、アキさんってルアムハルク城で働いていたことあるんですか!?」
朝ごはんを食べ終え、出発しようと歩き出すと、ヒロさんに止められて、馬車の中に連れてこられた。
「僕ら交代で、馬車を操ったり休んだりしてるの。今日は僕とジュンが係だから、ライちゃんはアキと休んでて。」
私も馬車は操れなかったから、お言葉に甘えて、中に乗り込んだのはいいものの。
昨日の夜といい、今日の朝といい。
アキさんには怖いイメージしかなかったから、ちょっと怯えていたんだけど。
「おう!けっこう長くあの城には滞在したなぁ。あそこの厨房にはよ、すごくかわいい猫がいたんだ……ほんとだぜ?」
昨日は本当に警戒していただけみたい。今日は馬車に乗ってすぐ謝られた。
いかつい見た目とは裏腹に、動物大好き料理大好き!なようで、今までも様々な厨房に立ってきたらしい。
お喋り上手で、私も飽きないように、丁寧におもしろくいろんなことを語ってくれている。
「お前、ここであったってことは、あの城から来たのか?」
流れでさらっと言われた一言に、私は一瞬心臓が止まりそうになった。
大丈夫、大丈夫。
城から来たってだけならバレはしない。
精一杯なんでもない風に装って、頷く。
「うん、あの、城下町に住んでて。」
嘘。城下町なんて数回しかいったことがない。いつも窓から眺めてた。
「へーえ。あの城の城下町、おもしろいもんなぁ。俺は、城内住み込みの料理人だったけど、よく遊びに行ったぜ。」
大きい犬みたいに嬉しそうに笑うアキさん。騙してるのがちょっと心苦しくなってくる。
これ以上突っ込んだ話になると、バレるな、と思った瞬間、
「アーキ、ライちゃん。」
ヒロさんが馬車の入り口から顔を覗かせた。
「お、ヒロ。おつかれさん。」
片手を上げて労うアキさんに、にっこり微笑むヒロさん。
「そろそろレンツァ着くよー。支度しといてね。」
「おう。」
「はい。」
馬車からそとを覗くと、続く草原の先に、街が見える。
あれが、レンツァ。
息を吸い込んで気を引き締める。
ここからが、私の冒険。
大切な親友を取り戻すための旅がはじまる。