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第3話 大事件への序章?

「あ~!やっぱ日本のラーメンは最高だ!」


3話目にしてようやく登場したのに、ずるずるとラーメンをすすっているのは、我らがヒーロー・和彦である。場所はもちろん、和彦いきつけの中華料理屋「来来軒」だ。


「我らが?俺にとっては全くもってヒーローじゃないぞ」


と武上が、こちらはチャーハンを食べながら反論する。


「俺も別にてめーのヒーローになんかなりたくねーよ。でも少なくとも世の数千万の女のヒーローなのは間違いない。あ、数億の間違いか」

「・・・」


その数千万だか数億だか分の1が、今武上の隣で餃子を頬張っている寿々菜なのだから、反論もしにくい。何故なら武上にとって寿々菜は、数千万、いやそれこそ数億人に値するのだから!


「もぐもぐ、んぐ!和彦さん、グアムはどうでしたか!?」

「・・・寿々菜、話聞いてたか?どうやったらそんなに思いっきり話題を変えられる」

「いえ、餃子食べてました」

「・・・もういい」


和彦は無駄な労力は使わないことにして、自分も食事を再開した。


「ところで寿々菜。こうやって俺の帰国祝いをしてくれるのはありがたいが、なんで武上がいる」

「お電話したら、お暇だっていうことだったんで!刑事の武上さんがお暇なんて珍しいし良いことじゃないですか」


それは確かに一理ある。


「山崎さんは誘わなかったんですか?」


武上が寿々菜に訊ねる。山崎というのは和彦のマネージャーだ。三十路の男なのだが、和彦とその推理力に惚れ込んでおり、寿々菜にとっては強力なライバルで、和彦vs武上に負けないくらいの犬猿の仲だ。

しかし、だからと言って寿々菜がこの集まりに山崎を呼ばなかった訳ではない。


「一応お呼びしたんですけど、お疲れらしくって今日は帰るそうです。山崎さんも和彦さんに同行してグアムに行ってましたからね、時差ボケかなんかでしょう」


グアムなんて近距離、時差はあってないようなものなのだが・・・武上は寿々菜に甘いので、そして和彦は面倒くさいので、突っ込まない。だが、武上にはどうしても1つだけ言いたいことがある!


「そうですね、そうかもしれません。だけどもう1つ疲れる原因があります。きっと和彦を飛行機に乗せるのに苦労したんでしょう」


和彦がラーメンをすするのを一時中断してギロリと武上を睨んだ・・・が、何も言わずにまたラーメンに戻った。

実は和彦、飛行機が大の苦手なのだ。なので武上が言う通り山崎は、「乗りたくない」と駄々をこね、乗ったら乗ったでフライト中ずっと不機嫌だった和彦の相手をするのですっかり疲れてしまったのである。

おまけの話をしておくと、今回和彦は「リゾートでの写真撮影」に行ったのだが、当初の撮影予定地はハワイだった。しかし和彦が、どうしても長時間飛行機に乗りたくないと言い張ったので、やむなく近場のグアムになったのだった・・・ということを、幸いにも武上は知らない。


が、和彦は用心深い男だ(ほんとに?)。念には念を、ということで話題をすりかえることにした。


「武上もちゃんと仕事しろよな」

「そうそういつも捜査一課が首を突っ込むような殺人事件があるわけじゃない」

「捜査一課が首を突っ込まなくていい殺人事件ってあるんですかあ?」


「アイドル探偵」11弾目にして寿々菜がめちゃくちゃ今更なことを訊ねた。しかしやはり武上は丁寧に答えてやる。


「はい。どんな事件でも所轄が対応するのが基本です。でも所轄じゃ手に負えないような事件の時に我々本庁が・・・つまり警視庁の人間が入るんです」

「へえー!捜査一課の方って偉いんですね!」

「おい寿々菜、それは違うぞ。武上のどこが偉いんだ」

「黙れ和彦。でも寿々菜さん、確かに警視庁の人間が偉いなんてことはありません。ドラマの影響でよく『警視庁の人間はキャリア組で偉そうな奴らばかりだ』って思われがちですけど、そんなのは管理職の一部だけでほとんどは所轄と同じ立場の人間です。僕もW署から異動で捜査一課に来ましたし」

「へえ~、そうだったんですか!」

「ちなみに警視庁とは違う警察庁っていうのもあるんですよ。公安を担当してます」

「コウアン?」

「海上防衛とかです。警視庁は国内の個々の事件を担当し、警察庁は国全体の安全を守ってるって感じですね。東京で『本庁』と言えば警視庁のことですが、地方で『本庁』と言えば警察庁をさすことが多いです」

「どうして違うんですか?」

「警視庁には東京警察って意味もあって、これが地方で言う本部にあたるんですけど、」


なんだか小難しい話になってきたので、ここも和彦がバッサリと切る。


「つまり、捜査一課の刑事が暇でチャーハン食ってても、所轄の人間は走り回ってるってことだ」

「どうしてそういう結論になる・・・。あ、でもそう言えば昨日この近くで殺人事件がありましたよ」

「ええ!?この近くで!?」


「この近く」と聞いて寿々菜の頭に浮かんだ場所が2つあった。1つは寿々菜と和彦が属する門野プロダクションだ。そしてもう1つは寿々菜の親友・長谷川友香の家だ。昨日夕ご飯をご馳走になったばかりなので、特に思い出しやすい。



あれ。そう言えば今日友香、学校休んでたな。



嫌な予感が一瞬過ぎる。


「向こうに川があるでしょう?それにかかっている鉄橋の下にホームレスの家がいくつかあって、その1つで男性の刺殺体が発見されました」


・・・よかった、さすがに友香の家ではない。寿々菜は安心したが、それでも人が1人殺されていることに変わりはない。なんとなく食事の手が止まる。

しかしもちろん和彦はそんなことはどこ吹く風だ。


「っつーことは、死んだのはホームレスか?」


と、ラーメンをすする。ちなみに刑事の武上もさすがに慣れていてレンゲを持つ手を止めない。そういう訳で寿々菜も再び箸を動かし始めた。


「ああ。左右の家のホームレスも間違いないと言ってる。しかも容疑者も明白ということで一課は入らず所轄で対応してもらうことになった」

「やっぱ偉そうじゃねーか」

「違う。第一入らないと俺が決めた訳じゃない」

「ふーん、誰が決めたんだ?上司か?」

「まあそんなところだ」


すると和彦がニヤリといやらしく笑った。テレビで見る爽やかKAZUスマイルしかしらない一般視聴者はこれがKAZUだとは分からないだろう。ある意味便利だ。


「それでいいのか~?実は大事件に繋がってるかもしれないぜ?」

「不良達のホームレス襲撃事件だ。どうして大事件と繋がる」

「ホームレスっていうのは世を忍ぶ仮の姿で、実は大統領かもしれない」

「どこの国のだ。俺が見た限り、どこにでもいそうなごく普通の日本人だった」

「じゃー日本の総理大臣」

「間違いなく違う」

「んじゃ逆だ。襲った不良どもがそんじょそこらのガキじゃなくて、実はえら~い奴のご子息様だったりして」

「・・・」


それは絶対無いとも言い切れない。政治家が、息子の起こした交通違反をもみ消してくれ、と言ってくることがよくあると聞いたことがあるからだ。上がそれをどう処理しているかまでは知らないが。


「ま、死んだのがホームレスなら警察はまじめに捜査しねーか」

「そんなことはない」

「じゃあなんで捜査一課は手を引いたんだよ」

「被害者がホームレスだから引いたんじゃない。事件の複雑さ、広がりを考えると一課は入る必要がないと判断されたからだ」

「ふーん、へー、ほー」

「・・・」


武上は鼻を鳴らす和彦を睨んだ後、一気にチャーハンを掻き込み、テーブルに千円札をバンッと置いて立ち上がった。寿々菜が驚く。


「た、武上さん?」

「寿々菜さん、失礼します」

「え?ちょ、ちょっと待ってください」


武上が店を出て行く。寿々菜は出て行く武上と変わった様子無く水を飲んでいる和彦の間でオロオロしたが・・・


「和彦さん、すみません!私、行きます!」


武上に続き、寿々菜も慌てて店を出て行った。


「やれやれ、騒がしいな。貧乏暇無しってやつだな」


和彦は1人でニヤリと笑うと寿々菜が残していった餃子に箸を伸ばした。





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