転生しなくてもそこは異世界だった僕の宇宙船の行きついた惑星での生き方
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僕は14回目の「凍死」から蘇った。
この技術の装置が実現するより前は長らく「冷凍睡眠」などと呼ばれていたが、実現してしまうとその体験は「睡眠」などと呼べるものではない。僕の身体は明らかに「凍死」し、その凍死体をこうして「蘇えらせる」処置が施される。それが、正式名「全制御式凍結蘇生装置」の実態だ。
宇宙船乗組員が業務的に凍死するメリットは、航行期間が数年間になろうとも、その間は飯を食わずに済む事。それと出発・到着時に生体に過剰な疑似重力を与えないようにするはずの緩やかな加速・減速のための燃料を、大きく節約できるという効果もある。その2つ以外には個人的にだけど、宇宙開拓調査計画の孫請け個人事業の僕がこうして宇宙空間を旅する間、凍っていれば孤独を感じる脳活動を停止していられる、それが救われる。
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世の中には宇宙貨物船を改造したスーパー宇宙船ミレニアムナントカ号などが存在すると聞くけれども、僕の船は宇宙宅配船を改造した銀河一安上がりな長期航行用宇宙船だ。船内用AIも旧式で、赤い目玉のようなレンズが僕や船内を監視しているが「やあ消火栓」と呼びかけると律儀に僕の煙草の火を消化してくれる。
「僕が今こうして蘇生したという事は、今回の依頼領域に到着したのかい? 晴9000、それとも何かの非常事態か?」
「そうだな非常事態と言えば非常事態だが、到着と言えば到着でもあるぜボーイ。なにしろオレサマとボーイの役目は、宇宙開拓調査なのだから。」
「その大計画の孫請けだけどな。……?なにっ、予定通りじゃないというなら非常事態じゃないか。何が発生したんだ消火栓。」
船内の貴重な循環水が僕の煙草の火を消しながら、晴9000は続ける。
「シールドを開いて宇宙を見る前に、測定器を見てみなボーイ。そしてこの銀河系座標だ。」
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r、Θ、φの3値、つまり三次元極座標で示されたその現在地は、ナビ表示によると到着予定星系より20%ほど手前の地点。つまりまだもう少し遠い辺りの途中で僕は蘇生させられたという事になる。
「それよりも……おい、晴9000。今この船は慣性巡行速度のままじゃないか。こんな高速から通常減速したら僕は潰れちゃうぞ。」
「よく見るんだボーイ、その下に4つ目の座標値が表示されているんだぜ?」
「いつもの変換値だろ……ん、何だっけこのWっていう値は?」
「オレサマだって見たのは初めてだ。4つ目の座標表示なんてのはな。」
待て待て待て。この世界は三次元だ。3つの変数で位置を表せる。例えば宇宙の外側とかが十数次元や二十数次元に歪んでるみたいな理論は聞くが、少なくともここは銀河系内の予定航路だ。
「ここは四次元だと? なんで?」
「オレサマにそれが分からないからボーイを起こしたんじゃねえか。」
眠ってたみたいに言うな。僕は死んでいたんだぞ。
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「ほら四次元だろ、そんなポケットはオレサマには付いてねえよな。」
「あんな便利な腹部収納庫の話はしていない。航路の話だ。つまりこの宇宙宅配便大和号は今……。」
そう、例えるならテーブルの上に広げられた銀河星系図の、図面から上に数センチ浮かんだ軌道を漂ってるみたいな話だ。
その星系図が広げられたままでいてくれればまだいいが、もし、折り畳まれたりでもしたら、この船にワープが発生してしまう。
「だがよぉ、今どき四次元ってインパクトないんじゃねえか?」
「みんなそう感じて五次元とか十一次元とか言い出すんだよ。こうしちゃいられない、慣性操舵航行に入るぞ!」
僕は操縦席に付いて色々なボタンとレバーを操作し、シートベルトを締めた。
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この「大和」は宅配便の代わりに人工冬眠……凍結蘇生装置を積んでいるので、なにもこの宙域に配達荷物を届けに来ているわけではない。でも改装したからと言って何か新しく名付けるほどの事でもなかったので、前所有者の船体登録のまま「宇宙宅配便大和号」が船名だ。
「聞こえるかボーイ、ブラックボックスの13番目が開いてスラスターが作動しているぜ。」
そう、宇宙整備士も、オーナーの僕でさえ中身を知らないブラックボックスが幾つも備わっている船体なのだが、お下がり品にはよくある事だ。
ブラックボックス15番から生えた操縦桿を操作して、僕は三次元の表面座標を目指した。
ブラックボックス自体がどうなってるのかは全然分からないけど、大体どういうものが生えてきてどう扱えばいいかは教習所で教わる事だ。こうでもしなければ僕みたいな業界未経験者や、兼業航宙主婦や、宇宙農家のお爺ちゃんが宇宙船を操縦する時代は来なかっただろう。
宇宙航路という空間は、いつどこの航路交差点から何が飛び出してくるか予想がつかないものだ。
4つ目の数値Wがゼロに近付くように操縦桿でスラスターを吹かしていく。だがW以外の3つの数値がどうも不安定だ。
「どうしたんだこの座標値は、とにかくWをゼロにしなくちゃ。」
r、Θ、φの3値はめぐるましく移り変わって把握できなくなったが、4つ目の座標値表示がゼロになってから消えると、全ての表示が落ち着いた。銀河系中心を中心とするその座標値は、僕には見覚えがある。
「ボーイ、どうやら星図が折り畳まれてたみたいだな。」
シールドを開けた大和のクルーウィンドウ越しに、青色と土色に雲の層の白色が重なる星が浮かんでいる。
「なんだ……ここは地球じゃないか。」
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さっきまで展開していたブラックボックスは四次元事故時のエアバッグみたいなものか。何かを操作しようとしたら半自動的に収納動作をして、機外のスラスターは外壁の一部に、フライトデッキの操縦桿も内壁の一部に格納された。ここからは通常操縦だ。
さて困った。僕の知っている時代の地球なら、大和が停泊できる軌道ステーションがあるのだけど、既定の周波数に通信が見つからない。
なにしろこっちは人体がしょっちゅう死んだまま長年過ごす身なので、その間にインフラが変わってる事はよくある事なんだけど。
「アナログ周波数にすらも信号が飛んでねえな。核ボタンを一緒に押して滅んじまったのか? 人類はよ。」
「綺麗な大洋と大陸が見えるだろ。核の冬になってる大気には見えないんだけどな。」
それとももう数百年が過ぎたのか? 僕は煙草で落ち着こうとする。だが、消化水は飛んでこない。
「晴9000、どうしたんだ循環水を浄水中か?」
「ガガ……ピ~~……、ホンヤクした……我々は宇宙人ダ。」
扇風機ごしじゃないと面白くないな、何を言ってるんだ。
だけど、通常操縦が効かなくなったのはそのあと数秒後だった。
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大和のフライトデッキからは色々な表示パネルも、肉眼での外視界も確かめられる。エンジンの動作にも出力にも異常はない。
近くに何かが浮かんでいるわけではないのに、何かの外的原因によって宇宙空間内の移動ができない。
「拿捕されてしまっている、という事か。」
なぜそうだと言えるかというと、消火器機能が乗っ取られた船内コンピュータが今、翻訳器機能だけになっているからだ。おかげで操縦席に座りながらたっぷり煙草を1本最後まで吸える、久しぶりだ。
「僕はこいつのローンを払い終わったけど、予備の宇宙船なんて持ってないんだから大事に扱ってくれ。」
「ブラックボックスの動作はコチラで全て停止させてモラッテおるヨ、厄介な攻撃兵器を特に。何か船内に悪影響はナイかね?」
「ああ、ブラックボックスの中身を僕は知らない。分かってくれたなら和平オーケーだ。」
初めて聞いたぞ、もし宇宙紛争区域に入り込んだりしてしまった時に、この大和は……戦闘機にでも変形するのか?
レーダーにはステルスで何も映らない。可視光も光学迷彩によって星空があるだけで巨大なはずの船影が見えない。何という科学力だろう。
「僕があなた方の宇宙船にお邪魔するには、ハッチが規格通りじゃないと僕が呼吸できないんだよね。」
「我々には万能ダクトテープがあるからハッチ合わせくらいはデキル。だが安心シテよいヨ、君の宇宙船は我々の船の気圧室に既に格納済みだ。ハッチを開いてそのまま出てきてクレタまえ。」
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僕は船内消火栓に無線イヤホンを繋いで、とうぜん船外宇宙スーツを着用した上で、ハッチを開ける。気圧の変化は小さい。スーツ内表示では酸素濃度も有害成分検出判定も安全圏だと分かる。
ハッチから外に出るとそこは光学迷彩というわけでは無くて、現実的な空間だ。地球の建造物屋内よりは自由度が高い気はするが地球のアーティストにも色々いるから僕にその差は分からない。
「たぶん地球っていう星だと思うんですけどね、ここ。なにしろ時代が分からないので確かなことは。」
「そうなノカ、まったくほんとに、宇宙開発もできてない文明はこれだカラ困るヨ。」
そうか、電波でコンタクトを取ろうとして周回軌道上に滞在していた宇宙人たちなんだな。
「それで僕の宇宙船からの電波に近づいてきてくれたというわけか、納得です。」
でもラジオ電波すらも飛んでないなんて変な話だ。本当に滅んだのかな。
「いや地上に活動スル文明は観察できてるんだヨ。それナノニ電波技術を持たないトハ。」
「えっ、人類がまだいるじゃないですか。こういう惑星に降りられる船は無いの?」
「上陸艇が何百隻もあるヨ。なんナラ特注製造もできる。大中小好きなのを選んでイイカラ、我々の代りに降りてクレナいか?」
えっ、僕だけでですか?
「長く軌道に滞在していて、どうして今まで地上を調べてないんです?」
「未知のウィルスに感染シタら保険が下りないんだヨ。」
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探査用ロボットを行かせたらいいじゃないですか、とは聞いてみたんだけど、
彼らのような超科学文明ともなると、ロボットも優秀すぎて人権問題になっちゃうらしい。それで、危険な有ロボ探査は手つかずになってしまってたという事らしい。
とりあえず、僕の呼吸の仕組みを調べてもらって、目下の惑星の現在の大気に汚染が無い事は色々な科学力で調べてくれた。
そうそう、宇宙人氏たちとも会ったけど、どういう原理なんだろう。輪郭が無いような、でもなんだか分かり合えそうな、そんな生物体だった。
それよりはもう少し物質的な人たちも大勢作業をしていたけど、今考えるとどっちがロボットだったのか自信が無い。
というのも、大和はこうして拿捕されたままなので地上に消火栓を連れてはいけない。なので僕のお供にはそんな彼ら3人が付いてくれることになった。人間型だ。この惑星に住む原住民たちの姿に合わせた人権のあるロボットたちだ。
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ロボットとは言ったけど、それは彼ら宇宙人側がそう呼ぶからであり、メカメカしさは薄い。装備を外したらほぼ生身なのではないだろうか。そう、おそらく人造細胞や人造遺伝子技術による、この星の住民の姿に似せられた人工生命体たち、それが僕と行動を共にすることになるようだ。
僕と晴9000の言語体系を学習し終えた彼ら4人は個性と固有名が付けられた。大和に積んであったチープな機内食が彼らには好評で、宇宙人の高度な複製技術でチープなまま量産された食事には僕としては微妙な心境だった。
そうしてわずか数日の間に色々な支度を整え終えて、僕と、複製食糧と、いくらかの資材と、テンデンス、アダプクト、ラテラル、クリティカの4人、あとはどこの宇宙人にもあるのだろうブラックボックスの幾つかを載せた小型のほうの惑星上陸艇は、彼らの光学迷彩が掛かった母船を離れて、僕の星への落下軌道に乗った。いや地形には見覚えがあるけれど、どうだろう、僕の星なのか?
落下中は重力制御を行わないようで、僕や4人が無重力状態になっている間、地上からは流れ星となって見えただろう。
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―― 本編未定 ――




