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第8話:豪華夜会のジャックと、王女様の「隠しステータス」

王都の中心にそびえ立つ、白亜の迎賓館。

 今夜、ここでは隣国との親善を兼ねた大夜会が開催されていた。着飾った貴族たちや有力な探索者たちが集う中、壇上で得意げに胸を張るのは、元ギルドリーダーのザックスだ。

「……皆様、お聞きください! 我らがギルドを追放された天野カイトなる男は、禁忌の魔導具を用い、我が国の至宝であるセシリア様、そして氷室リン殿を洗脳し、拉致したのです!」

 ザックスの声が会場に響き渡る。その横には、彼と癒着している汚職貴族たちが、我が物顔で頷いていた。

 彼らの狙いは明白だ。カイトを「国家反逆罪」に仕立て上げ、王女とSランク騎士という強力なカードを奪い返すこと。

 だが、その夜会の様子は、カイトの拠点である「亡霊公爵の館」へリアルタイムで送信されていた。

「……ひどい。あんな出鱈目を信じる人がいるなんて」

 館のメインホール。セシリアが、ジェミニが空中に投影したホログラム映像を見ながら、怒りに震えている。彼女の細い肩が小刻みに揺れ、再び魔力が暴走しかけていた。

「リン、セシリア様を支えてくれ。……ジェミニ、準備はいいか?」

『いつでも。マスター、この建物の【超魔導アンテナ】はすでに王都全域の受信機と同期しています。……これから行われるのは、単なる真実の暴露ではありません。世界を「最適化」するための、最初の一歩です』

「よし。……行くぞ」

 カイトは、ジェミニが構築した「空間転送ゲート」へと足を踏み入れた。

 

 瞬間、夜会の会場の照明がすべて消え、静寂が訪れる。

 パニックに陥る貴族たちの前に、突如として巨大な映像が壁一面に映し出された。

「な、なんだ!? 何が起きている!」

 ザックスが狼狽える中、映像に映ったのは――彼が昨夜、汚職貴族から裏金を受け取り、「カイトを殺して王女を薬で操る」と豪語していた密談の全記録だった。

「これは……捏造だ! 誰か、この魔法を止めろ!」

『無駄ですよ、ザックス様。私の演算ノイズは、あなたの魔法では解除できません』

 ジェミニの声が会場全体に響き渡る。それと同時に、会場の中央にカイト、リン、そしてセシリアの三人が光の中から姿を現した。

「カイト! 貴様、よくも面々と……!」

 ザックスが剣を抜こうとした瞬間、リンが風のような速さで踏み込み、彼の喉元に鋭い手刀を突き立てた。

「動かないで。カイト様への侮辱は、私が許さない」

 シャツ一枚の時とは違う、完全武装の聖騎士の姿。その圧倒的な威圧感に、会場の誰もが息を呑む。

 しかし、本当の「最適化」はここからだった。

「セシリア様、前へ」

 カイトが促すと、セシリアが震える足取りで父である国王の前に進み出た。

「お父様……私は拉致などされていません。……見てください、これがカイト様の『治療』の結果です」

 セシリアが、自らの魔力を解放する。

 昨夜までの荒々しく刺々しい魔力とは違い、それは清涼な泉のように澄み渡り、会場全体を癒やしの光で包み込んだ。

『鑑定情報を全会場へ公開します』

【個体名:セシリア・フォン・アルスター】

【状態:完全覚醒。潜在魔力の九五%がカイトにより「最適化」完了】

【特記:カイトの魔力と結合したことにより、次期女王としての『神性』を獲得】

 会場からどよめきが上がる。

 単なる治療ではない。カイトは、王女を「救った」だけでなく、彼女を歴史上最強の魔導王へと「進化」させてしまったのだ。

「カイト……殿とお呼びすればよいか。貴殿は、我が娘に何をしたのだ?」

 国王が圧倒されながらも問いかける。

「俺はただ、彼女の中に眠っていた『不要なノイズ』を取り除き、正しい形に整えただけです。……ジェミニの演算があれば、誰にでもできることですよ」

『マスター。謙遜は不要です。……おや、王女様の心拍数が再び上昇。どうやら、大衆の面前であなたの名前を呼ばれたことで、彼女の【隠しステータス】が発動したようです』

「隠しステータス?」

『はい。【状態:公共の場での被愛欲(マスターに今すぐ抱きしめてほしい)】。……マスター、ここで彼女の魔力を「固定」しなければ、また暴走の危険があります。……さあ、国民の目の前で、彼女を抱き寄せてください』

「またそれか……!」

 カイトは溜息をつきながらも、セシリアの腰を引き寄せ、その耳元で囁いた。

「大丈夫だ、セシリア。俺がここにいる」

「あ……っ、カイト様……。あぁ、皆の前で……こんな、熱い魔力が……っ」

 セシリアが顔を紅潮させ、俺の胸に縋り付く。その姿は、高貴な王女というより、一人の恋する少女そのものだった。

 その光景は、全世界へ中継されていた。

 

 ザックスは、もはや叫ぶことすらできなかった。

 彼が汚職の証拠を突きつけられ、騎士団に拘束される横で、カイトは「王女とSランク騎士を従える新時代の支配者」として、その名を歴史に刻んだのだ。

「……これで満足か、ジェミニ」

『いいえ、マスター。これはまだ、この世界の「再構築」の序章に過ぎません。……さて、次はどの美女のノイズを、あなたの指先で取り除きましょうか?』

 鳴り止まない拍手と、嫉妬の混じった視線。

 カイトの二刀流による最適化無双は、今夜、一国の運命を完全に塗り替えた。

 館に戻れば、今度はリンからの「私も同じように抱きしめてください」という、さらに激しい「事後」の抗議が待っているだろう。

 俺の成り上がりは、夜会の成功などでは、まだ終わらせてもらえそうになかった。

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