表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/17

第6話:亡霊公爵の館と、湯気の中の修羅場

「……これが、今日から俺たちの拠点になる場所か」

 目の前にそびえ立つのは、街の喧騒から隔絶された北の森に佇む、巨大な白亜の館だった。

 かつて亡霊公爵と呼ばれた魔導貴族が住んでいたとされるその屋敷は、重厚な鉄柵と、見る者を拒絶するような禍々しい魔力の霧に包まれている。

 普通なら、足を踏み入れた瞬間に発狂するか、命を落とすと言われる呪いの地。

 だが、今の俺の目には、ジェミニの演算によってまったく別の景色が見えていた。

『マスター。浄化の最適化クリーンアップ、完了しました。この霧の正体は、亡霊の怨念ではなく、地下に埋設された超古代の魔導動力炉から漏れ出した「高純度の純粋魔力」です。……私にとっては、最高のエネルギー源ですね』

 ジェミニが指を鳴らすような音を脳内に響かせた瞬間、館を覆っていた黒い霧が、まるで魔法が解けたかのように一気に晴れ渡った。

 朝日に照らされた屋敷は、昨日までの不気味さが嘘のように、神々しいまでの輝きを放ち始めている。

「すごい……カイト様。あんなに恐ろしかった魔力が、今は春の陽だまりのように温かいです」

 隣に立つリンが、感嘆の声を漏らして俺の腕に寄り添ってきた。彼女はまだ俺のシャツを羽織っただけの姿だが、この屋敷の広大な庭園に咲き誇る花々にも負けないほど、その美しさが際立っている。

「行こう、リン。ここなら誰にも邪魔されず、お前をゆっくり休ませてやれる」

「はい、カイト様……! 私、お掃除でも料理でも、カイト様のために精一杯頑張ります!」

 俺たちが門をくぐろうとしたその時、背後から華やかな、しかし切実な叫び声が聞こえてきた。

「待ってください! 私も……私も、お連れくださいませ!」

 振り返ると、そこには豪華なドレスを半ば引き裂き、泥に汚れながらも必死に走ってくる少女の姿があった。

 第一王女、セシリア・フォン・アルスター。

 彼女は王宮の護衛たちを振り切り、裸足に近い状態でここまで追いかけてきたらしい。

「セシリア様!? なぜここに……王宮に戻ったんじゃなかったのか?」

「戻れるわけがありません! あなたに……あの熱を、あんなに優しく鎮めていただいたのです。あなたの魔力がないと、私……胸が、苦しくて、また爆発してしまいそうなのです……っ」

 セシリアは俺の胸に飛び込むようにしてしがみつくと、潤んだ瞳で俺を見上げた。

 鑑定ウィンドウが**【状態:重度の魔力依存(カイト様の体温が供給されないと禁断症状が発生します)】**と非情な、しかし俺にとっては幸運な診断を下している。

「ちょっと、王女様! 離れてください! カイト様は、私がお世話をするんです!」

「嫌です! 私はこの方の、この大きな掌に、心臓を直接撫でていただいたのです! あなたよりも、私の方が『深く』繋がっているはずですわ!」

 火花を散らす二人の美女。

 リンの殺気と、セシリアの王族としての威厳が真っ向から衝突し、周囲の空気が再び歪み始める。

『マスター。早急に両者を「物理的に鎮圧」することを推奨します。……幸い、この館には公爵が趣味で造らせた、五〇人は同時に入れる大浴場テルマエが完備されています。二人をそこに放り込み、一気に浄化を済ませてしまいましょう』

「お風呂か……。確かに、二人とも泥だらけだしな」

 俺は抵抗する二人を半分抱えるようにして、屋敷の中へと足を踏み入れた。

 館の中は、ジェミニの最適化によってホコリ一つない状態にまで磨き上げられている。

 そして、案内された大浴場の扉を開けた瞬間、俺たちは言葉を失った。

 そこは、天井が透き通った水晶でできており、差し込む光がエメラルドグリーンの湯船に反射して輝く、まさに王族の離宮のような空間だった。

 しかも、そこにあるのはただのお湯ではない。

『特製:魔力回復薬エリクサーを希釈した高濃度ヒーリング・バスです。……さあ、マスター。二人を脱がせ、お湯の中へ。……もちろん、あなたも一緒に入る必要があります。魔力の循環を安定させるには「直接的な皮膚接触」が不可欠ですからね』

「またそれかよ!」

 だが、ジェミニの言う通り、セシリアの顔は再び魔力の高ぶりで赤らみ始め、リンもまた戦いの疲労で足元がふらついている。

「……仕方ない。二人とも、服を脱ぐんだ」

「「えっ……!?」」

 二人の顔が、一瞬で耳まで真っ赤に染まった。

「カ、カイト様……ここで、脱ぐのですか? 私、心の準備が……」

「嫌ではありませんが……その、殿方に見られながらというのは、王族の教育にはありませんでしたわ……っ」

『マスター。躊躇は時間の無駄です。私が「補助」しましょう』

 ジェミニが不可視の魔力触手を展開したかと思うと、一瞬でリンのシャツのボタンが弾け飛び、セシリアのドレスの背中の紐が解かれた。

 

「あ……っ!」

「ひゃんっ!?」

 湯気の中に露わになったのは、神が丹精込めて造り上げたような、二つの完璧な肉体だった。

 リンの、女戦士らしい引き締まった腰つきとしなやかな長い脚。

 セシリアの、王族らしい、透き通るような白い肌と、魔導核が埋め込まれたせいで異常なほど豊かに膨らんだ双丘。

 二人は慌てて隠そうとするが、ジェミニが生成した霧によって足元が滑り、もつれ合うようにしてエメラルドグリーンの湯船へと転がり込んだ。

「うわっ……!」

 俺もまた、彼女たちに腕を掴まれる形で、服を着たまま湯船へと引きずり込まれる。

 ザブーン! と大きな音を立てて、三人の体が温かな魔力のお湯に包まれた。

「……ぷはっ! カイト様……意地悪です……。でも、お湯、すごく気持ちいい……」

 リンが、濡れて張り付いた銀髪をかき上げながら、俺の腕にしがみついてくる。お湯に濡れたことで、彼女の肌はさらに艶めかしさを増し、俺の腕に触れる柔らかな感触が、脳の芯を痺れさせる。

「あぁ……っ、この感覚……。カイト様の魔力が、お湯を通じて、全身に入ってきますわ……。はぁ、はぁ……っ、私、もう、溶けてしまいそうです……」

 反対側からは、セシリアがとろんとした瞳で俺の首筋に顔を埋めてきた。彼女の熱い吐息が、鎖骨のあたりをくすぐる。

 鑑定ウィンドウには、二人のステータスが狂ったように更新され続けていた。

【リン:状態(発情:九〇%)。カイト様との子作りを本能が欲しています】

【セシリア:状態(魔力結合完了)。カイト様の魔力が一滴も残さず体内に欲しいと願っています】

『マスター。おめでとうございます。これでこの拠点の「守護神」としての登録が完了しました。……ただし、彼女たちの要求値が予想を上回っています。このままでは、あなたの「体力」が先に底を尽くでしょう。……さらなる最適化(滋養強壮)が必要ですね』

「そんなことより、この状況をどうにかしろ!」

 

 右に女騎士、左に王女。

 最強の拠点を手に入れた初日に、俺は人生最大の、そして最高に「贅沢な」地獄に叩き落とされていた。

 

 ボロアパートを飛び出した俺の逆転劇は、今、この湯煙の中で、加速を通り越して爆発しようとしていた。

「カイト様……もっと、近くに来てくださいますか?」

「わ、私の方が先ですわ! カイト様、こちらへ……っ!」

 俺を奪い合う二人の美女。

 この館の主となった俺の、騒がしすぎる長編ハーレム生活が、今、幕を開ける――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ