風鈴の音が鳴ったから、
僕の家の窓際には、寝ながら年中風鈴が飾られている。
母方の祖父から伝わった、我が家の伝統らしい。母の実家、祖父の家はそれなりに田舎だが、その地方独自の文化というわけではないそうだ。ご近所さんも、年中風鈴を飾っている祖父を、不思議に思っていたらしい。
母も、それが当たり前で育ってきたからか、それが普通ではないと知ったのは、一人暮らしを初めてからだったそうだ。遊びに来た友人に指摘されて、初めて風鈴が夏が過ぎたら片付けるような物だと知ったらしい。
父も風鈴について不思議には感じていたそうだが、あって困るものではないし、大切な伝統なのだから、とそれを拒むようなことはしていなかった。
僕もそれが特別不思議だとは思っていなかった。確かに、冬に聞く風鈴の音は少し寒々しい気はする。けれど、冬に飾られた風鈴は、まるで空に浮いたスノードーム。
ちりちりと音が鳴るたび、きらきらと煌めく風鈴が、僕は大好きだった。
好きだけれど、冬にそれを飾る事が不思議なのも本当で。
冬休みのある日。祖父の家に泊まりに来ていた僕は、祖父に聞いてみることにした。
「どうしてじいちゃんは、ずっと風鈴を飾ってるの? あれって、本当は夏のものなんでしょう?」
すると祖父は、笑って言った。
「あれはな、お前のばあちゃんがくれた、特別な風鈴なんだ」
祖母の話を、僕は母から聞いた事がない。母が生まれてすぐに死んでしまったから、話せる事がないのだと、母は言っていた。
内緒だぞ、と一言置いてから、祖父は言った。
「お前のばあちゃんは、風の精なんだ。春に暖かい風を吹かせたり、冬に冷たい風を吹かせたりするのが、ばあちゃんの仕事。でも、ばあちゃんは心配性だから。おれや、お前や、お前のかあちゃんが元気出やってるか心配になって、仕事の途中なのに、見に来ちまうんだよ」
「あの風鈴の音は、ばあちゃんが、おれたち家族の様子を見に来たよ、って挨拶してるんだよ」
祖父の言葉に頷くように、ちりん、と風鈴が鳴っていた。
あれから年月が経ち、僕も一人暮らしを始めた。伝統にならい、僕も窓際に風鈴を飾っている。
今日も、風鈴はちりちりと鳴っている。きっと祖母が、一人暮らしを始めた僕を心配しているのだ。
「大丈夫。僕は今日も元気だよ、ばあちゃん」
安心したように、ちりん、と風鈴が鳴った。




