1話 落ちこぼれ記者の激ヤバないつもの1日《ウルトラデイズ》
記者クラブに関係ない本を大量に持ち込む、やばい記事を書くなど最悪な行為で記者クラブ出禁になったオタク記者・飯田庵佐の物語が今始まる。
太輪新聞社。日本では言わずと知れた大手の新聞社である。
「突然すいません!あの、ちょっと話聞いてもらえますか!太輪新聞のものなんですが!はい、ありがとうございます。」
このように太輪新聞という名前を出すだけでも簡単に話を聞いてもらえる。僕が調べたところこの名前を出すとナンパ成功率100%、それほど価値のある名前である。
「すいません、、、あの、、、太輪新聞の飯田というものなんですけど、このゴミって捨てた方がいいんじゃ・・・」
僕は太輪新聞社会部の飯田庵佐。記者クラブを出禁になるという唯一無二の称号を手にしてしまい、今は特定の事柄を追わずに自分でテーマを見つけて取材をしている。他にも特定の事柄を追わない人はいるがその人たちは期待を持たれてその体系になっているのであって、僕に関しては大切な事件の記事を台無しにしないようにこの体系をとっているので同一視をするのをやめてほしい。
そんなわけで今日は東京都内で有名なゴミ屋敷に取材に来ている。そのゴミ屋敷は高級住宅街にあるのだが住宅が高級車や僕と同じ大きさの犬を飼っている家がある中でその家は一際異彩を放っている。大量の小説やゴミ袋が敷地の外まで顔を出している。だが匂いがそこまでしないのは高級住宅街というバフのおかげなのだろうか。
「太輪新聞なんですけどーー!!!」
僕は声が枯れるほど太輪新聞の名前を連呼しているが一向に出てきてくれない。ナンパ成功率100%なのにその唯一の反例が僕になってしまうのはなんとも悲しい。
ドンドンドンドン!!
大きな足音と共に家主と思われる女性が僕の方に近づいてくる。崩れ落ちていく小説の中には新聞があるようだが。ゲームのしすぎで視力が落ちた目を極限まで集中させて新聞名を見てみる。
「太輪新聞じゃないか!!」
そこにはでかでかと太輪新聞と書かれていた。なら尚更僕の言葉に頑なに耳を傾けなかったことを疑問に思ってしまう。
「あっ!家主さんですよね!太輪しんぶ」
バンッ!
大きな足音から想像できる巨大で僕は向かいの家まで突き飛ばされてしまった。
「太輪新聞なわけないだろ!お前みたいなか弱いオタクが!」
「待ってくだ、、、」
「このオタクがこれでも持って帰れよ!」
ドンッ!
僕はその後少しは粘ってみたが現れる気配はなかった。耳を傾けてもらえなかったが袋に入ったものをもらってしまった。雑に扱われてはいるが見るからに高級そうである。だが綺麗で静かな住宅街で大きな音を出してしまったせいで大量の金持ちたちが僕の方を白い目で見ている。折れたであろう肋骨が余計に痛む。
「今日の僕損ばっかだな。」
病院に行って失ってしまった1万円に合掌しながら本社に戻る。
「でもいいことも少しはあるんだなー!」
実はさっき家主からもらった袋の中には僕が好きなアニメのフィギュアが入っていた。結果的に骨折り得となったのは嬉しい誤算だ。でもオタクと当てられたのは少し癪だが。でもなぜオタクだとバレてしまったのだろうか?ゴミ屋敷の記事の代わりの記事をを書きながらよく考えるながら本社に戻ることにした。
今の僕は文章力が酷すぎるせいで先輩を8人通してからじゃないと記事として認められないことになっている。
「飯田!フィギュアの調整せずに俺に記事見せろ!」
フィギュアに見惚れている僕を現実に引き戻すこの声の主は小山先輩という人物だ。取材の時に相手が何か隠していると思った時に小山先輩を出せば必ず相手が白状するという最強の固有スキルを持った男だ。
そんな相手に僕はほぼ毎日のように記事を出しては却下されている。そして今日の記事はどうなるだろうか?
「お前バカじゃないの!?なんでこのこと書いてるの!?」
小山先輩が指差すのは先ほどもらったフィギュアだ。僕は読者の家主に恩返しするために先ほどのフィギュアのレビューを記事にすることにした。我ながらいい記事になったと思ったのだが。
「ゴミ屋敷に行ったんですけどなぜか断られて、それでこの記事書いたんですよね。いい記事でしょ?」
「いい記事になってるわけないだろ!だいたいただのレビューならブログにでも書いとけ!あと下アングルの写真いらないよ!まああとで俺に送ってこい、、、あとお前の服のせいだぞ!そりゃアニメキャラの服着て太輪新聞の記者だと思わないだろ、だからオタクバレしたんだろ!」
怒鳴る割には記事に興味を示しているが、今日もまた採用されない。あとこの服のせいだとは思っていなかったので意外にびっくりしている。
「結局お前の記事全然採用されてないじゃねぇかよ!」
その通り。僕はあと一ヶ月で29歳になるが結局28歳になってから一度も採用されることはなかったし、小山先輩より先に行くことは2度しかなかった。
「でも小山先輩も責任少しあるんじゃ・・・
あるわけないですけどね!」
無能な僕には上層部の圧力を感じることなどなかったが今日初めて感じた気がする。
記事を書いた僕はその時点で実質仕事終了である。それまで溜めていた漫画やラノベを読んで暇を潰している。今日はフィギュアのキャラが出ている作品を消化させて仕事を終えようとしていた。
ザワザワザワザワ
本を読むのに邪魔なくらい周りがうるさい。一体何が起こっているのだろうか?僕は近くで仕事をしていた小山先輩にちょっかいをかけるついでに聞きに行くことにした。
「小山先輩、なんでこんなに騒がしいんですか?」
僕の問いに不思議そうな顔で小山先輩は答えた。
「今全記者クラブ以外の全記者に手が空いている人は失踪事件について調べるよう連絡来たと思うんだけど?」
おかしい、僕の携帯には連絡なんて来ていない。いくらスワイプしても出てこないし迷惑メールにも入っていない。
「お前、連絡来なかったってことは
今度クビやばいぞ。」
いつもはちょけている小山先輩の目が僕を憐れむ目で見ていることで初めて僕は崖の先にいることに気づいた。