25話 落ちこぼれ記者と煙ラーメン《スモークメン》
飯田庵佐は白松にラーメン屋のフリをしてもらうことにした。どうやってこの窮地を切り抜けるのか。舞子を救うことはできるのか?
「飯田君、すごい早口だったけど口乾かない?」
白松さんに電話をかけることに夢中になっていた僕は、普段していたはずの呼吸を忘れていた。
昔から必死で喋る時はこうなってしまうから、気にしていなかったが普通の人からは心配されていることを知ると、途端に今までどんな目で見られていたのか不安になってしまう。
ただ基本僕が早口になるのは自分の好きなものを語る時だけであり、その作品を紹介する相手も基本僕と同じように好きなものに熱意を持って語るような人たちばかりなので特別心配することはない、と不安は一瞬にして晴れた。
「とりあえずスマホを俺に渡せ!!」
すぐそばにいる巨漢にスマホを手渡したことで、今できる僕の仕事は終わった。
僕が一眠りして白松さんが来るのを待とうと思った瞬間だった。
「とりあえず飯田君の方を向いていいかい?」
そう言えばずっと背中に喋りかけていた。早口で喋る男に背中を向けて身長の高い男が二人棒立ちでいる状況は普通じゃないと思われてしまう。
実際僕に関しては逮捕されるかされないかがかかっているし、グラサンをかけていない男に関しては今から自分の娘を殺そうとしているのだから普通じゃないことに変わりはない。
「そう言えば飯田君の下の名前庵佐だよね?」
「はい、そうですけど。」
さっきの質問を忘れたのかずっと背中向きのままだが、それを掻き消すかのように予想もしていなかった質問が飛んできた。
「珍しい名前だけど、実は私はその名前聞いたことあるんだよ。犯罪者なんだけどね、その名前も。」
・・・僕も犯罪者であるかのような"も"が気になる。
「私は大下竜真という名前なんだが、そこの彼は田中裕太という名前でね。」
「見た目に合わずめちゃくちゃ普通ですね。」
「そうなんだよ!俺はこの見た目だろ!同じ名前の犯罪者が昔いたんだけど、すごい勘違いされてさ!」
舞子ちゃんのお父さんがずっと背中を向けているので、この巨漢も僕に背中を向けている。
この話をしている彼の背中は巨漢の面影をなくしている。むしろ少年のような感覚すら感じてしまう。
「まあ僕出前来るまでとりあえず寝ます。ちょっと痛みもあるんで。」
「はーい。」
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「飯田くん!!さっき看護師さんきて、出前の人来たけど通しますか?って聞かれたから答えといたよ!」
一晩眠りについたとは言えまだ疲れが完全に取れていない僕は深い眠りに入っていたようだ。
相変わらず背中を向けている舞子ちゃんのお父さん。体が揺らされていると思ったら巨漢だった。確かに激しいとは思ったけど。巨漢はもう僕の方を向いている。サングラスはずっと付けているけど、必要あるのかな。
ドドドドドドドド!!!
病室の外からやけに大きい音がする。その音は時間が経つほど大きくなっていく。
ガラッ!
「お届けに参りました!ラーメン屋でーす!!」
設定を伝え切っていないせいで、ラーメン屋というジャンル名が店名になっている。設定の粗さがあるが、隣にいる巨漢は何も反応を示していない。それどころかラーメンを頼めばよかったと思っている顔をしている。
ただ舞子ちゃんのお父さんはどこか疑問を感じているようだった。背中からオーラが感じ取れる。
それにしても割と白松さんも大きいから警察と勘違いしてしまう。スーツだったら多分僕はわからない。
そんな白松さんは左側にあるドアから来たのに、一旦右端まで行った後に僕の左側に到着した。
「これラーメンです!」
正直ラーメン屋とは思えない笑顔。
僕が選んだ理由はこの人は察しが良さそうというのと、暇そうだという二点。正直この窮地を抜け出せれば誰でもよかったが。選出ミスしたかもしれない。
「・・・あのさあ。」
舞子ちゃんのお父さんが急にこっちを向いた。さっきまではずっと背中を向けていたのに、もしかしてバレたのか?
「君、どこかで会った?」
「いえ、俺はただのラーメン屋ですよ!」




