20話 落ちこぼれ記者と悪事しかしない男《バッドメーカーマン》
舞子の父親は、異世界があると信じていた。そんな父親と飯田庵佐。庵佐はベッドの下に隠れながら、何ができるのか。
この人も異世界があると信じているのか?もしかしたらこの人も異世界系のラノベとか好きなのかもしれない。
気が合うのならすぐにでも話したいが、舞子ちゃんの手を握らないと嘘か本当か判断できない。僕は昂る気持ちを押し殺して、窮屈なベッドの下に潜伏をするしかない。
「君のメモを読んだよ。昨日の大臣失踪の件。異世界だって思っているんだね?スライムがあったとか。」
昨日の件に触れた。元はといえばこの事件の場所に行ったから僕はこんなことになっているんだ。事件について警察から聞けるのは大チャンスだ。
そして僕はこの事件と異世界が関係あると言うコラムを書こうとしている。本当か嘘か判断がつく今、この人が事件について発言をするのはあまりにも大きい。
「まあ私はどうでもいい。知っていても知らなくても、淡々と仕事をこなすだけだからね。」
・・・なんかすごいスカされた?どっちかもわからないような答えだ。それに全部本当だと頭の中に出ている。何の情報も得られていない。
「まあもし異世界があったとしても、証明はどうやってするんだ?あったとしてもそれは証明ができるのか?そんなのでいちいち騒がれても、警察はどうすればいいんだ、異世界に行った人を救えるのか!」
急に声色が変わった。目の前にいると思っている僕に、立ち上がりながら捲し立てている。立ち上がったときに倒れた椅子が僕の足に当たった。普通ならバレないようにそーっと戻した方がいいと思うけど、多分この人は熱くなって目の前が見えていないので勢いよく蹴って押し出した。
「舞子も異世界に行って失踪したとか君は思っているかもしれないがそんなのどうだっていいんだよ!今回は舞子が誘拐されたことにした方が私にとっては都合がいい。さっき君は舞子のバッグの中身が気になっていたね。確かに舞子のバッグの中には私のやった虐待と、妻へのDVについて書かれた資料があった。」
そうだったのか、、、舞子ちゃんはあの日、勇気を出して告発しようと。
「それを持っていく最中にどこかで行方がわからなくなった。ちなみに失踪した売り出し中の土地は普段は絶対に通らない場所だった。そんな場所に行って失踪、それよりもたまたま歩いていたら君に誘拐された。それの方が私にとって都合がいい。なぜその場所に行ったとかそんなのどうでもいい、余計な詮索されるぐらいなら無関係な君を逮捕する。元はといえば君が舞子の虐待を記事にできていれば救えた。舞子の持っていた資料は君が持っていたかもしれない。君が記者として未熟だったばかりに、こんなことに。」
立ち上がった時に椅子が音を立てて倒れた。相当な熱気が僕の方まで伝わってくる。舞子ちゃんの手を握っていても、全て本当だとしか頭の中には入ってこなかった。だが、この人はこの人なりで苦労していることだけはよく伝わった。
たらればかもしれないけど、確かに僕が舞子ちゃんを救えていた可能性はあったかもしれない。こうやって舞子ちゃんは実の父に殺されるような状況じゃなかったかもしれない。
許せない。苦労のせいにして舞子ちゃんを虐待したこの人も、舞子ちゃんを救えたかもしれない僕にも。
だから、今救わなければならない。絶対に舞子ちゃんは死なせない。




