19話 落ちこぼれ記者と本当か嘘か《リアルオアフェイク》
人を人形にする男。その男に舞子の母は人形にされた、らしい。本当か信じられない飯田庵佐。本当なのか?
僕は一瞬耳を疑った。ただこのお腹の痛みが疑いを一瞬で無くす。
「お母さんが人形になった?本当に?」
ただどうしても受け入れられないので僕は舞子ちゃんにもう一度確認する。
「本当です!お母さん人形になったんですよ!」
こんなに大きく目を見開かれると、さすがに受け入れざるを得ない。
しかし人間が人形に変わってしまうとは、どのようなことなのだろう。まだ疑っているわけではないが、比喩の可能性もある。人形のように固まってしまったとか。
「お母さんはどんな風に人形になったの?」
「ある男性の手に触れて、、、徐々に、、、体とか、、、」
この言い方だと、本当に人形になったのか。
「その男性が、お父さんなの?」
舞子ちゃんは首を横に振る。
「その人に、、、会わなくてもいいのに、、、お父さんが、、、はぁ、」
舞子ちゃんの呼吸が急激に早くなり、舞子ちゃんの言葉が呼吸の中に消え始めた。
「舞子ちゃん?大丈夫じゃないよね?」
どうすればいいかわからない。舞子ちゃんの奥にモニターがあるけど、僕の目の弱さだとせいぜい色しかわからない。
「すいません、もう起きてられないです。」
瞼が重くなっている。
「あの、眠る前に一つ、大切な言っておきたいことがあって、はぁはぁ。あの人に聞こえないように。」
80cm離れたベッド。舞子ちゃんは意図的に声を小さくしているのか、それともこのぐらいの声しか出せないのかわからない。
「私の手を握ってください。そうすれば、あの人の発言が嘘か本当かわかります。」
ピピピ!!
アラームの音が病室に鳴り響いた。近くにいた看護師さんが入って来て、モニターを確認していたが特に異常はないみたいだった。ただ疲れによって眠っただけで、モニターのアラームは呼吸の一時的な乱れを検知したかららしい。
「なんだ、死んでないのか。」
扉を開けて開口一番。娘の危機に何の心配もしていないどころか、むしろ悲しみすら感じている。
スキップをしながら舞子ちゃんのベッドに近づき、さっき座っていた窓際の椅子に音もなく座る。座るまでの間に、舞子ちゃんの方を見ることは一度もなかった。舞子ちゃんの寝顔を見ながら何を感じているんだろうか。高級そうな靴がきらりと光っている。
「飯田くん。舞子とは話せたかい?」
「飯田くん?返事をしないのかい?」
僕は舞子ちゃんの力を信じることにした。痛みを押して、ベッドからずり落ちた後僕は舞子ちゃんのベッドの下に潜り込んだ。ベッドの方は布団の中にカバンとパーカーをふくらみが出るようにして誤魔化した。
舞子ちゃんの手を握るためにはこうするしかない。自分のベッドからでは届かない、となれば。
「まあいいや。ちょっと聞こえたけど人形の男の話をしてたね?」
僕は心の中で頷く。バレないかの緊張の汗で舞子ちゃんの手が離れそうになるな。
「そうだよ!その男も変なことを言っていた、異世界があるとかさ。君も異世界があるって思っているんだろ、手帳で見たよ!!!
そんなわけないだろ。」
妙に冷静な声。顔はわからないが、声からはさっきのような喜びは微塵も感じられない。だが、、、おかしい。
僕の頭には"嘘"と言う文字が映し出されているぞ。




