18話 落ちこぼれ記者と意志ある少女《インハートガール》
舞子と会話を交わす飯田庵佐。実はハレントから庵佐のことを聞いていた舞子は信頼してあることを話す。それは舞子の母が死にかけていることだった。
舞子ちゃんは迷子になった少女のような泣きそうな顔で僕の方を見つめる。
「怖い、怖い。。。」
叫びにも似たような声が病室に響く。こんなにも苦しそうなのに、今日僕が聞いた舞子ちゃんの声の中では一番大きい。
「大丈夫?今はお父さんいないから、僕が聞くよ。」
父親がいないといっても、この空間の扉をひとつ開けばもうそこにいる。それに少し前までその椅子にいた幻影が舞子ちゃんの大きな瞳の中を徘徊しているのだろう。
舞子ちゃんは真っ白な天井を数十秒間見つめた。平常心を取り戻すためなのだろう。ただ僕がそれをするように勧めたわけではない。おそらく日頃からやっていたんだろう。父親の虐待によって本当の自分を見失わないように。
僕はその間ずっとコラムことを考えていた。せっかく異世界という僕好みの題材が見つかったのに、気づけば逮捕寸前。いっそのこと逮捕される心境でも書いてやろうと思ったが、あいにく書くものはなにもない。
「もう大丈夫です。心配をかけてすいません。」
舞子ちゃんは丁寧に会釈をしながら謝ってくれた。
「大丈夫?無理して話さなくていいよ。」
そんな僕も喋るたびにお腹が痛むけど。
「ありがとうございます。でも話しておきたいんです。お母さんは、あの人のせいで死にそうなんです。」
「・・・ああ。」
舞子ちゃんにとっては思い出すのも苦しんでしまうことなのかもしれないけど、僕はそこまで感情は揺さぶられなかった。
家族のことを気にしなていないような父親なら暴力で家族を死の直前まで追い込むと思っているからだろう。それにあんなに腹黒い人間なら尚更。
「DVでそこまでやるのか。酷いね。」
「いえ、違いますよ?」
「・・・え違うの?」
話の流れ的にDVじゃないのか?確かに腹黒いと言っても清潔感あったし流石に殺すほどは殴らないか、と自分の中で納得させようとしたが、何度試してもDVで殺しかけたとしか思えない。
「DVじゃないなら何なの?」
「お母さん、人形になっちゃったんです。」
「・・・あー、人形か。
まあね。色々あるからね。」
人形か。そりゃそうなるよな、何度も頭の中で咀嚼してみる。
「飲み込めるわけないって!!!!!いってーーーー!!!」
この腹の痛み。やっぱり夢じゃないんだ。




