16話 落ちこぼれ記者と嘘つきの世界《ライアーワールド》
病院にいる飯田庵佐。その父親は虐待をしたり庵佐に罪を被せたり最悪だった。舞子ちゃんはどうなってしまうのか。舞子ちゃんは父親に殺される。庵佐は救えるのか。
舞子ちゃんに対して虐待をしていた。そんな人間がカーテンの向こう側で呑気に笑っているのが許せない。腹の底から怒りが込み上げてくる。
そして、実の娘を殺そうとしている悪人を止められない無力な自分も憎い。記者として悪人の悪行を書かなければいけないのに、僕は悪人として逮捕されるのを待つことしかできない。
「・・・ここは、どこなの?」
聞いたことない声がする。それも女の子の、気の抜けたような。
「舞子、、、起きたか。」
「・・・お父さん。」
舞子ちゃんの気の抜けた声が震えた声に変わる。どうにかしないといけない。さっきまで固まっていた舞子ちゃんの人の形をした影はもう見えない。そこにあるのは大きな黒。おそらく掛け布団を掛けたのだろう。そこまでしてみたくない父親か。
カーテンの影が動き出した。ただ、舞妓ちゃんの姿は現れない。
「・・・飯田くん、おそらく舞子はまたすぐに眠りにつく。それまで二人きりにしておくよ。」
静かに椅子から立ち上がり、僕のベッドの目の前に現れたのは舞子ちゃんの父親だった。ビシッと決めたスーツと髪型。身長は僕と変わらないくらいで平均くらい。
僕を見つめるその人は笑っていた。誰もがお手本にするような笑顔で、誰もが憧れるような高級品の時計を身につけて。心の中にある悪意を誰にも気づかれないように。
「では舞子が眠ったら私を呼んでくれ。」
そう優しく語りかけたあと、僕が瞬きをする隙に扉を開いて病室を出ていった。
病室には僕と舞子ちゃんの二人しかいない。ここでどんなに大切なことを聞いたとしても、僕は逮捕され、舞子ちゃんは実の父に殺される。
でも今聞かなければならない。今聞けば、何か変わるかもしれない。
「お父さんはもう出ていったよ!」
舞子ちゃんがかぶっていた布団をゆっくりと下げているのが影を見るとわかる。
ベッドが右側に寄っているおかげで立ち上がらなくてもカーテンを開ける。バッグが取れなかったのはムカついたけど、結局バッグの中にスマホが無かったし、総合的に見れば得をした!
「よし、開けるよ!」
僕は勢いよくカーテンを開け、舞子ちゃんの姿を見ようとした。だが少しお腹を捻るだけで痛みが走ったので、あきらめて丁寧に開くことにした。
左から右に向かって開くため、まだ舞子ちゃんの姿は見えない。だが腕にはできたばかりの傷が見える。これはマンドラゴラなのか、父親からの暴力なのかわからない。ただどちらにしても父親から舞子ちゃんを守らなければならない。
「すいません、一度止めてもらえますか。」
あと少しで顔が見える、そんな時だった。
「どうしたの?」
「あなた、異世界があると信じてますか?」
舞子ちゃんは寝起きとは思えないほど、真剣で冷静な声だった。なら僕も真剣に自分の思いを答えなければならない。
「もちろん!」
「ありがとうございます。」
高校生とは思えないほど大人びた声。でも、少し嬉しそうだ。
「私は大下舞子です。異世界から戻ってきました。能力は嘘か本当かを見分ける能力。
あなた、本当に信じてくれているんですね。」




