12話 落ちこぼれ記者と叫び草の恐怖《マンドラゴラホラー》
マンドラゴラとの対決をする飯田庵佐。ついに白い魔物がハレントという名前だと知る。そしてハレントの毛から倒す方法を思いついた庵佐。目の見えない庵佐、魔物を倒せないハレント。二人はマイコというハレントと同時にこの世界に来た少女を早く救わなければならない。果たしてどうやってマンドラゴラを倒すのか!
マンドラゴラは確か一人だけを集中的に襲う攻撃があったはず。それがマイコちゃんというわけか。ならばマイコちゃんの叫び声がマンドラゴラを上回るまでにケリをつけなければならない。僕が読んだ参考書によるとマンドラゴラの叫びによる苦しみの声が、マンドラゴラの叫びを超えた瞬間死ぬ。そんな感じだったと思う。
大体の倒し方は見当がついた。でもマイコちゃんをどうにかしないと!
ハレントは察しがついたのか、僕の体を強く掴んで大きな声で僕に語りかけた。
「このままだとマイコは数十秒で死ぬ!ヘッドホンとやらをつけに行こう!」
確かにヘッドホンをつけてマンドラゴラの叫びを遮断する。簡単そうに聞こえるが実はハードルがものすごーく高い。
「でも僕目見えないし、ハレントもマイコちゃんに触れないんでしょ?」
「ア゛ア゛ッ!!」
ピョーン、ピョーン
ハレントはおもむろに地団駄を踏み出した。地団駄を踏む反動でとてつもなく高く飛んでいる気がする。ハレントとの距離が近いせいで柔らかい毛が僕の顔を優しく撫でている。
「とりあえず落ち着いて!僕を背中に乗せて運んで!ヘッドホン付ければ大丈夫だから!」
正直誘導さえしてくれればそれでいい。でも僕は心に秘めるモフモフのハレントの背中に乗りたい!と言う気持ちを抑えきれなかった。
ハレントは僕を背中に乗せて、自慢の毛で僕をくくりつけた。毛の締め付けが骨まで来るせいで痛いとは思いながらも、モフモフさに心を奪われる。
「庵佐、ちゃんと掴んで!」
その一言と共にハレントはおもむろにギアを上げたような気がする。少し後ろに下がり軽快に助走をつけ始めた。なんか嫌な予感がする・・・
ビュンッッッッ!!!
何が起こったんだ?体全体が魂を置いてきたような気持ちだ。目が見えないせいで空気でしかわからないが、ジェットコースターとも違う風圧。その風圧で着地地点は雑草が踊っている。また草に攻撃された。
その風のせいでとてつもなく寒い。悴む手を擦り合わせてあったかくしようと思えば、何か手のひらに違和感がある。おそらくハレントの毛が大量についている。強く握ったせいかな?バレたら殺されそうだし、さっき返してもらったスマホを探るふりをしてポケットに毛を投げ入れた。
マイコちゃんの近く。腰を低くしてヘッドホンを付ける準備をする。
「ここにマイコがあるからヘッドホン付けてくれ!」
そう言われたが、よく考えればマイコちゃんに僕が触れていいのか?寝ていて苦しんでいる女の子に触るのは絶対に良くない気がする。社会人生命に関わるかもしれない。だが人命に関わるからなあ。僕は覚悟を決めて、ハレントの跳躍よりも早く、一瞬でヘッドホンをマイコちゃんに付けた。
僕は目が見えないので選曲はハレントに任せた。さっきと違う曲を流すと言っていたな。マイコちゃんが何歳かはわからないが多分僕の趣味と違うので僕のプレイリスト以外から選んで欲しいが、確認のしようがない。
「で、庵佐。マンドラゴラの倒し方はわかったのか?」
「うん。ただ最初に言っておこう。僕泳げないからすぐに拾って、白鳥なんだから頼むよ!」
これを言わないとカナヅチの僕は息がなくなり、目が見えないせいで汚いか綺麗かわからない賭けの川であえなく撃沈してしまう。
僕はまずハレントがマンドラゴラに触れることを確認し、大事な指示を出すことにした。
「ハレント、あそこ大きな橋あったはずだよね?とりあえずそこに連れて行って。今度は誘導して走っていこう!時間ないけど!」
残された時間はあと少しだが時間切れの恐怖よりもさっきの恐怖がまだ上回っているので歩いて向かった。
「ハレント、今度はマンドラゴラをさっきいた場所から見て奥の真ん中の柵にくくりつけて!」
「わかった!」
ハレントが巻きつけている間に僕はバッグを丁寧に置き、アルスラのパーカーを心の目で見ながらシワなく折りたたんだ。
僕は脱ぎ終わり、ハレントはくくり終えたので最後の仕上げに向かう。
「ハレント、僕の葉っぱ一枚一枚僕のお腹ににくくりつけて!!」
「OK!!」
同年代とは比べて痩せ型な僕は骨が少し見えやすい。そんな僕は秋の冷たい風に上半身裸で真っ向から立ち向かう。気合いが入ったハレントはビュンビュンと手を回し、何重にも毛を僕の体に巻き付けている。体を巻き付けるたびに冬の縄跳びのような激痛が走る。この痛さだと内出血とか大丈夫かな。むしろ骨折か?
「全部巻きつけたよ!庵佐、次はどうする?」
「・・・・・・投げろ、僕をこの川に投げろ!!!」
言ってしまった。この風を耐えるだけでも足が小刻みに揺れているのに。カナヅチで死ぬ可能性もあるのに。でも、もう言ってしまった。
「めちゃくちゃOK!!」
ハレントはめちゃくちゃ元気いっぱいだな。やっぱりモフモフだから寒くないのかな。
僕はマンドラゴラを巻きつけた柵の反対側に立って、ハレントの肩が温まるのを待つ。そんなのどうでもいいから僕を助けるイメトレをして欲しいが、失敗して手前に落ちたら元も子もないので黙っておこう。
ハレントは肩が温まったと言って僕を両手で掴んだ。身長は僕より低いと言っても手は結構大きい気がする。そんなことを考えていないと寒さで死にそうだ。
「よし!行くよ!!」
「わか、」
「2、1、0!!!!!」
「僕のタイミングに合わせてよ!!!」
ハレントの両手から僕が放たれる。どう考えても人を飛ばす力じゃない!これ本当に大丈夫か!?
ブンンンッッッ!!!!
ブチブチブチブチフチブチブチブチ!!!
バッシャアーーン!!!!
暗闇が段々と晴れていく。時間にして約5分ほど。片手で数えられる時間にも関わらず、目の前の景色がオーロラのように見える。マンドラゴラがいればオーロラを体験できると考えればコスパがいい。命をかけることを抜きにすればだけど。
ただ、まだ気を抜いてはいけない。カナヅチというデバフのせいでさっきの走りで酷使した足を止めることができない。なぜなら僕は足をバタバタしていないと沈んでしまうから。おまけに秋風によって体温まで異常なほど奪われている。スポーツの秋とはこういうことなのかな?
「やばい、、、あれ、、、また目の前が暗い、、、マンドラゴラやっつけたよね?」
体を張って大きな音を出した僕は、静かに川の底に沈んでいく。意外に綺麗な川で良かった、なあ。
――――――――
「あれ?僕は川に沈んだはずじゃ?」
ここはどこだ?綺麗なベッド、綺麗な天井。到底僕の家とは思えない。
ただ、お腹あたりが非常に痛い。これはマンドラゴラを倒したからだと思う。なら僕は生きているんだ!こんな綺麗な部屋だから天国かと思ってしまった。
僕はとにかくお腹の状態を確認するために起き上がり服を脱ぐことにした。
「あれ、この服。」
病衣か。僕は病院に搬送されたのか。
「飯田が起き上がりました!」
病室内から声が聞こえる。僕が起き上がったことを誰かに報告したのか?太輪新聞内の人かな?
「そうか、ありがとう。君は警察署に戻っていいぞ。」
やけに貫禄のある声だな。今警察署と言ったか?
「では帰らせていただきます!!また飯田が犯人だという決定的な証拠が出たら報告します!!!」
僕が、、、犯人!!??
なんの?
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