7話 落ちこぼれ記者と掃き溜めの地《ダーティーズ》
木嶋部長と白松の間に何か関係がある、そう感じた飯田庵佐。どう考えても一軒家のラッキーラバーズ事務所に来た。ラッキラバーズとはなんなのか。
木嶋部長が貼り付けたような笑みで白松さんを見つめる。白松さんとは会ったばかりで木嶋部長のお世話にはなっている。でも、木嶋部長の笑みは僕には闇を隠しているようにしか見えない。
「もうこんな夜遅くですから、部長は帰ったほうがいいんじゃないですか?」
だから僕はここは木嶋部長を帰らせる。部長の闇は僕が思った以上に深いと感じてしまった。無能なりの直感で。
「こんな扉の前で話してたら、迷惑になるよな。済まない。白松、ここら辺の草は刈っといた方がいいぞ。後飯田、お前はクビ候補だからな。よかったな。」
部長はそう言って一軒家を後にした。白松さんより少し高い身長なのに、僕には空を見上げるぐらい高い。僕が闇に跪いてしまったからなのか?
クビの何が良いのかは分からないが、少なくともあれは嫌味でもなく本心だ。
「まあいいや、入れ飯田くん。小山もこいよ。」
そう言われたので僕は震えていた足を光が照らす部屋の方に進めた。
「ちょっと待ってください、奥行きすごくないですか!?」
靴を脱ぐ前に一番に目に入ったのは一軒家の外装からは想像もつかない奥行きの広さだった。その奥にはいくつもの本が並んでいる、資料なのか?
「あれ、あいつと話してたの木根だったの?」
資料への通り道には6つの学校机が数ミリの隙間なくピッタリとくっ付けられている。学校机の上には大量の紙が置かれているわけでもなく麻雀牌やペットボトルのゴミが溢れている。
「小山と飯田はそこ座れ。飯田、この子は木根って言うんだ。まあ覚えたけりゃ覚えとけ。」
急に呼び捨てになったな。僕は学校机の隣にあるお客様用のソファに座りながら木根さんの方に体を向ける。
「よろしくね、飯田さん。」
猫のような目で天井を見つめているスーツ姿のかわいらしい女性なのだが、、、
「なんで地面で寝てるんですか?」
地面に寝そべっているんだが、小山先輩や白松さんは何も違和感がないように僕の方を見つめる。
「今日はここの紹介だけ。どうせコラムが終わったらここにこないんだし、余計なことは覚えなくていいよ。」
余計な詮索をされたくないのか、僕に対して先ほどよりも雑な扱いなのが感じ取れる。
だとしても僕はこれを聞かないと今日は帰れない。
「なんでさっき課長が来てたんですか?太輪新聞とここには何か関わりが?」
僕は白松さんを睨みながらそう聞いた。相手が答えたくないような質問が記者にとって一番大切な質問だ、と僕が読んだ記者ダマ!では書いていた。
「飯田、お前にこんなこと話したことがあったな。」
白松さんからの目配せを受けた小山先輩が急に話し始める。
「太輪新聞社には警察と揉めるようなヤバい場所がある、って。」
「ここですか!?」
嘘だ!僕はそんな場所があるとは聞いていたが白松さんがそんな人だとは思、いや普通に誘拐する人だし別に違和感がない。
ただ白松さんが警察と揉めたとはまだ言っていない。
「まあ正確には警察と揉めたのは白松が新聞記者時代だな。」
やっぱ白松さんじゃないか!!
「まあ、そんな奴らが外部に行けば何を起こすかわからないでしょ。」
小山先輩がそう話す。
「表向きはね。普通に考えれば別に外に出していいでしょ?人殺したわけでもあるまいし。」
小山先輩の話が終わった後すぐに白松さんは続ける。
「私たちが外に出れば太輪新聞は不利になるから、だよね!」
木根さんは無邪気にそう答える。他の二人は深く頷く。
「そのせいで俺たちはラッキーラバーズとかいうカスみたいな記事書かされるしさ。」
僕の方に白松さんがラッキーラバーズの記事をオーバースローで投げ込む。
投げ込まれた記事を僕は真剣に見つめる。
「なんですかこれ?!片山議員がオクラ栽培で粘着!?ってふざけすぎでしょ!!!癒着記事書いてくださいよ!」
他の場所を見ても全てカスだ。
「じゃあ帰る前に」
小山先輩が僕の方に駆け寄ろうとした瞬間だった。
ビュンッッッッ!!!
何かが外を通りすぎる音がした。
「すいません、帰ります!!」
僕はその音を追いかけるために白松さんたちに止められながらもすぐに外を出た。
僕は飛ぶ音をする方を追いかけて行った。どんな場所か見る暇もなく、ただ追いかける。
10分ほど全力で走った時に、突然飛ぶ音は聞こえなくなった。
草が生い茂る河川敷。僕は通り過ぎた物体の正体を探す。少ない手がかりだが一つだけわかる。
「絶対かっこいい!!!」
あんなにかっこいい通り過ぎる音はない!僕はそう期待しながら草をかき分けながら探す。
そういえばなんか首に違和感があるな、なんだろう。
「ヘッドホン返してない!!」
僕はずっとヘッドホンをしたまま走っていたのか!?ちょっと首が凝っていたのはそのせいだったのか。後このヘッドホンはファッションとしては派手すぎる。これで人がいる道を通ったのか、今頃笑われているんだろうな。帰り道はヘッドホンつけて帰ろ。
ギャァァァァァァァァァ!!!!!
「うわあ!!!!!」
何かに触れたのと同時に急に叫び声が聞こえた。僕はその正体を目にするために草を手で取る。
「これは、、、マンドラゴラだ!!!」
その奇妙な形をしたのは、間違いなくマンドラゴラだ。
その声を聞いたものは死んでしまうと言われている。
僕はここで死ぬのか、、、?




