とある乙女ゲームの悪役令嬢に転生した“格闘家”の寝言と動きがなんだかチグハグ!?
なろうラジオ大賞用小説第十一弾
(ほぅ。コヤツが我々の目の上のタンコブであるジュリア・イーグルハイムか)
ある夜。
何の因果か、乙女ゲーム『虹色クロニクル』の世界の悪役令嬢である少女にTS転生してしまった者の寝室に侵入者があった。
侵入者はジュリアにとっての敵の一体。
なぜか彼女(彼?)の命を今なお狙っている謎の存在だ。
(なぜにこの少女が我々の目の上のタンコブかは知らんが、これもこの世界のためだ。死ねィ!)
侵入者は、未だにスースー寝息を立てながら眠っているジュリアに刃を向ける。
侵入者としては、なぜ彼女が殺されなければいけないのか、憐憫ではなくただの好奇心でその理由が物凄く気になったのだが、その前に仕事を片付けなければ上司にどやされるため、命令通り彼女を始末しようとして――。
「……ムニャムニャ……だからヘレン……言ったでしょう……?」
――寝言と同時に、なんとジュリアはバク転して刃を躱した。
「ッ!?」
侵入者は驚愕した。
相手は明らかに眠っている。
にも拘わらず、なぜ寝言とはまったく関係がない動きができるのかと。
「……うぅ~ん、それは……さすがにアウトですわ……ユリンさん……」
ジュリアはさらに寝言を言った。
同時に彼女は侵入者へと近づき手刀を放つ。
侵入者は慌てて避けた。
だが相手のチグハグな言動のせいで攻撃の種類やリーチを予測できず、掠り傷を負った。
(いい加減にしろ! お前本当は起きてるんじゃないか!?)
なぜ今の状況が成ったのか、侵入者には全然分からなかった。
そして眠っているジュリアにそんな状況など分かるハズがなく。
さらに彼女は伝統派空手の技の一つ『サソリ蹴り』で侵入者の頭部を打つ。
攻撃はモロに入った。
おかげで侵入者の平衡感覚に支障が出る。
「ナメんな!」
思わず侵入者は声、そして刃を出す。
だがしかし、それでもジュリアは起きず。
それどころか彼女は次に、その刃に向けて蹴り……を放つように見せかけさらに上部を狙った蹴り……すなわち、同じく伝統派空手が由来の技『ナイマン蹴り』を放ってみせた!
「ぐはっ!」
ナメてたのは侵入者だった。
というか侵入者は、真の格闘家は無意識下でも戦えるというファンタジーがこのファンタジー系乙女ゲームの世界でまかり通らないワケがないという理不尽摂理の存在を考えてなかった。
「ちぃ! ここは撤退だ!」
まさかのイレギュラーを前に、侵入者は撤退する。
そしてそんな騒動の中でも……ジュリアが目を覚ます事はなかったのだった。