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野盗達の悲劇

 ーサナー


 ユーリの膝枕でどのくらい寝ていただろう、突然馬車が急停止し、その反動でわたしは目を覚ました。


「きゃあ……っ!な……なに……っ!?」


「馬車が急停止したということはあたし達の出番って事よ!行くわよユーリ、サナ、ルース!」


 状況が掴めず起き上がってキョロキョロしていると、エミリーはルースと共に馬車を飛び出した!


「わ……わたし達の出番って……?」


「敵が出て来たって事だよサナ!行こう、僕達の仕事だっ!」


「う……うん!」


 ユーリもまた立ち上がり馬車から飛び出すと、わたしもそれに続き馬車を降りた。


 わたしは未だハッキリしない頭を振りながら前へと走ると、そこには十数人程の野盗の姿があった。


「へっへっへ……、ここから先に行きたかったら金と積荷を置いて行きな!」


「……野盗って奴は何で毎回言うことが同じなのかしらね」


 野盗のリーダー格と思われる男が手に持った片刃剣をちらつかせながらドスの利いた声を出すも、エミリーは呆れたような、うんざりとしたような顔で野盗達を見ていた。


「そんじゃ、俺がチャチャッと片付けるわ。ライトニングバレットっ!!」


 ルースさんが雷撃の初級魔法、ライトニングバレットを唱えるとボーリングの玉くらいの雷球が十数個現れ、その一つ一つがそれぞれの野盗へと襲いかかるっ!


「ぎゃああああぁぁぁーーーっ!!」

「ひぎゃあぁぁぁぁぁーーーー!!」

「ひいいぃぃぃぃぃーーー……っ!!」


 そして、野盗達の悲鳴が響き渡ったかと思えば、そのまま野盗達は倒れていた。


「ま、ざっとこんなもんだな」


「待ってくださいよルースさん!それおかしいですよっ!?」


 自慢げに腕組みをしているルースさんに対し、わたしは思わずツッコミを入れた。


 ライトニングバレットは雷撃系の初級魔法にして敵単体を攻撃する魔法だったはず。

 複数の相手を同時に狙えるという魔法じゃなかったはずだっ!


「おかしいって何がだ?」


「ライトニングバレットですよ!あれって敵一人を攻撃する魔法ですよねっ!?」


「本来はそうだな。だが、如何に初級魔法と言えど極めればこの程度は軽くこなせるようにできる。サナもやってみるといい」


「いや……、そんな簡単に言われても……」


「やり方としては、例えばライトニングバレットなら普通なら相手にまとめて雷球をぶつけるのだが、これは生み出した雷球の一つ一つにターゲットを特定させるようにイメージして放つんだ。最初は難しいし、思い通りにも中々いかない。かと言って口で説明するのもまた難しい、こう言うのは自分で掴むしかない。だが、出来るようになれば面倒くさい複雑な詠唱を必要とする魔法を使わなくても、簡単な初級だけで相手を殲滅できるぞ?」


「は……はあ……」


 ルースさんは頼んでもないのに説明をしてくれた……。


「ま……これから先、盗達はこっちが頼まなくてもいくらでも出てくる。倒しながら練習すればいいさ」


 ルースさんはそう言いながらなぜか倒した野盗の所へと歩いていく。


 よく見ると、エミリーもまた倒した野盗を調べているようだ。


 わたしはみんなが何をしているのか疑問に思いながらも見ていると、二人はそれぞれ袋を持って戻ってきていた。


「ふう、それなりに持ってたわね♪」


「くそ……、サナに説明をしていたから出遅れちまった……」


 エミリーは満面の笑みを浮かべ、ルースは舌打ちをしながらしかめた顔をしている。


「二人は何をしてたの?」


「何って、野盗から金を奪い取ってたのさ」


 わたしの問にルースさんはお金が入っていると思われる袋を振ってみせた。


「ちょっと待ってくださいっ!お金を盗んでもいいんですかっ!?」


「サナ、甘いわね。どうせ野盗達は人様から金品を奪ってるのよ。それならその野盗を倒したあたし達が野盗からお金を巻き上げても何ら問題はないはずよ」


 無茶苦茶な話だ……。

 開いた口が塞がらないとはこの事だ。


「姉さん、いい加減野盗とは言え、倒した相手からお金を巻き上げるのやめなよ……」


 わたしとユーリは非難に満ちた目でエミリーとルースを見る。


「甘いなユーリ……。これらは全て野盗が他人から巻き上げたものだ。持ち主に返そうにもどれが誰のものか分からない。仮に街に持ち帰って持ち主を探したとしても"自称持ち主"が現れるだけで、これらの品が本当の持ち主の所に戻るとも限らん。なら、ここは取り返した俺達が代表をして頂いておくのが筋と言うものだろう」


「そ、それはそうかもしれないけど……」


「それに、それだけじゃないわ。野盗を倒すことでこのあたりの治安も良くなるわ。それに、あたし達が野盗のお金を取っているのにも意味があるのよ、もし金品を取らずにそのまま放っておけばそれを狙って新たな野盗がこの辺りを根城とする原因にもなるの。つまり、これはボランティアよっ!慈善事業なのよっ!!」


「う……うぅ……」


 ユーリがルースさんとエミリーの屁理屈に押されだしている……。


「でも、やっぱり野盗とは言え人のお金を取るのは良くないよ」


 劣勢を強いられていたユーリりわたしも援護を行う。


「サナ、旅は甘くないのよ!旅をすればするほどかかさむ旅費に食費、さらにメシ屋に行く度に湯水のごとく消える酒代……、結局旅なんてものは金次第なのよっ!!」


 エミリーは決まったと言わんばかりにドヤ顔をしながら、私へと指差す。

 言っていることはわからないでもない……でも……。


「それならお酒を飲まなかったらその分浮くって事だよね?」


「うぐ……!」


 わたしの指摘にエミリーは言葉を濁らせた。

 酒代にお金が湯水のごとく消えるのならそれを断てばかなりお金が浮くということだ。

 そうなればわざわざ野盗からお金を巻き上げなくても済む話だ。


「やっぱり野盗とは言え人のお金を取るのは良くないよ」


「しょうがない、分かったわよ……」


 わたしの追撃にエミリーは肩を落とした。


 よし、論破した……!と内心でガッツポーズをしているとエミリーがわたしへ向き直った。


「なら二人が見てないところでならいいんでしょっ!?」


「え……?」


 エミリーの言っていることがイマイチ分からない。


「ルース!あたしと勝負よ!どうせまだこのあたりにも野盗が潜んでいるはずよ!どちらが多く野盗から金品を巻き上げられるか勝負よ!」


「面白い!望むところだっ!」


 エミリーとルースさんは走り出すとあっという間に見えなくなってしまった。

 そして、暫くするとどこからともなく野盗と思われる複数の悲鳴にも似た叫び声が聞こえて来る。


 それから数時間後、エミリーとルースさんの二人は中に金品が入っているのだろう、サンタクロースも顔負けな大きな袋を抱えて帰ってきたのだった。

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