フォレストバルチャー
フォルストバルチャーの退治を引き受けたわたし達は、林道を外れた森の中を歩いていた。
森の中は背の高い針葉樹等が鬱蒼と生い茂っており、朝だと言うのに辺りは薄暗く不気味な雰囲気に包まれていた。
「フォルストバルチャーってどこにいるんだろう……?そもそもどんな魔物なんだろう……?」
フォルストバルチャーという魔物を見たことがないわたしはどういうものなのか想像がつかない。
バルチャーと言うからには名前からしてハゲタカか何かなんだろうとは思うけど……。
「フォルストバルチャーは中型の鳥の魔物よ。群れで狩りをする魔物で、翼を広げると1.5メートル程になるわ」
エミリーがフォルストバルチャーの説明をしてくれた。
1.5メートルか……、もっと大きいのかと思ったけどそうでもないのかな……?
「でも、この広大な森の中をフォルストバルチャーを探し回って行くと言うのもかなり大変だね……。オマケにフォルストバルチャーは行動範囲が広いって言うし……」
ユーリの言うようにどこまで広がっているか分からない森の中を闇雲に探していっても埒が明かない……。
さらに言えば上を見上げても見えるのは空ばかりで肝心のフォルストバルチャーは全く見当たらない。
「確か、あれは集団で生活する習性があるって話だから巣か何かを見つければかなりの数を見つけられそうだけど……。そうだわ!サナ、サーチの魔法って使えるかしら?」
「サーチの魔法……?うん、一応覚えているけど……」
「なら、サーチを使ってフォルストバルチャーがこの辺りにいるかどうか調べてもらえるかしら?」
「うん、分かった」
わたしはエミリーの言葉に頷くと魔法の詠唱へと入る……。
「サーチっ!」
魔法を唱えると、わたしを中心として魔力が波となって周囲へと広がっていく。
サーチ、その名の通り周囲にいる相手を探す魔法で、術者を中心に魔力を広範囲に飛ばし相手の居所を探すという索敵魔法。
ちなみに、索敵範囲は術者の魔力容量によると本に書いてあった。
「どう……?分かった……?」
「う~ん……、この辺りにはいないみたい……」
「なら場所を変えてやって見るわよ」
その後もわたしは場所を変えながら何度もサーチの魔法を唱えた。
そしてついにターゲットを見つけることに成功した!
「……いたよ。たぶんこれだと思う。ここから四百メートルほど西に行った所に数にして三十ほどの反応があったよ」
「三十か……、まあまあの数ね……。サナ、ユーリ行くわよ」
「うん」
「分かった」
わたし達は頷くと反応があった場所へと向かう。
その場所へとやってくると、そこには巣なのか同じよう鳥が地面や木の上など様々な点在していた。
その鳥は全体的に黒っぽい羽で、頭にはトサカのような立派な羽を生やしていた。
「いたわ、あれがフォルストバルチャーよ」
「結構な数だね……。見て、地面だけでなく木の上にも姿があるよ」
どうやらあれがフォルストバルチャーのようだ。
バルチャーって言ってたからハゲタカなのかと思ったけど、それとは違うみたい。
大きさで言えばカラスと一緒かそれより少し小さい程度。
「さて、問題はどうやって倒すか……ね。あたしが矢を射ってもいいけど、束になって襲ってこられたら流石に不利ね……」
「その点で言えば僕は姉よりも不利になるってことか……」
「わたしがやって見る。こういう時に使えそうな魔法を覚えておいたの」
この前、街道の小屋で読んでいた本に書かれていた魔法が役に立つかもしれない。
「それは頼もしいわね」
「じゃあ、サナ任せるよ」
「任せて」
わたしは頷くと魔法の詠唱へと入った。
この魔法なら全てとはいかないにしても結構な数は倒せると思う。
「サンダーストームっ!!」
完成した魔法をフォルストバルチャー達の中心付近で解き放つっ!
巻き起こる雷撃の嵐が次々とフォルストバルチャー達へと襲いかかり、雷撃に打たれたフォルストバルチャー達が次々と倒れていく!
サンダーストーム、雷撃系の中級の広範囲魔法で荒れ狂う雷撃が敵へと襲いかかる。
もちろんこの魔法に敵味方識別効果なんてものはないから範囲内に味方がいればもれなく味方ごと雷撃の嵐に見舞われると本に書かれていた。
「やった……っ!?」
「凄いよサナ!」
「いえ、まだよっ!」
サンダーストームでフォルストバルチャーを全滅せることが出来たか思ったけど、魔法を避けた数匹が上空から襲いかかるっ!
その速さは鬱蒼と茂る森の中であって縫うように高速で飛び回り、そして急降下するとその鋭い爪を向け襲いかかってくる!
「サナ危ないっ!」
わたしへと襲いかかろうとしていた一匹のフォルストバルチャーをユーリが槍で仕留める。
「ユーリ、ありがとう」
「そんなことよりこれはどうしよう……、飛び回られたら僕の槍じゃ届かない……!」
仲間が槍で倒されたから、残ったフォルストバルチャーは高度を取りわたし達の周りをぐるぐると旋回していた。
「く……、こうも速いと矢も狙いにくいわね……っ!」
一方のエミリーは矢を構えフォルストバルチャーへと狙いを定めようとするも相手の動きが速く撃てないでいた。
そんなわたし達に対しフォルストバルチャーは口から唾液のようなものが降り注がれる。
うわ……!汚い……っ!
しかし、それはただの唾液ではなかった。
「あつ……っ!」
唾液の一つがわたしの腕へとかかると着ていた服に穴が空き、腕が赤く爛れてしまっていた。
な……、何これ……。
「これは……、酸だ!フォルストバルチャーは口から酸性の唾液を吐いてくるんだ……っ!?」
「く……、このままじゃ危険ね。一度下がるわよっ!」
エミリーの声でわたしとユーリは一度来た道を走って戻る!
しかし、フォルストバルチャーがそれで諦めるわけもなく、まるでカラスが仲間の仇を討つかのように執拗に追いかけてくる!
一方のこちらはと言うと、道が悪く乱立している木の中を掻い潜って走るのは容易ではなくその差がみるみると縮まって来る!
「うわぁ……っ!?」
そんな中ユーリが木の根に躓き転んでしまう!
「ユーリ……っ!?」
「ユーリ!」
「サナここは僕が囮になる……!だからサナと姉さんは早く逃げてっ!」
「いやっ!ユーリはさっきわたしを守ってくれた!だから今度はわたしがユーリを守る番だよっ!」
わたしはユーリを庇うように前へと立つと魔法の詠唱を始めた。
「スパイダーネットっ!」
わたしはスパイダーネットを唱えると、木々の間に魔力で生み出された、まるで蜘蛛の巣のような糸が幾つも張り巡らされる!
スパイダーネット、それは拘束魔法の一種で狭い場所やこのような森の中で真価を発揮するトラップ魔法。
この糸に触れたものは目に見えないほどの小さな魔力の糸に全身を絡め取られ、身動きを封じられると魔法の本に書かれていた。
フォルストバルチャー達は進行方向にわたしが仕掛けたスパイダーネットがあるとは知らず真っ直ぐにこちらへと飛んでくる。
そして、最初の一匹がスパイダーネットに引っ掛かると残りも続々と引っ掛かりフォルストバルチャー達は木々の間に宙吊りにされる形となっていた。
「これでトドメよ!ライトニングボルトっ!」
さらにそのスパイダーネットへとわたしは杖を構え、ライトニングボルトを唱えると雷撃がスパイダーネットを伝い、暴れ狂いながらフォルストバルチャー達を襲う!
ライトニングボルト、雷撃系の中級魔法でサンダーストームが広範囲を対象にした魔法に対し、こちらは単体を対象にした攻撃魔法。
そして、スパイダーネットの中を暴れ狂うライトニングボルトが収まった頃、フォルストバルチャー達は黒焦げとなり絶命していた。
「か……、勝った……。はぁぁぁぁ~……!」
フォルストバルチャー達に勝利した途端緊張の糸が切れたわたしはその場へとへたり込んだ……。
はあぁぁぁ~……、ダメかと思ったけど……、なんとかなって本当に良かった……。
「サナ、僕を守ってくれてありがとう。本当に助かったよ」
いつの間にか立ち上がり、わたしへと手を差し伸べてくれたユーリの手を掴むと、わたしはそのままユーリに抱きしめられた。
「え……?え……っ!?」
何が起こったのか分からず、わたしは顔を赤なり、頭の中は真っ白になっていた。
「二人共、見せつけてくれるわね……。それよりサナ、ユーリを助けてくれてありがとう。あたしは最初はサナは足手まといにしかならないと思っていたけど、撤回するわ。あなたはあたし達の"大切な仲間"よ」
エミリー……。
「ていうか、わたしを足手まといって思ってたなんて酷くない……っ!?」
「そうかしら?キーヴァを出てすぐの頃なんて一人バテ上がってたじゃない。それに翌日脚が筋肉痛になったって言ってたのは誰だったかしら?」
「うぐ……」
そこを言われると痛い……。
「それに比べると今は"少しは"逞しくなったってことよ。さ、他にもフォルストバルチャーがいるかも知らないから探しに行くわよ」
「いいもん!なら次はわたし一人で軽く倒してエミリーの鼻を明かしてやるもん!」
「はいはい、それは楽しみね」
「ムキーっ!ホントだからね!本当の本当にエミリーの鼻を明かしてやるんだからね……っ!」
「あは……、あははは……。サナあまり姉さんを本気で相手にしないほうがいいよ……」
この後わたし達はいくつものフォルストバルチャー達の巣を探し当て、合計二百数十羽のフォルストバルチャーを倒したのだった。