失意のサナ
ーユーリー
家へと帰った後、サナは姉さんの案内で風呂へと入ってからすでに一時間近く経つけど未だに出てきそうな気配がない。
余程あのブルラビットの一件がショックだったのかもしれない……。
「ねえ、ユーリ。サナはどうだったの?」
サナが入っている風呂場へと続く通路を眺めていると、リビングに設けられている椅子に座っている姉さんが問うてきた。
「何もできなかったよ。ホーンラビットは可愛くて倒せないって言うし、ブルラビットも出てきたんだけど、サナは恐怖で何一つ出来なかったよ……」
それに対して僕は森での出来事を話す。
「そう……、ユーリが付いていて正解だったということね。ユーリがいなければ今頃あの子は死んでいたわね……」
「姉さん、サナの事どうするの?」
「そうね……、ブルラビット如きで震えて何もできないじゃ話にもならないわ。今のあの子にはお姉さんを探す旅は諦めてもらう他なさそうね……。サナにはあたしから言っておくわ」
姉さんは席から立ち上がるとサナがいる風呂場へと向かって行った。
僕は姉さんの背中を何も言い返すことが出来ずにただ見つめることしかできなかった……。
ーサナー
ユーリの家へと戻ってきたわたしは冷めつつある浴槽の中で一人両手で膝を抱えてうずくまっていた……。
思い起こされるのは先程のことばかり……。
「わたし……、何もできなかった……」
ブルラビットが突進してきた時、わたしは恐怖で身体がすくみ、立ち上がることすら出来なかった。
たぶん今日の事はユーリがエミリーに話していると思う……。
きっとエミリーはわたしをお姉ちゃんを探す旅に出ることを許可しないだろう。
わたしは残りの人生この見知らぬ土地でたった一人で生きていかないと行けないんだ……。
そう思うと目から涙が滲んでくる……。
「うく……、ううぅ……。お姉ちゃん……、助けに来てよ……。お父さん、お母さん助けて……」
嗚咽を漏らしながらお姉ちゃんの笑顔が、両親の顔が頭に浮かぶ。
「サナ、ちょっといいかしら?」
「な、なに……?」
涙で頬を濡らしていると突然お風呂場のドア越しにエミリーの声が聞こえてきた。
わたしは涙を拭うとそれに応える。
「悪いけど、今日二人が出かけている間にサナのことを調べさせてもらったわ。ところが、誰に聞いてもあなたのことを知る人はいなかったわ。この街は決して小さな街じゃないし、人だって決して少なくない……。それに近隣の町や村からの出身の冒険者だっている。でも誰に聞いてもあなたの事は誰も知らなかった。サナはあたしの知らない地名のことを言っていたわね、あれってどこにあるの……?」
「わたしがいた場所は……、たぶんこことは違う世界だと思う……」
「こことは違う世界……。そう、にわかには信じ難いけど、そう考えるといろいろ辻褄が合うわね……。さて、本題に入るけどサナ、今のあなたではお姉さんを探す旅に出すわけにはいかないわ」
やっぱり……。
内心覚悟していたとは言え、改めてそう言われるとショックを隠せず、膝を抱えていた手に力を込める……。
「そこで、今後の話をするわ。お風呂から上がったらリビングに来てもらえるかしら」
「分かった……」
たぶんこの街で暮らすにあたって説明か何かがあるのだと思う……。
いつまでもこの家に居座るわけにもいかないし……、ここを出た後どうやって暮らそう……。
わたしは重い気持ちを抱えたままエミリーが立ち去ったのを確認するとお風呂から上がり、服を着るとリビングへと向かうことにした。