異世界転生した者の末路
こういう珍味な物語もいいんじゃないでしょうか?
俺は在り来たりな、ごくごく普通の暮らしをしていた。
小中高大学と平均点ど真ん中の順位と点数を取り、それなりの会社に入社した。
特に刺激があるわけでもなく平凡な毎日をずっと続けていた。
自分から動こうとしなければ、カオスな世界や何かしらの問題が起こるはずもない。
そいつは向こうからやって来た。
確かに俺が見た時は青信号だったんだ、まさか信号を無視して直進してくる車がやってくるなんて予想することも難しい。
そいつは高速道路のノリでやってきて、一般道路走ってたんだてへぺろ♡ みたいな気安で突っ込んできた。
凶暴なタイヤが俺の体を乗り上げて、タイヤ痕の2本線を作りながら突っ走って行きやがった。
あの野郎!!! なんてこと口に出すことも思うことも出来ず、視界がブラックアウトしていく。
突然のことで放心することも出来ず、体内を循環している血液がドクッドクッとアスファルトに赤い絵の具を撒き散らせながら命の灯が消えた。
次第に外に飛び出してシャバの空気を吸っている血液も冷たくなり、ノイズのような音が脳から耳から響いていた。
こうなってしまうと石化したように動かなくなる。
♢♢♢
死んだはずの自分が目を開いてる声を聞いてる……ただ妙に体が軽すぎた。
ジャンプすると風船みたいに飛んで行ってしまいそうで、地面に足を付けるイメージをした。
自分に都合が悪いことは見えない、ゆえに矛盾を俺は無視する。希薄であるが生きてると実感している?
「なんだここは……」
景色は真っ暗だった。
何処に目を向けても黒以外の色が見えず、困惑した表情を浮かべる。
どういう原理なのか知らないが、透明な床を歩いていた。ゲームのギミックかよって突っ込んだりして。
こう闇だと心細くなってくる。
「誰かいませんか!!! 誰かっ!!! 誰かっ!!! 返事してください!!!」
歩いてもいいものか? と思ったが躊躇したのは数秒くらいで、すぐに歩いた。
床を踏んでる感覚も床を蹴ってる感覚もやはり希薄であるが、スリーセブンが揃ったような奇跡に感動することにした。
「俺は助かったんだ……助かったんだよ……」
「現実逃避、ここに来る者は皆あなたみたいに現実逃避するんですよ」
うおおおお!!! とうなり猛烈に感動してる俺に、ぽつりと言葉が割り込んだ。
そこには誰も居なかったはずなのに、骸骨みたいにやせ細った男が慇懃無礼な口ぶりで話しかけてくる。
真っ白な血が通ってるとは思えない蒼い相貌には薄気味悪い笑みが浮かんでいた。
「ようこそ……異世界の奈落へ……」
「はぁ? なんだそれ?」
異世界? 異世界って言うとあれか? 異世界転生!!! 異世界転移!!! みたいな?
「異世界の奈落ですよ、本来なら異世界転生して、2度目の人生を与えられるんですが……確率は20%です」
「異世界奈落? 聞いたことがない言葉だな」
「そりゃあそうですよ……異世界転生に失敗した人の話なんて……聞きたいと思いますか?」
「異世界転生失敗?」
急に心が重くなったような感じがする。
「何度でも言ってあげますよ、あなたは異世界転生に失敗した!! だから魂が異世界奈落に落ちてしまったんです。這い上がることが出来ない奈落にね」
「えっと……異世界奈落に落ちたらどうなるんですか?」
思わず敬語で問いかけてしまう。
「そのままの意味ですよ、異世界転生するどころか来世も潰えたんです。あなたの魂は永遠に異世界奈落に漂うことになる」
「つつまり……ここから抜け出せないの?」
「あなたは今魂なんです。体が軽いでしょう? それは肉体が無いということなんです。この真っ黒な世界を永久に旅してください」
「おおいっ!!! そんなのって……」
「運が良かった、異世界転生も出来たし神様からチートも授けられた、周りには可愛らしい美しい女の子がいっぱい居て……ウハウハの人生を送る人も居れば逆も然りということです。この世界は全員が幸福になれるように創られていない!! 幸福を手に入れた人のその倍、3倍!!! 不幸になる人が居る。その不幸な人達を土台にして幸せを謳歌してるんですよ、これがこの世界の摂理です」
「・・・・・・」
「会社だってそうじゃないですか……毎年毎年新入社員が入ってきますよね? 仕事が出来る人みんなから先輩から慕われている人は出世しますが……仕事が出来ない役立たずの人はどうなるんでしょう? クビという不幸の味を味わうんじゃないですか?」
「・・・・・・」
「どれも同じことなんですよー幸せと不幸は表裏一体!! 幸せを掴み取った裏で何百万人の人が不幸になっている。でもそれは仕方ないんです、世界が不景気だからじゃない。そういう仕組みなんです。どちらかが選ばれれば、選ばれなかった人は奈落に蹴り落とされる……そうしないと世界が保てないから」
「・・・・・・」
「むしろあなたは光栄なことだ、異世界転生出来た成功者の土台になれるんですから、これを光栄と呼ばすなんだって言うんです? しっかり成功者20%のための踏み切り板になってください……では」
「嘘だ……嘘だ……こんなのってねーよ、なんで俺が知らない奴らのために……犠牲にならないといけないんだよ……」
俺のやるせない思いは、骨のような男には届かない。
ゲームで言うところの操作説明だったんだろうけど、こんなの納得出来るわけがない!!! こんな理不尽な異世界転生失敗はあんまりだ!!!
転生してスライムになったり、転生してチートになったり、それからそれから……いっぱいやりたいことがあったのに―――転生失敗して奈落に閉じ込められるだっ!!! しかもここで俺の輪廻転生も断たれるとかふざけんじゃねーぞ!!! こらぁっ!!!
誰だよこの設定作ったの!!! わざわざ異世界転生失敗を入れたの誰だつうんだよ!!!
誰も書かねーよこんなクソゲーこんな糞小説がよ!!! こんなの売れるかよ人気出るわけねーじゃん!!! 馬鹿じゃねーの?
「異世界転生させろ!!! 出来ないなら輪廻転生させろ!!! 何年でも何十年でも何百年でも何千年でも何万年でも何億年でも何兆年でも何京年でも待つからさ…………」
そんな男の見苦しい叫び声が奈落の方から遠く遠くどもって響いた―――
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今、異世界転生に付いて勉強してる者です。