見出しは大胆に
短編第二弾……?
実は設定だけで重い……作者の脳を圧迫するのだ。
話の筋は大雑把な癖にな!
カフェのテラスに一組の男女がいた。男女と言っても、片方は長い耳を弄りながらコーヒーを飲むウサギ……らしい何か、もう片方は恐る恐るゴマ団子に手を伸ばす緑髪の少女。
「……あっ、結構美味しい!」
パシャリ、と頬を緩ませる少女の表情が切り抜かれた。ふーっ、と現像したての写真に息を吹きかけていると、少女に取られてしまった。
「もう! 撮るなら予め言ってよ!!」
恥ずかしそうに顔を赤らめている少女に、オレは冷たい視線を向けた。
「オレとしては普段身だしなみに気をつけていないお前が、そんな羞恥心を持っていたことが驚きだ。というか、いくら『コネクト』中だからって、風呂に入ろうとしないのは人としてどうかと思うぞ」
オレの言葉に周囲を気にするが、あいにくと昼間のテラスは騒がしい。上手い具合にかき消されたのかもしれない。……違ったら、それも面白い。
「……だって、仕方ないでしょ! 引っ越しは忙しいの! ……そもそも『コネクト』中は新陳代謝が中断されるって言ってたから、たぶん大丈夫よ……」
視線を彼女の右手に向けると、人差し指に嵌められた指輪がほのかに光を放っている。
それは『エクスギア』という、有り体に言えば“誰でも”平均的な能力値で戦える武器だ。どこでも戦闘に移行出来る反面、厄介な副作用に目を瞑れば現代における最高の兵器と言っても過言ではないだろう。
「唯一の生命線だな」
尊厳とかの。
「まるでリバウンドみたいに言わないでよ……ちょっと怖くなっちゃった」
さすさすと指輪を擦り始めた彼女に、年相応の姿を見る。こうであれ、とは思わないまでも、まだ子供なのだから楽に生きれば良いのに。
コーヒーを啜りながら、我を貫く頑固な彼女に向けて手を差し出す。
「……ん? これ何?」
「身分証に名刺入れ。今までお前は強大な後ろ盾に守られてた訳だが、オレのところじゃそうはいかない。お前が元の場所に返り咲くには……いや、聖女として世に出るには積極的にアピールしていかないとな!」
教会の象徴とも言える聖女。いずれ敵となる強大な相手に立ち向かうには、どうしてもオレの力では不十分……というか、直接干渉する手立てがオレにはない。
「まあ、それは構わないけど……」
少し不安そうな顔をするが、予想以上の立ち直りの速さを見て、少し不思議に思った。
「意外と大丈夫そうだな。自身があるのか?」
その言葉に少し苦笑いをした後、俯きながら、彼女の声が滑り出した。
「別に得意ってほどじゃないけど、やらないと。やるべきだと感じたら、心が逃げる前に……って、教わったから」
「……大人に、か?」
俯いていた彼女は顔を上げて、オレを暫く見つめながら微かに笑う。
「違うよ。これは私が決めたこと。ただ私がすべきだと思ったからしてるだけ……まあ、向いてないのは分かってるけどね」
恥ずかしそうに頬を掻く。しかし、その目は真っ直ぐオレを見据えていた。
「あなたの、ジオの手を取ったのは私よ? 例え、私が空っぽだとしても、選んだのは私。後悔も、懺悔も……全て背負うと決めてるから」
彼女は笑う。あの夜、オレを捉えた同じ表情で。あの目を見たから、オレは全てを賭けたくなった。どうしょうもなく薄暗い世の中を弾き飛ばす光明に見えたから。
嗚呼、オレも大人と変わらないのだろう。
「いや、オレはお前の側にあり続ける。死ぬなら共倒れだ。楽しく行こう!」
オレはお前を記録し続ける。世界がお前を忘れることがないように。
オレは世界に焼き付ける。ただの子どもが聖女になる様を。大人のエゴがオレたちを作るのなら、オレたちはわがままを言うだけだ。
どんな絵空事でも、遥か高い理想であっても、口に出して前に進むしかない。そうでなければ、オレたちはオレたちではなくなるのだから。
✴
「青春……か」
口に咥えた飴を転がしながら、自身にもあったかもしれない情動に思い耽る。そして資料を見ながら、少し前まで隣りにいた彼女……メルキアの資料に目が留まる。
成績優秀、品行方正、私情に流されることも多いが……間違いなく、彼女は聖女になれるだろう。そもそも、世界に身を捧げた彼女たちを支える為に、我々教会はあるべきだった。
思えば、この時代が悪いのかもしれない。
窓から外を見ると、様々な人々の営みがあり、その奥には屹立する外壁が目につく。
学園都市セイレム……学生がほとんどを占めるこの都市で、防壁は吹雪とともに外敵を防ぐ。それが化け物であろうと、同じ人間であろうと。
世界は混沌としている。神々の秩序が失われて幾星霜、いくら人々を照らしても暗闇に何度も足を取られ、争いが絶えることを知らない。
戦争があった。世界を巻き込んだ大きな大戦が。誰もが力を得られたから、誰もが戦争に向かっていく。
多くの孤児が生まれた。多くの難民が生まれた。多くの悲劇がそこにあった。時も場所も選ばず、必ず何処かで戦いがあった。右手を見れば、己の腕と入れ替わった銀の光沢が目に入る。
「……」
失ったものは多いが、何の皮肉だろうか。戦争によって生み出されたものが肩からぶら下がっている。それに、生き残った私が役職を与えられたことも。
ならば、この皮肉すらも利用するしかない。
「偽物であろうとも、人の為なら……」
作り上げられた虚像すらも、人々を導く光となる。
✴
貧しい世界で、飢えてる世界。
そこに甘露が落とされたのなら、天地は歓喜に打ち震えるだろうか。
世界は震撼する、新たな聖女の到来に。
ナショナルではなく、ローカルであっても、その劇薬はどうしようもなく世界に波及する。
これは、とある少女の奮闘と少女を追い続けた記者の記録。偽物が、本物になるまでの物語。
ただ世界に残そうとした旅路の記録。
連載という形を取らず、短編で投稿してるので、気になった方は代表作をご覧になって頂けると嬉しいです!
作者はずっとお肉を食べたいと思っています。
タンパク質が欲しい! 食欲的に!
家にあるのは豆腐と油揚げでした