シャロ
ノエルは子供のような外見をしている。
背の丈はオレよりも頭ひとつ小さく、手足は転ぶだけで折れてしまいそうな程に細い。胸部に至っては、齢が十に満たない童女と変わらぬ平面である。
しかしオレは彼女が子供とは思わない。
洞窟で「条件」を提示した際に見た顔は、聞いた声は、幼い頃に聞かされた童話に出てくる恐ろしい存在のようであった。
ノエルには華が無い。
ある程度は目鼻立ちが整っているものの、決して美しいと思えるような作りではない。むしろ両頬に墨を彫ったような雀斑が、人によっては醜く見えるかもしれない。
しかしオレは見惚れてしまった。
提示された「条件」に頷いた後、童女の如く純粋な笑顔を咲かせた彼女を見て、時を忘れ、のぼせたような気持ちになった。
「これで、貴女は私の所有物ですね」
そんなオレを引き戻したのは、その無邪気な声で発せられた恐ろしい言葉だった。
「……約束を違えた時は、許さないからな」
「ええ、勿論ですとも。しかし私は必ず約束を守ります。あなたの全てを代価に、一人の貴族から全てを奪い取ってみせましょう」
王国へと続く道の途中、ノエルはオレの周囲を踊るように移動しながら言った。
……この無駄な動き、疲れないのか?
オレは眉を寄せながら問いかける。
「なあ、どうしても一人だけなのか?」
「当然ですとも。一人の存在で釣り合いが取れるのは、同じく一人の存在まで。命の価値に差を付けるなど許されることではありません」
ノエルはオレの前に立ち、ピタリと歩みを止めて言う。
「今更ですが、お名前を伺っても?」
「……シャロだ」
「シャロ! 良い名前です。家名は?」
「あるわけないだろ。平民だぞ」
「おっと、これは失礼しました。つい癖で」
ノエルはコツンと自分の頭を叩いた後、小さく舌を出して言った。それはもう頭の悪そうな仕草である。
「……不安になってきたぞ」
「それは良くない。何かお悩みですか?」
お前のせいだぞ。
本音を胸に秘め、溜息と共に別の言葉を吐き出す。
「どうやって殺すつもりなのか教えろ」
「忍び込みます。その後は、シャロに任せましょう」
「簡単に言うな。貴族だぞ。忍び込むにしても──」
そこでオレは言葉を止めた。
直前まで目の前に立っていたはずのノエルが、姿を消したからである。
「このように、結界魔法を使います」
背後から声が聞こえ、慌てて振り返る。
しかしそこには誰の姿も無い。
「どういうことだ!? どうして結界魔法で姿を消すことができる!?」
「光です。詳しい説明は致しませんが、そういうものだと思ってください」
「……分かった」
オレが頷くと、ノエルは姿を見せた。
それから愉快そうな笑みを浮かべ、歩き始める。
……不気味過ぎる。
先程から悪い予感が止まらない。
今すぐに引き返せと、これまで魔物から逃げ続けることで培った直感が叫んでいる。
……違う。これは、またと無い機会だ。
拳を握り締め、恐怖に争う。
ノエルは不気味だが嘘をついている気配は無い。
一方でオレは、嘘を吐いている。
約束が果たされた後、この女の言いなりになる気は毛頭無い。
あくまで利用するだけ。
──この時はまだ、そう思っていた。






