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城の地下

 これは、ちょうどノエルが国を出た頃の出来事。

 彼女を追放した王子は、二名の貴族を引き連れ城の地下に居た。


「この国には、無駄なモノが多過ぎる」


 ぽつりと呟いた王子の声が反響する。

 松明に照らされた彼の表情は、先日の社交会でノエルに対して激昂した思えない程に冷ややかだった。


「聖女など不要だ。無能な平民も必要ない」


 トン、と音を鳴らし振り返る。


「そうは思わないか?」

「全くでございます」


 一人の貴族が返事をして、もう一人は深く頷いた。続けて、返事をした方の貴族が言う。


「愚かな貴族は言います。平民無くして食糧を賄うことはできないと。実に古い意見だ。嘆かわしい」

「カリオペ殿の仰る通り」


 もう一人の貴族は、その声に同調して言う。


「奪えば良いのですよ。圧倒的な力で。他国から」

「その通りだ。べリオ―ル、カリオペ。お前達こそ、真に賢い者である」


 王子は満足そうに言った。

 それから再び床を鳴らし、二人に背を向ける。


 そして彼の目は、恍惚とした色を持って、それを映した。


「これさえあれば、他には何も必要ない」


 大人二人分の高さがある巨大な鉄格子。

 その先に魔物が立ち、王子達を見つめている。


 その姿は白馬と酷似している。

 異なる点はふたつ。不気味に光る赤い瞳と、大人の腕程の長さがある頭頂部の一本角。


 その名はユニコーン。

 奇しくも王子が追い出した聖女を揶揄する際に使われる名を持つ魔物であった。


「いやはや何度見ても不気味ですな。本当に制御できるのですか?」

「ベリオールよ。今のは誰に対する質問だ?」


 王子は冷ややかな目でベリオールを見る。

 その目を見た貴族は、心臓を鷲掴みにされたような恐怖を覚えながら目を伏せた。


「……ただの独り言にございます」

「そうか、なら良い」


 王子は一歩、鉄格子に近づいて言う。


「カリオペ、貴様に問う。なぜ、この時、この場に呼ばれたと思う?」

「……あの平民を国外追放したからでしょうか?」

「然り。あれは実に厄介だった」


 王子は貴族達に背を向けたまま鉄格子の間に手を入れる。すると魔物は顔を寄せ、その手に触れた。


「我が計画を消滅させ得る力を持ち、どれだけ甘い言葉を囁いても尻尾を振らなかった。どういうわけか、あれは男を避け女を好む。ふざけたことだ。女など、子を産むことだけが役目であるのに」


 王子は魔物の横顔を撫で、首に付けられたリングに触れた。それは魔物の在り方を歪め、王家に屈服させる呪いを込めた魔道具。


 あの平民も首輪ひとつで制御できれば……という言葉を胸に、王子は振り返る。


「ようやくだ。聖女という忌々しい存在が消えた。計画の始動は、これより三日後とする」


 おお、と二人の貴族が声を漏らす。

 しかし、ややあってカリオペと呼ばれた方は首を傾げながら言った。

 

「……むむ? 先代の聖女様は?」

「ああ、あれなら、餌になったぞ」

「……それは、どういう」

「喰わせた。簡単だった」


 あっさりとした言葉。

 カリオペは青ざめ、問いかける。


「よろしいのですか……? 実の母君ですぞ」

「あれは我が母ではない。あの聖女もまた平民だった。故に我が父は別の女に子を産ませた。婚姻は、聖女信仰を欺く為の、形だけのものだ」

「……そうだったのですね」

「然り。そうでなければ、我が髪色は、あの餌と同じ赤い色をしていただろう」


 王子は先代聖女を「餌」と言い張る。

 その言葉に戦慄しながらも、貴族達は本心を口に出せない。その瞬間、自分達が同じ未来を辿ることは目に見えているからだ。


 馬鹿げている。

 確かに魔物は圧倒的な戦力となるが、国全体を覆う結界と比べたら、守る面では微力である。


 この国は聖女を失った。

 もしも侵略を受ければ、多くの民が命を落とす。


 この王子はそれが分からぬ程に愚かではない。


 つまり、切り捨てたのだ。

 すべて死んでも構わない。自分さえ残ればいい。


 故に、貴族達は思った。

 この王子を怒らせてはならない。この青年は、遥か昔より人類を屠り続けた魔物よりも、遥かに恐ろしい。


 三日後、解き放たれた魔物が起こすこと。それを想像するだけで、貴族達は震えが止まらなかった、

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