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賭けの結果

* アルス *



 ……あいつ、正気か?


 ノエルの行動を見て思った。

 あれは常人の発想ではない。

 戦闘中の魔物に近寄るなど、他の誰に真似できるだろうか。


 ……俺は、どうするべきだ?


 直観は「ノエルを止めろ」と叫んでいる。

 しかし彼女のことだ。きっと二重、三重の考えがある。


 ……ひとまず、様子を見るか。


 俺は指示通りに攻撃を止める。

 無論、魔物は止まらない。だからあえて彼女に目を向けながら回避を続けた。


 狙い通り、ユニコーンの意識がノエルに向く。

 一本角の魔物は彼女の姿を認識して──


 ……攻撃をしない! ノエルの読み通りか!


 この状況でもユニコーンが自らの生態を優先することを読み切ったのは見事と言う他無い。しかし問題は、その先だ。


 このまま近付いて終わりとは思えない。

 必ず次の一手がある。それに反応しなければならない。


 故に俺はノエルの所作を注視する。

 何か合図が有った時、即興で対応できるように集中する。


 殺気を隠し、あくまで視線だけを向けて──



* ノエル *



 ひとまず賭けに勝った。

 しかし安堵よりも緊張感の方が強い。


 私は英雄譚が好きだ。

 幼い頃は毎日のように読んでいた。


 無論、ユニコーンが出てくる話もいくつか知っている。その性質は書物によって微妙に異なるが、いくつか共通点がある。


 ひとつは生娘を襲わないこと。

 そして、その角が意外にも脆いということ。


 例えば泉の聖女クラリスという話がある。

 ユニコーンを従える清らかな少女の物語なのだが、悪しき者に襲われユニコーンが暴走する。


 クラリスは危険を承知でユニコーンに近寄り、いつものように横顔を撫でた。そして暴走が収まったことに安堵すると、心労で倒れかけた。


 咄嗟にユニコーンが彼女を支えようと角を突き出す。

 しかしそれは彼女を支えることなく、ぽきりと折れた。


 角を折られたユニコーンは、クラリスを含む全てを殺した後、力尽きて死ぬ。


 何の救いも無い話だが、似たような話がいくつかある。

 起源が同じか、あるいは角の性質を知る人達による創作か。


 どちらにせよ、今最も可能性の高い方法はこれだ。

 

 一歩、また一歩と近寄る度、心臓が跳ねる。

 私は直ぐ傍にまで近寄ると、息を止め、魔物の横顔に触れた。


 こうしていると、ただの白馬を撫でている気分だ。

 ただひとつ違うのは鋭い角が生えていることだけ。


 この角をへし折る。

 その先については、極めて不服だが祈るしかない。


 いいや、違う。これは祈りではない。

 私は信じる。この選択が正しいこと、そしてアルスが期待通りに動いてくれること、シャロのような美少女の命運が今日ここで尽きるわけがないということ。


 一度、息を整える。

 それからユニコーンの角に両手で触れ、


「アルス!!」


 叫ぶと同時、一気にへし折るべく力を込めた。


 強い抵抗が両手に伝わる。

 次にガラスが割れるような音がした。


 英雄譚で目にした通り、

 その鋭い角は、あっさりと折れてくれた。


 私は咄嗟に魔力を振り絞り、自分と魔物を隔てるように結界を張る。同時に細い結界で自分を後方へ突き飛ばした。


 時間の感覚が緩やかになる。

 角を折られた魔物が悲鳴をあげ、角が有った場所の周辺に膨大な魔力が集まっているのが、見える。


 あの魔力量は危険過ぎる。何が起きるか全く読めないが、それが発動すれば必ず死ぬと分かる。防ぐには、それよりも早く絶命させるしかない。


 ……アルス急げ!


 内心で叫ぶと同時、私と魔物の間に黒い影が割って入った。

 そして世界から音と色が消える。


 しばらく宙に浮いているような感覚が続いた。

 とっくに着地しているはずなのに、感覚が無い。


 まだ体感時間が引き延ばされている?

 ぼんやりと思いながら、感覚が戻るのを待った。


 やがて頬に冷たい感覚があった。

 次にキーンという甲高い耳鳴が聞こえた。


 どうやら、私はまだ生きているらしい。

 

 現状を把握しようと目を動かす。

 そこで初めて、自分が倒れていることに気が付いた。


 両手を地面に付いて立ち上がる。

 そして目にしたのは、巨大な穴だった。


「……ありえない」


 恐ろしい量の魔力を見た。

 しかし、この結果は全く予想できなかった。


 何も残っていない。

 ユニコーンと、その先にあった全てが消えている。


 地面は抉れている。

 祭壇も瓦礫も残っていない。


 巨大な大穴が、遥か先まで続いている。

 空の方も、随分と見通しが良くなった。


 やがて崩落が始まった。

 先程よりも広範囲に、激しい音を立てて。


「……シャロは、どこだ?」


 ハッとして周囲を見る。

 おそらく私が無事なのはアルスの力だ。

 だから位置的に考えてシャロも無事なはず。


「シャロ! 聞こえたら返事をしてください!」


 返事が無い。姿も見えない。

 途端に呼吸が乱れ、全身が震え始めた。


「アルス! どこにいる!?」


 あの男が死ぬところは想像できない。

 必ず生きている。そう思って叫ぶけれど、返事は無い。


 代わりに聞こえたのは、魔物の咆哮。

 姿は見えないけれど、大規模な魔力の発生に興奮した様子が感じ取れる。


「……」


 賭けには勝った。

 ユニコーンは跡形もなく消え、私は生きている。


 しかし、それ以外が、何も残っていない。

 


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