ユニコーン聖女は絶望に抗う
眩暈を感じた。
瓦礫を持ち上げる程度、普段なら少し苦しい程度でこなせる。しかし今は状況が違う。ただでさえ多量に消費している魔力が、枯渇寸前だった。
……どうして、こんな状況になったのでしょうね。
集中力が低下して、余計な思考が始まった。
ほんの数日前、国外追放を言い渡されるまでは良かった。
間抜けな王子に麗しい美女を差し出して終わり。
自由になった私は、お話の世界で見たような英雄譚を目指して冒険を始める。きっと多くの困難があるだろうけれど、平民差別が蔓延る窮屈な世界を生きるよりは楽しいと思った。
未来は明るかった。
国に戻った判断も間違っていたとは思わない。
貴族を一人どうにかする程度で、あの子が手に入るなら安いと思った。
そもそも、誰に予想できるだろうか?
王子が裏でこんな計画を企てていたこと。
そして私を国外へ追放した直後に実行したこと。
いや、そもそも逆なのかもしれない。
私を追放する理由など、なんでも良かった。
追放の理由は、準備が整ったから。
きっと私が何もしなかったとしても、何か理由を付けて国から追い出されていたのだろう。
──どうでもいい。
あいつの考えなど、知らない。
私はここを生き延びて、シャロと幸せな日々を生きる。
そもそも、この程度の困難に屈していたら、ラノウルに辿り着くことなど不可能だ。
歯を食い縛る。
その際、シャロの手を握る力も強まった。
彼女は直ぐに握り返してくれた。
それだけで、全身の倦怠感が噓のように消え去る。
「……よし、見つけた」
持ち上がった瓦礫の隙間、見慣れた光。
私は道を作り、シャロに目で合図を送る。
その直後、激しい頭痛に襲われた。
「ノエル!?」
「……魔力切れが近いようです」
軽く息を整えて、重たい身体を持ち上げる。
「……申し訳ありません。一緒に走ってくれますか?
「もちろんだ!」
彼女の肩を摑み立ち上がる。
それから二人で駆け出した。
距離は近い。
体調も足場も悪いが、一分もかからないだろう。
途中でアルスの方を見る。
状況は変わっていない。戦闘中における一分は貴重だが、あの調子なら大きな変化があることは無いだろう。
「ノエル、そこ危ないぞ!」
手を引かれハッとする。
それほど高い位置ではないが、危うく落下するところだった。
「見てられん! 運ぶぞ!」
「運ぶ? ──わっ、シャロ!?」
わわわっ、どど、どういうことでしょう。
シャロの腕に抱かれ──え、え、え、え、え、え?
「……重くないですか?」
「そんなことっ、言ってる場合じゃ、ないだろ!」
……重いんですね。
私は緊張感の無い感想を抱きながらシャロに運ばれる。
茶番はさておき、とても助かる行動だ。
彼女が意外と力強くて助かった。おかげで息を整えられる。
幸せな時間は直ぐに終わる。
シャロは素早く遺物の隣に移動すると、私を降ろした。
「ありがとうございます」
感謝の言葉を述べて遺物を見る。崩落に巻き込まれ瓦礫の下敷きになったものの、その外見は変わっていなかった。
浮遊していないことだけが気に掛かる。
しかし影響を考えても答えなど分からない。
……膨大な魔力と、微かな願い。
お師匠様の教えを思い浮かべ、遺物に触れる。
その瞬間、一気に魔力を吸われる感触があった。
……これは、想像以上に。
思わず手を離す。
そして膝から崩れ落ち、床に手を付いた。
「ノエルっ、大丈夫か!?」
シャロが心配そうな声を出す。
「……大丈夫です」
言葉とは裏腹に、絶望の色が深まった。
この遺物は想像以上に多くの魔力を必要とする。
万全の状態でも起動できるかどうか怪しいくらいだ。
それを今の状態で動かす。絶対に不可能という言葉が頭に浮かび、消し去ることができない。
……考えろ!
爪を嚙み、痛みによって理性を保つ。
……ここで諦めればシャロも死ぬぞ!
内心で叫ぶ。
しかし魔力など気の持ちようで回復するものではない。
故に考える必要がある。
この状況を打開する方法を。生き残る道を。
──アルス!
今も戦い続ける騎士が頭に浮かぶ。
根拠は無い。
しかし触れた感触で分かった。
魔力は個体によって異なる。
聖女とは、この遺物に適合する魔力を有したものだ。
しかし、聖女の力が必要なのは入口だけ。
その先に必要な魔力は、誰が入れても構わない。
聖女を媒介することで、注ぎ込める。
シャロには無理だ。お師匠様の娘であればきっと才能がある。しかし今の彼女からは全く魔力を感じない。魔法は、修練せずに扱えるものではない。
故に、アルス。
不死身と呼ばれる彼は、無尽蔵の魔力を持つ。
無論、底は有るだろう。今の戦闘を見ても、致命傷以外は修復を保留にしている。これは魔力を節約している証拠だ。
しかし、それでも、この遺物を動かす程度の魔力は残っているかもしれない。いや、あいつなら持っているはずだ!
「シャロ、遺物の陰に隠れていてください」
声をかけ、戦い続ける二頭の化け物を睨み付ける。
「絶対に生き残る。そのために、できることをやります」






