演説と狼煙
ノエルが言った通り、王子は演説を続けた。
「諸君、まずは私の話を聞いて欲しい」
オレには学が無い。
頭の方も、きっと愚者に近い部類だ。
それでもノエルが困っていることは分かった。
だから少しでも彼女と同じモノを視て、考えたいと思った。
……不思議だな。
初めて会った時は利用することしか考えていなかった。
その後も、少し話をして、一緒に貴族をやっつけて、一緒に寝た程度だ。
それなのに、彼女の助けになりたいと思っている。
まるで長年連れ添った仲間のように気を許している。
……お師匠様、か。
先ほど王子が死んだと言った聖女のこと。
貴族社会で虐げられていたノエルが唯一気を許していた人のこと。
……ノエル、こんな顔もするのか。
いつも飄々としていた。
ずっと深刻に物事を考えていたオレは何度も調子を崩された。今になって思えば、それが彼女に気を許す一助となったのかもしれない。
しかし今の彼女には、それが無い。
まるで鏡を使って数日前の自分を見ているかのように、激しい怒りが感じられる。
……何が起きてる?
心の中であれこれ考えながら王子に意識を向ける。
「私は次の国王として生を受け、使命を帯びた」
ちょうど、彼が演説を初めてところだった。
「私の使命とは国を大きくすること。そのためにやるべきことをずっと考えていた。これは神に誓って本当だが、醜悪な貴族を解体し、諸君らの税を軽くすることすらも考えていた」
……あいつ、凄いな。
まず思ったのは、その一言。
これだけ多くの人を前に堂々としている。
それに、話を聞く人達も騒ぐことなく耳を傾けている。
「しかしあるとき気が付いた。いくら平民の生活を良くしても国は大きくならない。数多ある歴史が示すようにいずれ滅びる。断じて許容できない。私は由緒あるノルマルド王国を永遠に残したい! 諸君が生きた証を、古びた歴史書の一頁に閉じ込めることはしない!」
王子が声を張る。
正直オレには難しい話だけど、何か圧みたいなものは伝わった。
こっそりノエルの横顔を見る。
彼女は王子の演説が始まる前と同様に厳しい表情のままだった。
……ノエルは、何に気が付いたんだ?
「力が必要だ。それを手に入れた。もはや、この国に聖女は必要ない」
王子はゆっくりと手を挙げる
「我が国は力を得た。この力で世界を統べ、ノルマルドの名を永遠に刻む」
そして、ゆっくりと手を振り下ろした。
それに呼応するようにして隣に立つ角の生えた白い馬が吠える。
──世界が白く染まった。
続いて平衡感覚を失う程の轟音が鳴り響いた。
「……バカな」
ノエルの声が聞こえた。
「……あの魔力は、お師匠様の」
「ノエル、今のはどういうことだ?」
問いかける。
しかしノエルは、オレの声が聞こえていない様子だった。
訳が分からない。何が起きている?
必死に頭を働かせていると、空が割れる音がした。
即座に上を見る。
何も無い。オレの目には、いつもと同じ青空だけが見える。
「……結界が、砕かれた」
しかしノエルには、別の何かが見えているようだった。
その声を肯定するかのように、あちこちで魔物の咆哮が噴出した。
「ノエル! これ、大丈夫なのか!?」






