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ユニコーン聖女は運命と出会う

「ノエル! 貴様との婚約を破棄する!」

「はい喜んで!」


 ──やっと、やっとこの時が来ました。

 苦節、十二年。齢三つで王家にさらわれ……もとい婚約が決まってから今日まで長かった。


 適度に王家の尊厳を傷付けた。

 適度に別の令嬢を煽り王子に接触させた。

 私は、この婚約を取り消すため全力を尽くした。


 なぜ? それは国から追い出されるためです。


 私の両親は、私が七つの時に死にました。

 死因は餓死です。娘を王家に送り出した両親が餓死。とんでもないことです。


 でも貧しい国だから仕方がない。

 諦めようとした時、私は豊かな腹部をお持ちの方々の会話を聞きました。


「平民に貴重な食糧を分けるなんてとんでもない!」


 そうです。私は平民の出身です。

 しかし特殊な魔力を持ち、聖女の資格がありました。


 現在、人類は魔物と争っています。

 国を守るには結界が必要であり、それを維持できるのは、聖女と呼ばれる特別な魔力を持った者だけ。


 古来、王家は聖女を丁重に扱ったそうです。平民も貴族も関係なかったそうです。歴史を学び始めた頃は、まぁなんて素敵な王家なのでしょう、と心から思いました。


 間違いでした!

 おはようからおやすみまで平民差別!


 生き辛いったらありゃしない!

 だから今の私は、王家に対して、こう思います。


 ばーか! 滅びろバーカ!


 でも私は小心者。

 自分から国を捨てるなんて無理でした。


 だって、逃げたら追われます!

 強い強い騎士団に追い回されて、何度でも連れ戻されるでしょう。


 最悪、手足を切断され結界維持装置として運用される恐れもあります。そうです。この国は蛮族ばかりです。喧嘩を売るなんてことできません。


 だから程々に努力したのです。

 その努力が今日、実りました。


「──ノエル、貴様、今何と言った?」


 国中の貴族を集めた社交会。

 百人でも二百人でも入る広々とした空間には、白い衣装を着せられたテーブルが沢山あります。その上には豪華絢爛な食事の数々。一席を用意する資金で、平民の家族ひとつが四年は生きられるでしょう。


 それをガツガツと貪っていた貴族達。

 それから王子と、隣に立っている令嬢。


 あらゆる視線が、私に向けられています。


「……うっ、くっ、うぅぅぅ」


 私は赤い絨毯の上に跪き、わんわん泣きました。


「……わたくし、これまで王家の為に尽力しましたのに。なにゆえ、そのようなことを」


 ぶっちゃけ茶番です。でも大切な儀式です。

 ここで程々の悪人として追い出されなければ、連れ戻されてしまいます。


「貴様がマーリンにした悪行の数々、私の耳に入らぬと思ったか!? だから私は、平民など王家に入れるべきではないと言い続けたのだ!」


 憤慨しておりますが、要するにマーリンという見目麗しい女性と一緒になりたいだけです。


 ええ、ええ、私は醜女ですとも。

 両頬にあるソバカス。この国では珍しい黒髪。背も胸も実に貧相で、とてもとても男好きする容姿はしておりません。


 一方で王子は絶世の美男子。

 その金髪は黄金にも勝る輝きを放ち、空色の瞳には多くの女性を虜にする不思議な魅力があります。


 マーリンも美しい!

 王子と同じ金髪で、私に無いモノを全て持っている!


 ああなんて妬ましい!

 あの王子さえいなければ私がマーリンを──いけません。本音が出ました。


 ともあれ、全て順調です。私は先代の聖女様であられるお師匠様が来る前に儀式を済ませ、無事に国から追放されたのでした。



 *  *  *



 ああ、ああ、なんて晴れやかな空なのでしょう。

 馬車が通る為に整備された道を歩きながら、私は満面の笑みを浮かべます。


 道の両脇にあるのは、どこまでも続く草原。

 風が吹く度に揺れる草花の音は、まるでこれから始まる私の旅路を祝福しているかのようです。


 踊りたい。両手を広げ、童女のように舞いたい。

 その欲求を必死に抑え、私は上品な姿勢でテクテク歩き続けます。


 目的地は、遥か遠方にある国、ラノウル。

 ラノウルには魔物が生み出される大穴がある。その大穴はダンジョンと呼ばれ、放置すれば、無限の魔物が地上へ進出する。これを防ぐ為に建設された国こそがラノウル。冒険者と呼ばれる人々が、命懸けでダンジョンに挑み続ける国。


 ラノウルの別名は、英雄の国。

 美男子はもちろん、見目麗しく凛々しく気高い女傑が集まる国。


 素晴らしい! まさに楽園です!

 是非お近付きになりたい! 美少女バンザイ!


 もちろん、元居た国も悪くはありませんでした。

 女性とは奥ゆかしくあるべき。そんな教育を受けた令嬢達は、それはもう上品に、優雅に、バレないよう狡猾に弱者を虐げ、隙あらば強者を陥れる方々でした。一見大人しそうな令嬢が、しかし裏では山賊も目を見張るようなドス黒い感情を発散しているのです。興奮しますね。


 私は女性ですが、男よりも女が好きです。特に穢れを知らぬ生娘が大好物です!


 このため、お師匠様からは「ユニコーン聖女」と揶揄されたものですが、実に見事な命名です。


 王子と過ごす日々は苦痛でした。

 いつか子を宿すための儀式が行われるのかと思うと、身を引き裂かれる想いでした。


 しかし! 私は逃げ切った!

 これからは自由に生きる! 美少女バンザイ!


 念願の恋を! 始めるのです!

 遍く美少女の柔肌を我が手に! 未来は明るい!

 

 しかしながら、浮かれてばかりもいられません。

 ここまで順調ですが、大変なのはこれからです。


 私の国外追放が発覚した後、お師匠様は激怒するでしょう。

 あの方は一日でも早く後任に役目を押し付け、隠居したいと考えております。だから私は、お師匠様が国から離れるタイミングを狙ってマーリンを唆したのです。


 お師匠様が戻られるのは三日後。

 それから直ぐに騎士団が派遣されることでしょう。


 捕まれば私の計画は水の泡です。

 従って、早々に馬を獲得して国から離れる必要があります。


 もちろん宛はありますとも。

 これから徒歩で丸一日ほど歩けば、小都市べルーサに着きます。そこで馬の一頭や二頭は簡単に購入できるでしょう。


 私は自分の状態を確認します。

 立派なドレスは取り上げられ、着せられたのは平民らしい薄手の白いシャツと、男が着るような黒いズボン。荷物は、親の形見と噓を吐いた小包みだけ。


 小包みの中身は、お金です。

 この十二年間、こつこつ貯めた小銭達です。


 いくらか大金貨に替えましたが、それでもズッシリとした重みがあります。命の重みです。これを失えば私の命は無いでしょう。それくらい金は重要なのです。


 ──と、そこまで考えた時です。


「悪いけど、来て貰うぞ」


 私は、運命と出会いました。

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