勇者パーティーについて行った錬金術師の結末。
「……ッ!! すまない、話があるんだ。」
勇者、クロードにそう言われた時俺は後悔や怒りよりも「ようやくか。」という安堵の気持ちで溢れていた。
「俺、このパーティーを抜けた方がいいんだろ?」
にっこりと笑ってやる。
そもそも、今の俺じゃぁ実力不足もいい所なんだよ。
魔王一歩手前の街にこんなヘボ錬金術師を連れてこられても何にも出来やしないしさ。
「ッ……。実は、そうなんだ。」
苦渋の決断を強いられたかの様に……。
いや、ちがうんだろうな。
本気でこいつは俺を追い出したく無いんだろうな。
その気持ちがわかってしまうからこそ、俺は何も言えなくなってしまう。
けど、ここに居てほしいと願うやつは俺を入れてもお前だけなんだよ。
クロード。
「いいんだよ、別に。俺は弱い。正直、このパーティーから外れるタイミングをミスったと思ってたりする。アハハハハ。」
乾いた笑い声が、この部屋に集まる五人に響く。
1人は聖女、クリスティーナ。
1人は盗賊、メリス。
1人は剣士、ローズ。
1人は騎士、ナイレート。
1人は魔女、パンブレット。
男女比としては、俺を除けば女子が多いそんなパーティだ。
いや、俺を入れても女子が多いな。
まぁ、そんな話はどうでもいいか。
正直、このパーティーに俺の居場所はない。
俺が必要だったのはこの五人が揃うまでだった。
その時は足りない場所をサポートとして入る。
まぁ、言えばサポーターだな。
そんな役割を担っていた俺は完成されたパーティーには不必要な余分でしか無い。
そして俺の技術じゃぁ、もう一ヶ月前に過ぎ去った五つ前の街の品質を作るのがやっとだ。
この町のレベルの品質は逆立ちしても作れやしない。
本当の意味でお荷物と成り果てているんだ。
「本当に、すまない。魔王を倒す後一歩っていうところでお前を置いていくのは俺も辛い。」
「わかってるさ、ああ。けど、魔王は俺という……、」
「お荷物がいては勝てない。でしょう? あなたの実力の適正範囲はとおの昔に過ぎ去っています。」
「ですね、クリスティーナ様。貴方はこのパーティーにとってのアキレス腱です。貴方も自覚しているのでしょう?」
「当然だ。今まで迷惑をかけたな。」
事前に、塩対応してくれって言ってたのにこうしてやられると結構辛いものがあるんだな。
分かりきっていたが不思議と涙が出て溢れてくる。
「お、お兄ちゃん!? 本当に抜けるの!?」
「俺は実の兄じゃ無いんだがな。まぁ、そういうことだ。今度からはただの知り合いになっちまうわけだ。すまんな、メリス」
軽く謝る。
彼女にも伝えたはずだが冗談だと思われていたみたいだ。
そっか、そうだよな。
勇者パーティー発足時から間もない頃に入ったんだ。
この中じゃぁ、クロードの次に付き合いが長い訳だしそう簡単に勇者パーティーを抜けると思ってなかったんだろうな。
「本当にすまない、これはせめてもの……。」
言葉を濁し、目から涙を流しながら小さいとは言えない皮袋を渡してくる。
本当に、これで別れと思うと俺も涙が出てきそうだな。
「あんがとよ、じゃぁな。俺は一足先に村に戻っておくかよ。またな!!」
せんいっぱい、元気にそういうと俺は宿屋から出た。
「……、おい。」
「お前が話しかけてくるなんて久し振りだな。ナイレート」
「そんな事ではない。貴様、死ぬつもりだろ?」
その言葉を聞いた時、驚きより先にやっぱりバレていたか。
という、思いが強かった。
「それでどうした? 止める気も無いんだろ?」
「ああ、当然だ。だがな……。」
ザッ、ザッ、ザッ。
俺に近寄ってくる。
「一つだけ、言っておきたいことがあってな。貴様、少なくともこのパーティーを狙ったおこぼれのハイエナではないだろう。良く、ここまで付いてこれたものだな。」
「親友が、命懸けの旅に赴くって言うんだ。友なら手を貸すよ。普通な。」
「そうではない、世間では勇者の汚点、世界一のハイエナとまで言われている貴様が良くここまでついて来れたと言ってるのだ。」
他の、頭お花畑の奴らは気づかなかったんだろうがこいつは気づいていたか。
やっぱ、俺はこいつが嫌いだ。
「他の奴らには言うなよ。」
「ふっ、言うわけなかろう。言ってしまえば貴様を侮辱するだけだ。」
「そうか、ならいい。」
「では、一つだけ。俺から貴様に伝えておく事がある。」
「なんだ?」
「貴様の在り方は未熟で闇に包まれていた私の騎士道を照らし出す光の様だった。他者からなんと言われようと己を持っていた貴様のその正義のあり方は私の理想の一つとも言える。この旅は本当に有難う。」
「よせ、そんなんじゃない。自分のやりたいことをやっただけだ。」
そう言って、俺は独り歩き出す。
街を出て、村を通り、魔王城のそばまで。
「キサマ、ユウシャぱーてぃーノモノダナ!! ワレハシテンノウノヒトリ!! 『ゴウワンノデリブッド』ダ!!」
長い口上を聞く気はない。
キサマ、と言われた瞬間に俺は懐に忍ばせていた魔女謹製の毒薬を投げ捨てていた。
無味無臭の即効性の毒。
それは急速にデリブットと彼の体を蝕み人である俺もすぐ死ぬのだろう。
俺の健闘というにはあまりに呆気ない死ではあるが、その行動により勇者たちにとって最も難関であったはずの四天王は倒した筈だ。
近接戦を挑めば力で圧殺され、魔法は効きづらい。
弱点は毒のみというそんな四天王を。
ここまでだ。
俺の冒険は。
あとは、任せたぞ。
世界を救ってくれ、クロード。
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これより一ヶ月後。
勇者は難なく魔王城まで辿り着き、苦戦の末に魔王を討伐した。
そのことは、各国でも大きく取り上げられて速報一面に大々的に乗る話だった。
そこに、彼の名前はなかったが。
また、勇者パーティーは魔王を討伐したのち、報酬として勇者は王の直属の部下に、盗賊はギルドの頭領に、聖女は神殿の大司祭として名を馳せ、剣士は彼女の親友と共に護衛役となった。騎士は魔女と結婚し片田舎で幸せに暮らした。
めでたしめでたし。
結末の解説
勇者は国王の部下という名前の鎖に繋がれていいように利用されます。
盗賊は本来なる役職だったものに少し早く着いただけ。
聖女は宗教の偶像という形で監禁幽閉されてます。
剣士は聖女のためと言われて宗教の剣となり事実を知らないまま無実の人間を殺しています。
騎士と魔女はそんな事態にいち早く気づき何もできず逃げています。
追記、本文一部修正しました。
感想で指摘を頂き一部修正しました。(感想ありがとうございます)
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