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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第九部:大結界の中心
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浮遊兵器の迎撃手段


「まぁ、そんなシロモノなら戦闘には使えないでしょうね。と言うか、そもそも遠くに行くってだけで大変ですよ」


パジェス先生の例え話の通り、ヴィオデボラ島の断崖を往復するだけの『艀』なら魔石の消費が激しくても供給に問題は無いけど、『遠くに行く』ことが前提の乗り物なら話は別だ。

古代のバシュラール家は、転移門が使えなくても飛翔艇で島と大陸の間を往き来出来たはずだけど、問題は乗り物としての大きさだろう。


空飛ぶ艀を見てアプレイスが思いついた『空飛ぶ定期乗合馬車』が実現不可能だとマリタンに却下されたのも、デカいゆえの魔石消費量の問題だった。

『浮遊兵器』だって、少し移動する度に着地して魔石を積み込んでたりしたら兵器としては役に立たないだろうし、そんなおバカな運用になってるはずは無い。


いや待てよ・・・


だったらルリオンの地下に温存されている浮遊兵器は、世界戦争でどうやって使ってたんだ?

以前にミルシュラントの王室が造らせた『魔馬で引く馬車』のように、『試してみたら使い物にならなかったから温存されていた』という可能性も無いとは言えないけど、そんな都合の良い解釈はするべきじゃないだろう。


「でもねクライスさん、浮遊兵器はサラサスからここまで普通に飛んでこられるはずだよ。それぐらい出来なきゃ、浮遊兵器を大空の頂点にして『八面体』の大結界を生み出すっていうエルスカインの計画には力不足だからね?」


そりゃそうだな。


空高く舞い上がるのは、まず平面的に大結界が起動を始めて魔力の供給が行われるようになってからで間に合うとしても、サラサスからアルファニアまでの距離だって相当にあるのだ。

仮にラファレリアまでの道中で頻繁に魔石を補給する必要があるとしても、エルスカインがそれを準備していないはずは無い。

必ず実用的に使う方法があるはずだ。


「だとすると...」

「魔力触媒ですね、先生!」


俺も答えを言い掛けたのに、シンシアに先取りされてしまった。

チョット悔しいぞ。


「うん、シンシア君。恐らくそうだと思うよ。触媒鉱石で取り出す魔力を大幅に引き上げてるんじゃないかなってね。ただ、そうなると必要なのは爆発的な反応じゃ無くて、一定の魔力を継続的に取り出すことでしょ?」

「ええ」

「だからエルスカインと言うか古代の人々は、きっと触媒の反応を利用した『魔力反応炉』を完成させていたんだと思うな!」


「魔力の『炉』ですか先生? 『薪』の替わりに高純度魔石をくべて、触媒鉱石を反応させながら力を取り出すんですね?」

「多分ね」

「なんとも贅沢な炉ですね、先生...」


そこまで行くと、もはや魔石は『消耗品』と呼ぶよりも、薪や水や食料なんかと同じように日々『消費』していくモノだったのだろう。

南部大森林に埋もれていた『魔石サイロ』も大きな街なら、きっとごく一般的な施設だったに違いない。


いやはや、古代の魔石事情についてはとっくの昔に理解してるつもりでいたけど、標準魔石を『高純度魔石』と認識していた俺たちの感覚で、薪代わりに使ってた古代人の感覚を測っちゃダメだな・・・


「もちろん可能性としては、古代社会にもっと画期的な動力源が存在していて、浮遊兵器がそれを使ってるってことも考えられるよ? だけど、これまでに聞いたエルスカインの行動や大結界に関する計画の組み方、それにロワイエ卿の研究に基づく魔力触媒鉱石の扱いなんかを鑑みると、触媒を使った『魔力反応炉』を使用してる可能性が一番高いと思うんだ」


パジェス先生がそう言うと、伯父上は少し怪訝そうな顔をした。


「しかしながらパジェス殿、それは少々不思議な気も致しますぞ?」

「と、仰いますと?」

「もしも触媒鉱石を使った魔力反応炉という高度な魔導技術の粋が浮遊兵器に搭載されているとするならば、つまり古代社会では危険な触媒鉱石を実用レベルで活用出来ていたという話ですな」

「ですね」

「となれば、私ごときの魔力触媒に関する研究など、エルスカインにとっては不要なものだったのではありませんかな?」


「そんなことはありませんよロワイエ卿。さっき言った通り、エルスカインには新しいものが産み出せないでしょうからね」

「あぁ、そうでしたな!」

「僕の推測通り浮遊兵器に触媒を利用した魔力炉が搭載されているとしても、エルスカインに出来るのは『それを使う』ことだけです」


「なるほど、なるほど。エルスカインには魔道具を複製することも出来なければ、大結界の起動用に魔導機構を作り変えることも出来ないと...」


「ええ、ヤツらにそれが出来るのなら、以前から他のモノにも使われているハズですからね?」

「確かにパジェス殿の仰る通りでしょうな。そして、古代の高度な魔導技術をもってしても、『魔力反応炉』はそれほど小型化できるシロモノでは無かったということですな!」


「えっ? 伯父上、どうしてそうだって分かるんですか?」


にこやかな伯父上が確信のある口調というか、さも皆が知ってる既知の事実のように言ったので、少し面食らった。

小型化できないのが本当なら、攻めるこちらにとっては有りがたい話だろうけど、根拠無しに楽観的な想定はしたくない。


「それはねライノ君、この『精霊魔法を侵蝕する魔道具』には、触媒に関する技術が何も使われていないからですよ。先ほどパジェス殿も仰った通り、有用で使える技術なら他のモノにも使われていることでしょうな。しかし、この魔道具はギッシリと高純度魔石を詰め込んだ小樽を大量に用意して使い捨てていく、という運用のようですぞ」


「伯父上、それほどの魔力を消費する魔道具なのに、魔力触媒の技術が使われてないんですね?」

「そういうことですな」

「しかも、ソレを造ったのはエルスカイン自身じゃ無くて、イークリプシャンの魔道士達だ...」

「ええ、同じ連中が同じ時代に浮遊兵器も造ったのだとすれば、当然ながら『魔力反応炉』の技術も持っていたと考えて問題ないでしょう。なのに使っていないのは使えなかったからだと考えるのが妥当です」

「そうか!」

「まぁ、発明された時期がズレていたと言う可能性も考えられなくは無いですが、この魔道具は戦地に...つまり神出鬼没な勇者が現れた場所に、素早く送り込んで対応することを優先して造られたように思えますなぁ」


なるほど納得した。

俺にも直感的に伯父上の解釈が正しいように感じられる。


ヤツらの使う橋を架ける転移門(ブリッジゲート)は、何かを連続して大量に送り込むことに関しては精霊魔法の転移門よりも優れていると言えるけど、『橋』の例えのごとく、架けた橋の通路よりも大きなモノは送れない。

転移門のサイズは、消費する魔力は勿論のこと、事前準備の大変さにも比例するから、無闇に大きな転移門を想定すれば、どうしても機動性は損なわれてしまうだろう。

破城兵器として巨大で強大な(いしゆみ)を造ったという昔話は聞くけれど、そういうモノが役に立つのは動かない敵を相手にする時だけだ。


「僕もロワイエ卿の意見に賛成だね。聞いた限り浮遊兵器はかなり巨大な乗り物だと思える。恐らくは『空飛ぶ船』って様子じゃあ無いかな?」


「地下に埋まっているので実際に見てはいませんけど、老魔道士に聞いた内容からしてそうだと思いますよ」

「もしも外洋船並みの大きさなら魔力反応炉を動力源にすることも問題ないだろうね。毒ガスの容器を大量に積めるだろうし、サラサスからアルファニアまで一息に飛んで来られるだろうさ」


パジェス先生の口ぶりは、その事実を脅威に感じているって言うよりも、むしろそうで有ることを期待しているように感じられる。

もしかしたら、浮遊兵器が魔力反応炉を積んでいることに攻略の鍵があるのか?


「でも...だからこそ勝てると思う。そりゃぁ絶対とは言えないし、イチかバチか、事前練習もテストも無しで、一発勝負だよ? だけど僕は、この作戦の勝算が高いと思ってるんだ」


「やっぱり魔力反応炉が鍵なんですね?」


「うん。なんとなくクライスさんも想像が付いてると思うけど、こっちの予想通りに浮遊兵器が魔力反応炉を動力源にしてるなら、この侵蝕魔道具の反転回路を改造した武器で叩き落とせると思うのさ」


そう言ってパジェス先生は、マリタンと伯父上の手によってほぼほぼ分解されつつある侵蝕魔道具の最上部・・・先ほどの話では、まさに反転魔法の魔導回路が組み込まれているハズの辺り・・・を指差した。


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