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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第二部:伯爵と魔獣の森
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<閑話:アスワンの困惑>


: もー、結構いい感じで面白かったのにー!


: お前さんを連れ戻したのは、別に意地悪ではないぞ。

それに、お前さんがずっと一緒にいるとライノが勇者として育たんだろう? 

精霊魔法を一通り教えたら、あとは彼自身に任せるべきだな。


: お兄ちゃ、ライノはアタシが側にいるからって気を抜いたりはしないよー? アタシも今回、ほとんど手出しをしなかったしさー。


: だが顕現している体の維持に力を使いすぎていては、それこそ、いざという時に手助けできんだろう?


: もちろん、ライノをもうちょっと強くしたら、そんなに大変になる前に戻るつもりだったよー。

それにアスワンが心配してたのは、ライノがアタシの力に依存して勇者の力を育てにくくなるんじゃないか、とかそーゆーことでしょー?

ライノに限ってそれはないからだいじょーぶ。


: まあ、なにかに興味を持てと言ったのは儂だがな...それにいきなりあれほどのものとぶつかるとは思わなかったわい...

しかし、ライノと戯れているのはいいが、あまり馴染みすぎると別れが辛いぞ? 

たとえ勇者やエルフといえど、我らと比べれば人族の生涯は、葉先の朝露のように儚い。


: まーねー。


: しかし、だからこその魂の輪廻ではあるがな。なんにしても、そこは、我らには触れることのできぬ領域だ。


: そーねー。


: とにかく...あの転移魔法陣の件では、儂にも少し考えるところがあった。調べてみる必要もあるし、お前さんにやって欲しいこともあるのでな...これは儂よりもお前さんの方が向いておる。


: へー、アスワンからそんなこと言うなんて珍しー。


: しかしお前、以前は人の世のことなど、トンと興味を持っておらんかったのに、ライノと知り合って以来、様変わりしたのう。


: アタシはさー、きっと飽きてたんだと思う。


: 飽きたとは?


: 大精霊ってさー、力が大きいから、ちびっ子たちみたいにすーっと消えていくこともなくて、ずっと存在し続けているけど、もうずっと眠ったままのも沢山いるよねー。


: ああ、それはそうだな。もうしばらく顔を見ていないものも多い。


: 最近アタシも分かってきたんだけどさー、あいつらって存在し続けてることに飽きちゃったんだよー。


: その飽きるという感覚か...その意味がよく分からん。


: アスワンはねー、目的意識だっけ? 自分がやるべきことを抱いているから飽きないの。

アタシも昔はそうだったかなーって思う。

あの場所にいた頃はねー。

ずっと、そーゆーのが消えてたんだけど、また面白くなってきたのー。


: あやつのどこが、それほどお前の興味のツボにハマったのかは知らぬが、あやつの魂は特別だぞ? 


: うーん、それは分かってるんだけどねー。


: 元来、勇者となるものの魂は強いが、あやつの存在の強さは並ではない。おそらく、これからも先々で(えにし)のある存在を、自分でも気づかぬままにその周りに引き寄せて、新たな運命の網を紡ぎ出してしまうだろう。


: ライノってさー、アタシに依存するどころか、人のくせにアタシを守ろうとするんだよ? 

命がけで稼いだ自分のお金で、寒くないようにって暖かい服を買ってくれたり、美味しいものが食べられるように気遣ってくれたりさー。

笑っちゃうよねー?


: それが面白かったのか?


: ...ううん違うー。


: ではなんだ?


: 『嬉しい』っていう気持ちをものすごく久しぶりに感じたのー。

それがなんなのか、すぐに思い出せなかったくらい久しぶりに。

最初は、ただ面白いと思ってたけどさー、だんだん後から、それが嬉しいってことだって分かってきた。


: ほう。


: アスワンって、誰かに守られたことある?


: 知ってて聞くな。あるわけ無かろう。


: だよねー。アタシだって人から守られるなんて初めてだったし...なぜだか良くわかんなかったしー...。

でもアタシはライノに守ろうとされたから。

ライノの妹になれたから。


: 意味がよく分からんが、お前さんが納得してるのならそれでよかろうな。


: 『家族』なんて言葉、概念を気にしたこともなかったけど、知ってみると、いいものなのさー。

アスワンだって、いまのアタシにとっては家族みたいなものだって思えるしー。


: ...そうか?


: 今、すっごくイヤそうな表情したー!!!


: 気のせいだな。


: まー、とにかくそれ以来のアタシはライノの妹なのさー。


: ふん、魂もまた輪廻を繰り返すうちに、忘れえぬものをその内に重ねて変わっていくのかも知れぬな。


: ...アタシ、昔はさー、アスワンが一生懸命に現世と関わろうとしてるのを見てて『バカだなー』とか思ってたんだよね。


: おい。


: だってさー、精霊が人の魂と直接関わっていたって、それ自体は何も生み出さないじゃん?


: まあ、それはそうだがな。所詮、我ら精霊が成し得ることなど、その程度のものだ。だが、それがわかっていてもなお、なすべきと考えたことを見過ごすことはできぬ。


: だからアスワンはさー、一生懸命に勇者の魂とか見つけ出して、彼らを通じて関わろうとしてきたんだろうけどさ...

でも、いまはアタシも、アスワンがやってきたことや、これからもやろうとしてることの意味が、なんとなく分かってきた気がするんだー。


: ほおう? それはまたどういう風の吹き回しだ?


: わたしたちってさあ、自分が気に入った場所や気に入ったものの近くにいて、それをぼーっと眺めてるだけで何年も、ひょっとしたら何十年か経ってたりしててさ。

で、そのお気に入りの何かが消えたり変わったりしたら、別の面白いものが出てくるまで寝てるか、何かを探してフラフラ漂うか...ずっとその繰り返し?


: それはそんなものだろう。

精霊とはそういう風に生まれついているものなのだからな。


: うん。でも精霊なんて、みんなバラバラじゃない?

好きなもの、好きなこと、いい場所にずっとくっついてるのが好きか、いつも新しいものを探してるのが好きか、姿もありようも、みんな本当にバラバラー。


: 精霊だと言うこと以外に共通点がないくらいにな。


: そーなのよねー。

気に入ったことにしか向き合わない。

それ以外の物事には興味が湧くことすらない。

それが精霊の共通点だったかなー、っていまは思う。


: ふむ。それもそうか...


: でも強い精霊ってさ、知恵をつけて言葉を操れるようになってくると、大抵、人族の姿を取りたがるようになるじゃない? 

昔はアタシ、あれも不思議だったのよねー。


: そう言えば、お前さんはずっと...


: それ口にするの禁止。


: そうか?


: でも、いまはわかるんだー。自分が気に入ったものに近い存在でいたいって感覚?


: そうかもしれんな。

それに、近しい姿でいる方が、わかりやすくなると言う気もする。


: アスワンってさ、他の精霊たちと違って『世界そのもの』が好き...んー違うかな? 

『魂持つ者たちが生きている世界』が好きなんだねー。


: そうか? ...いや、そうだな。きっとそうなのだろう。

なぜと聞かれても答えられんが、儂が変わり者だったことは否定できんだろうな。


: だからー、アスワンがポルミサリアを救うためにあれこれやってるのに首を突っ込んだのは、ただ、ひょっとしたら面白そうなことがあるかもしれないからってだけー。

つまらなかったらすぐにやめればいいしー。


: いかにもお前らしいな。


: でも、いまはなんだか、ポルミサリアで生きてる『魂もつ者たち』が好きになっちゃった。

だから、アタシもこの世界を救う何かをしたいかなー。


: 前言撤回だ。まったくもってお前さんらしくない。

まあ、これまでのお前さんらしくはな...これもまた、『変わっていく』ということの一つなのかもしれんが。


: アスワンと同じ気持ちかどうかは分かんないけど、アタシもね、いまはこの世界が好きなのー。

ライノだけじゃないよ...この世界の全部が好きー。


: ふむ、そうか...人も世界も精霊も、時と共に移ろうものなのだろうな。他の万物の理と同じように。


: どっちにしてもさー、いまのアタシは、器としてのこの世界だけじゃなくて、ライノや関わった人族たちも助けたいかなー?


: それならそれで構わんと思うぞ? 

どうせ正しい答えなどないのだから、自らが思うように行動すれば良いのだ。


: だからさー。アスワンに一つ、お願いがあるんだけど...


: 『ひとつ』だと? それは『いつもながら』の間違いであろう?


: ぶーっ、アスワンのいけずー!

いっつも、一言多いのよねー。


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