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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第九部:大結界の中心
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小樽の中味


精霊魔法を侵蝕する魔道具のフイゴ部分に収まっていた小樽が、鹵獲した木箱の中に幾つも入っていた中味不明の金属製の樽と同じモノだってコトは、それは間違いなく途中で『交換する』ための部品・・・言い方を変えれば『交換する必要がある』部品だろう。


現地で危険を感じて、最後に慌てて収納した『大きい方の樽』の中味については、魔力触媒鉱石だと想像してるけど、アレは単純に、作戦が終わった時か失敗した時に周囲を全て吹き飛ばして敵を道連れにするとか、なんなら味方ごと抹消して証拠を隠滅するとか、そういうエグいシロモノだと考えている。


それに対してこちらの『小樽』は、武器に魔力を供給するためのパーツだ。


簡単に連想すれば『魔石ランプに使う魔石』と同じような感じか・・・って言うか、中味は高純度魔石だとしか考えられないな。


< じゃあ小樽の蓋を開けますわ >

< 頼む! >


伯父上とパジェス先生にマリタンがこれから蓋を開けることを告げ、上空から固唾を飲んで見守る中、マリタンは液体金属の障壁を自分の周りに張り巡らせると、その奥から魔道具に向けて銀の枝を伸ばした。


< はい、開けたわ >

< えっ、もう! >


固唾を飲んでいたけど、それをゴクリと飲み込む間も無くアッサリと蓋が開けられて、言ってはなんだけど少々拍子抜けだな。

いや、決して凄いことが起きて欲しかったワケじゃないんだけどさ・・・魔道具自体はまだ稼働中なんだから、動いてる魔道具の蓋を開けるって言うのは、相当リスクのある行為に思えていたのだ。


< だって別に複雑な錠や鍵なんて無かったわよ兄者殿? 留め金を外すだけで開いたのだから、この小樽の蓋は頻繁に開け閉めするモノだってこと、ね! で、中味は何だと思う? >

< そう勿体ぶるなよマリタン。もう見えてるんだろ? >

< ええ。多分みんなの予想通りのシロモノだわ >


そう言われて、シエラの鞍の上に座っているシンシアが俺たちの方を振り向きながら声を上げた。


「樽の中味は高純度魔石ですね!」


そうシンシアは口に出しつつ、ちゃんとマリタンにも聞こえるように指通信も送っているから、俺には耳からと脳内に直接響く声が同時に聞こえている。

まぁ、別に困りはしないが。


「やはりそうであったか!」

「予想通りだねロワイエ卿、あの小樽は魔石補給用だよ」


今し方まで顔色の悪かった伯父上も予想通りだと元気な声を上げ、パジェス先生も同調した。


< ですがシンシアさま、いま樽に残っている魔石の量はごく僅かですの >


マリタンが続けて報告してくれる。

あの魔道具にとって、高純度魔石の入った小樽は、いわば弓兵にとっての矢筒のような存在だ。

いくら何でも、最初から空っぽに近い状態で戦闘を開始したりしないだろうな。


「えっと御兄様、普通だったら魔道具を動かし始める時には、魔石を満杯にしてるはずですよね?」

「だな。つまりは、もう大部分を消費してるってことだ」

「えっ、なんの話なのクライスさん?」

「あぁパジェス先生、マリタンが言うには、小樽の中にはもう僅かな魔石しか残ってないんだそうです。恐らく伯父上の領地での...短時間の戦闘だけで使い果たしてしまったのだろうと」

「なるほどねぇ」

「いやはや、それは凄まじく贅沢な魔道具ですな!」


< ねぇ兄者殿。ロワイエ卿の屋敷で攻撃を受け始めてから兄者殿が反撃して革袋に収納するまでの時間と、ここで出してからの稼働時間、それを全部足し合わせても四分の一刻にも満たないのよ? >

< そんなもんか?! >

< ええ。随分と魔力を大食いする魔道具だわ、ね? >

< さすがはエルスカイン秘蔵の古代兵器って感じだよな... >


小樽と言っても、ジョッキに数杯分のエールが入る大きさだ。

それいっぱいに詰まっていた高純度魔石を、あの短時間で使い果たしたのだとしたら、とんでもない魔力食いってことになる。


< だって古代の魔道具なんですもの兄者殿。バカみたいな魔力消費でも不思議じゃないわよ? >

< それにしても、『橋を架ける転移門(ブリッジゲート)』どころじゃないぞ。ホイホイ使えやしないだろうよ >

< そう? ヴィオデボラ島で見た浮遊桟橋も、魔力効率は似たようなものじゃ無いかしら? >


あの浮遊桟橋が島の天辺と海面を往復するために、高純度魔石を五百個くらい使うって話だったっけ?

小樽の外観から推測すると中に高純度魔石が百個くらい入りそうだから、小樽が四つか五つあれば浮遊桟橋を動かせるってことか。


デカい外洋帆船(キャラック)のセイリオス号・・・当時はアクトロス号って名前だったけど・・・を、堕ちたら確実に死ぬ高さの断崖の上まで浮き上がらせる巨大魔道具と、鍛冶師の仕事場に置いてある炉よりも小さな魔道具を一刻ばかりの間動かして消費する魔力量とが、大差ないってのは本当にビックリだよ。


しかもコイツは、木箱の中に小樽を何個も納めて持ち込んであったことからして、戦闘中に何度も取り替えながら使うことが前提なのだ。


< ねぇ兄者殿、いま話している間に、最後の魔石も樽の中から魔道具側に呑み込まれちゃったみたい、よ? >

< マジか。早いな! >

< 凄い消費速度よね。コレって仕事率で言えば浮遊桟橋よりもスゴいかもしれないわ >

< かもなぁ... >

< ですが御兄様、これまで使われなかった理由が魔石の消費量の多さとは思えないですよね? >

< ああ、やっぱりシンシアもそう思うのか。もしもそうだったら優先順位がおかしいって話だからな >


シンシアも同意見か。


精霊魔法の侵蝕は、確かに贅沢でとっておきの対勇者兵器ではあるだろう。

でも、これまで使わずに温存してきた理由が扱いの難しさじゃ無いとしても、『魔石の節約』のためだとも思えない。


やっぱり何か他の、もっと本質的な理由があったんじゃないだろうか?


確かに今、エルスカイン達は高純度魔石のストックが心許なくなりつつあると推測できる。

だけどそれは『大結界』を起動させるためにこそ大量に必要なのであって、日々の行動に支障を来すレベルでは無いはずだ。

それに、あの老魔道士は『魔石を節約する傾向にある』と言ってたけれど、勇者を斃すためならエルスカインは惜しまないだろうと思える。


「とりあえず魔石を消費し尽くしたってことは侵蝕魔法が動きを止めるよな? もう近寄っても大丈夫なんじゃ無いかな?」


「ライノ君、理屈としてはそのはずだが、停止後にも影響がどの位残るのかは分からないぞ?」

「いや伯父上、他の二つをガオケルムでぶった切った時は、すぐに気配が消えた感じがしたんです」

「ふぅむ、ならば大丈夫か...」


伯父上の言葉を聞き、シエラを地表に向けて降りさせようとしたシンシアが不意に声を上げた。


「あれっ?」

「どうしたシンシア?」

「御兄様、『精霊の視点』で地表を眺めて下さい。いつの間にか『ちびっ子』たちの姿が見えなくなっていますよ」


シンシアに言われて、俺がぐっと目力を込めて精霊の視点で荒野を見下ろすと、確かに例の魔道具を中心にちびっ子精霊たちがいなくなっている。


勿論、この付近からちびっ子たちがいなくなるのは当然のことだ。


これまでもエルスカイン一味が魔法を使ったり罠を仕掛けたりして、ちびっ子たちにとって『不快』になってしまった場所からはちびっ子たちの姿が消えていたし、原理は分からないものの精霊魔法を侵蝕する魔道具なんて、漂うちびっ子たちにとっては不快極まりなくて当然だろう。


だから俺は革袋から魔道具を出した後、付近からちびっ子たちの姿が見えなくなっていくことに特に疑問も抱いていなかったのだ。

それに精霊魔法の侵蝕と同時に、俺自身の『精霊の視点』が弱まってるせいもあるだろうと思ってたからね。


だけど、今回ちびっ子たちが姿を消していたのは、地表のこの一帯だけじゃあ無かった。

現世(うつしよ)と重なる部分の『精霊界』からもちびっ子たちの姿が消えていたのだ。

これはもう好き嫌いとか快不快とかじゃなくて、ちびっ子たちが『その場にいられない』程のなにかが、あの魔道具から周囲に発散されたとしか思えない。


そう言えばパルミュナが俺と同行し始めて、最初に山道で精霊魔法を教えてくれている時に、『魔法の種類によっては使えない場所というのもごく稀にある』ってなコトを言ってたよな? 

確か、魔法の発動に精霊の力を借りる関係だとかなんとか・・・


つまり、精霊魔法を侵蝕した仕掛けはソレなのか!?


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